僕は…君が為に裏切り続ける…4


 スザクとユーフェミアに驚かされてばかりだったルルーシュだったが…
これから先、『黒の騎士団』ではなく、彼らと共に自分たちの暮らす世界を作って行かなければならない事となる。
その為に…どう云った策を施すべきか…
スザクに渡された現在のルルーシュの手持ちのコマを確認する。
完全なる少数精鋭だ。
そして、表向きの戦力は完全にスザクの『ランスロット』頼りとなる。
それに…『黒の騎士団』のデビューの際、かなり派手な演出をしているし、その前に、スザクを救い出す際のインパクトは強かったであろうことは解る。
残してきた『黒の騎士団』をどうするべきか…と云う点だが…。
今の時点では下手に動くよりも、『黒の騎士団』の動きを見極めることが先決だろう。
と云うのも、『キョウト六家』の桐原との交渉を成立させたのは『ゼロ』である、『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』だ。
桐原自身、藤堂他四聖剣が加わったとはいえ、シンジュクにいたテロリストグループに対してどれ程の期待を持っているのか解らない。
少なくとも、藤堂と四聖剣は『日本解放戦線』に身を置いていた。
『黒の騎士団』デビューの際、フジのあの、テロ騒ぎの中、『日本解放戦線』に対するイメージは世間的には悪くなっていると考えるのが妥当だし、藤堂がその事にも気付かないような相手だとしたら、ルルーシュとしてもわざわざ危険を犯してまで救い出す価値はなかったと云う事だ。
藤堂鏡志朗…今回、ここまでの下準備をしたスザクの師匠だ。
そして、枢木ゲンブに殺されそうになったルルーシュ達兄妹の命を救った人物でもある。
出来る事なら、共に戦える人物であって欲しいとは思っていたが…
「スザク…」
頭の中で色々と考えながら、ルルーシュがこの度のイレギュラーを起こした張本人の一人に声をかける。
「何?ルルーシュ…」
これまで、『ゼロ』に対しての接し方と全く違う…スザクの態度に多少の違和感を覚えながらもルルーシュは言葉を続ける。
「俺は…『ゼロ』として…『黒の騎士団』を使って、お前の…師匠だった…藤堂を引き入れている。勿論、『黒の騎士団』のメンバーとしてだが…」
ルルーシュの言葉に…スザク自身もはっとしたような表情を見せるが…それはすぐに消えた。
スザク自身、ブリタニア軍に身を置いた時点で、あの当時、スザクの周囲に似た者たちすべてがスザクの敵となる事を覚悟していたから…
「別に…誰であろうと、ルルーシュの敵は僕の敵だ…。藤堂さんがあんな連中と同じだとするなら…僕は…迷ったりしない…」
スザクがきっぱりと言い放った。

 スザクはこれまで、日本人から裏切り者として見られている。
ブリタニア軍の中でも決して、いい感情を持たれてはいないだろう。
ブリタニア人からも、名誉ブリタニア人からも…
「スザク…すまない…」
ルルーシュの口から自然とそんな言葉が出てきた。
何に対する謝罪なのか…正直よく解らないのだが…
でも、本当に自然に口から付いた謝罪だ。
「何を謝ってるのさ…僕は…僕の為に、僕のやりたい事をしているだけだ…。それに、あの、カレンの態度…本当に許せなかったから…。彼女だって…あのシンジュクで…君に命を救われているのに…」
スザクとしては、ルルーシュの『ゼロ』としての実績を見ることなく、『ゼロ』の仮面の下の素顔に対してのみ、感情が働き、あのような態度を取ったカレンが許せなかった。
『ゼロ』の親衛隊長だと…カレンは誇らしげに自慢していたのだ。
それを…舌の根も乾かない内に、『ゼロ』の正体がルルーシュだと知った…それだけで彼女はそれまでの、『ゼロ』への忠誠を失った。
スザク自身、カレンの駆る紅蓮と戦っていて、彼女が『ゼロ』に信頼され、重用されている事はよく解った。
『ゼロ』がルルーシュであると、気づいていたからこそ、彼女への妬ましさもあった。
それなのに…
ふたを開けてみれば、あのザマだった。
「あれは…」
ルルーシュ自身、これまで、どうにもならない程気を張っていたのだろうと思う。
ここにきて、スザクと二人になって、こんな風に話を始めているのだ。
「ルルーシュ…君は…君の目的の為に僕を助け、『黒の騎士団』を作った。彼らだって、人間なんだから…それぞれの思惑はある。恐らく一人一人に聞けば、それぞれの目的で集っていると思うよ…」
スザクはそこまで語ると、一旦、言葉を切って、息を吐いた。
まるで、何かの準備をするかのように…
「彼らは利害一致しただけの集団だ…。ブリタニア人の中にだって、今のブリタニアのやり方に賛同できない人だって大勢いるんだ。その中で実際に行動を起こしている人もいる。それにも拘らず、日本人じゃないから?最終目的が違うから?そんな事で簡単に、自分たちを救ってきたリーダーを見捨てる親衛隊長のいる組織になんて…ルルーシュを任せておけないよ…。本当は…僕、あんな連中でなかったら、僕が君の元へ行く事だって考えていたんだ…」
ルルーシュはスザクの言葉に目を丸くした。
一度は…『ゼロ』の…ルルーシュの誘いを拒絶していたのだ。
それなのに…
ルルーシュの複雑そうな表情を見て、スザクが少しだけ困った顔をして笑った。
「あの時は…ごめんね…ルルーシュ…」
ルルーシュの表情の原因を察知したスザクがそう…一言ルルーシュに告げた。

 正直、昔から、計算外な行動の多い奴だとは思っていた。
非常に、ルルーシュにとっては扱いにくい相手でもある。
しかし、そんなスザクの事を心から信用していたのは…スザクの心の中に裏がなかったと云う事だ。
嬉しければ笑い、イヤな事があった時は素直に怒る。
悲しい時には泣くし…王宮で育ってきたルルーシュにとっては初めて接した人種だった。
だから、どんなふうに扱えばいいのか…よく解らなかった。
どう接すれば、自分たちに害を為さないか…解らなかった。
しかし、ある時、それはルルーシュが難しく考え過ぎていた…と云う事に気づいた。
スザクはただ…自分の気持ちを素直に表して、行動していただけなのだ。
そこに、裏も表もない。
ただ、スザクのストレートな気持ちだけが…スザクを動かしていた。
「なら…聞かせて貰えるか?あの時…俺の手をとれなかった理由を…」
ルルーシュも、ここで、素直な疑問を投げかけた。
ルルーシュ自身、旧日本最後の首相の遺児であるスザクがルルーシュと共に立てば日本人の奮起は確実に促せる。
その目論見がなかったとは云わない。
しかし…そんな、『ゼロ』としての打算よりも強かったのは…
『ルルーシュ』として…初めてできた友達を失いたくなかった…
恐らくはそこだ。
スザクがブリタニアの軍人の姿でルルーシュの目の前に現れた時…どれ程衝撃を受けた事だろう…。
見間違いだと…自分の勘違いだと…そう思いたかった。
おまけに、スザクは平然とルルーシュを守ろうと、ルルーシュを庇って撃たれたのだ。
それが…生きていた事を知るのと、ルルーシュが殺したクロヴィス暗殺の容疑をスザクにかけられた事を同時に知った。
その時、ルルーシュはクロヴィスを殺したこと自体、目を瞑ろうとしたが…
スザクにその罪を着せる事について、目を瞑る事が出来なかった。
だから…シンジュクゲットーでテロ活動をしていたカレンたちを利用した。
元々、ルルーシュをあのクロヴィスのゲットー壊滅作戦に巻き込んだのは彼女たちにだって責任がある。
あれ程、人の犠牲に対してうるさい事を云っていたくせに…
ただの学生だったルルーシュを巻きこんだのは…クロヴィスと、シンジュクゲットーで活動していたカレンたちのテロリストグループだ。
彼女たちが眠れる獅子を呼び起こした…とも云えるだろう。
スザクは…多分、直観的にそれに気づいていた。
「あの時の僕では…君の役には立てなかったから…」

 またも驚く返事だった。
本当にスザクとは…ルルーシュの考えている事を超越した事をしてくれる。
さっきから驚いた顔ばかりするルルーシュにスザクはくすりと笑う。
ルルーシュがこうした、イレギュラーに弱い事はよく知っていたし、そんな時に見せるルルーシュの驚いた顔を見るのがスザクは好きだった。
幼い頃、いつもすました顔をしているルルーシュに対して、何とか、表情を崩してやろうとしていたが…
その方法は意外に簡単だった。
「ルルーシュ…俺は…ルルーシュを守りたい…その気持ちだけでここまで来た。確かに…ナンバーズの軍人では…出来る事なんてたかが知れている…。だから…俺は…」
いつの間にか…スザクの一人称が昔の一人称に戻っている。
それが…何を意味しているのか…今のルルーシュにはよく解らない。
ただ…今のスザクの目は…あの時と同じ目をしていると思った…
あの…小鳥を…巣に帰しに行った…あの時の…
「スザク…本当にいいのか?その所為で…お前はまた、『裏切り者』のレッテルを背負う事になるんだぞ…」
ルルーシュは、これまで見て見ぬ振りをしてきたが…名誉ブリタニア人と云う立場になった者たちは…
確かに、物理的には生活は楽になるかもしれない。
しかし、ブリタニア人の目は祖国を裏切っており、いつ、ブリタニアを裏切るか解らない者として、日本人の目には自分たちを裏切った卑怯者として映っている。
スザクはそこに、更なる『裏切り』を重ねる事となるのだ。
「今更…。それに…俺は裏切ってはいけない者を裏切っていない…。俺の中で一番裏切ってはいけない相手は…ルルーシュ…お前だよ…」
スザクの瞳がルルーシュの瞳を真っ直ぐ捕らえた。
口調も…ルルーシュのよく知る…昔の口調になっている。
懐かしい…心地いい…そして…安心する…。
再会してからのスザクは…ルルーシュには遠い存在に見えていたから…
「ルルーシュ…俺は…お前の為なら…なんだって裏切れるよ…。それが俺の全てだから…誰にも恥じる事はない。否、俺の誇りだって…そう思えるよ…。心の底から…」
強い瞳に…ルルーシュは圧倒される。
『ゼロ』の仮面を被っていた時…
『ゼロ』を見た者たちがその姿と気高さに圧倒されていた。
しかし…目の前のスザクは…その姿に引き込まれるような錯覚を起こしながら…引き込まれそうになりながら…圧倒されている。
そして、ルルーシュらしくもなく圧倒されている姿を見て、スザクがにこりと微笑んだ。
「僕は…君が為に裏切り続ける…」

 その言葉の意味の大きさを…理解しているのだろうか…
でも、スザクの瞳は…その決意は決して揺るがない…そう伝えている。
「スザク…」
嬉しさと…悔しさが入り混じった。
そして…こんな形で宣誓されるこの、今の世界に…切なさを覚える。
「ルルーシュ…僕はね…ずっと君が好きだったんだ…。ブリタニアとの戦争で…僕は君を奪われた…。だから…君を奪い返す為なら…なんだってできるんだ…」
その言葉に込められる…強さと優しさ…
ルルーシュにはない…
そんな強さと、優しさだ。
「ルルーシュ…君自身は取り戻したけれど…このままじゃ、君を危険にさらす世界のままだ。だから…一緒に作ろう…。世界を…。ルルーシュと僕が組めば…出来ない事なんてないだろう?」
幼い頃…二人でそんな事を云っていた。
「スザク…お前にその覚悟があるのか?俺たちが安心して、笑って暮らせる世界…。手に入れる為にはまず、今のこの世界を壊さなければならないぞ…」
「覚悟はある…。生きる覚悟も、死ぬ覚悟も…。君が云っていたじゃないか…『撃っていいのは…撃たれる覚悟のある奴だけだ…』って…。僕は…君のお陰で、生きる覚悟を得た。だから、撃たれる覚悟はあるけれど…死んだりしない…」
スザクにかけた…『ギアス』…
ルルーシュの中でチクリと罪悪感が芽生えて来る。
「スザク…しかし…お前の生きると云う覚悟は…」
スザクに説明してある…ルルーシュの『絶対遵守』の能力…
「ルルーシュ…あれはきっかけに過ぎない…。僕はそれまで…ずっと逃げていたんだ…。僕は…君のかけてくれた『ギアス』に感謝している…。生きて、君を守る覚悟をくれたから…」
「しかし!それはお前の意思を…」
『ギアス』は人の心を捻じ曲げる能力…
それでも…死に急ぐスザクを見ていて…自分が耐えられなくて…
だから…それは…スザクの為ではなく…自分の…ルルーシュの自己満足の為だ…
「ルルーシュ…もう黙って…。僕は…生きる糧を得たんだ。逃げ道をふさいでくれた君に感謝しているんだから…。それに、そんな事を悩んでいる暇はないみたい…」
スザクがルルーシュの開いていたパソコンに目を向けた。
すると…
『キョウト六家』が『黒の騎士団』に力を貸す事を決めたらしい…。
勿論、公共の電波に乗せられているニュースではない。
ルルーシュがハッキングして盗み出している情報だ。
「そうか…とすると…『ゼロ』は…どうなるのか…」
ルルーシュは口の中で呟く。
あれから姿を見せないC.C.の事も気になる。
彼女の事だから、脅されて妙な動きを見せる事はないだろうが…。
ただ、ここで生まれてくる可能性は…
「新たな『ゼロ』が出て来るかも知れないね…。君とは似ても似つかない…」
スザクが端的にその可能性を示唆した。

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