生徒会室…と呼ぶには余りに豪華な作りのブリタニア学園生徒会室…
そこの、生徒会長のスペースでパソコンのキーボードを叩いているのは、このブリタニア学園生徒会長にして、支配者であり、中には『神』と呼ぶ者あり、『陛下』と呼ぶ者ありの…ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア…
この学園はこの眉目秀麗にして、老若男女問わず『萌え♪』の対象にしてしまうこの男によって支配されている。
―――シュッ…
生徒会室にノックもなしに入ってきて、お咎めなしの男がこの、美しき学園の『皇帝』の元へと帰ってきた。
普通の生徒がこんな真似をしたら、この生徒会長は勿論、今、ここに帰ってきた男からも無茶振りな折檻を与えられるのだ。
例えば…
『次の定期試験で俺様の成績を抜いてトップになれ!』(無茶言うな!)
『来月のスポーツ大会は…確か、陸上だね?僕と100m競争で勝ったら許してあげるよ…』(こいつは鬼だ!)
と云うセリフが、決して冗談ではなく、返って来るのだ…
おっと…紹介が遅れたが、この、生徒会室の扉をノックもなしに入ってきて許されるこの男…
ブリタニア学園生徒会副会長にして、この学園の支配者のKnightにして、中には『将軍』と呼ぶ者あり、『閣下』と呼ぶ者ありの…枢木スザク…
ブリタニア学園高等部は既に、この二人の支配下にある。
一応、学園長も、学園の理事長もいるのだが…
何せ、この二人…とにかく学園の名を売る為にいて貰わなくてはいけない…と云う事で、多少の傍若無人は許されている。
尤も、教師たちがツッコミを入れなくてはならない程の校則違反をしている訳でもなく、ただ…この二人、完全に『皇帝陛下』と『その騎士』さながらなのだ。
こいつら二人の行動は、確かにすばらしい…
どんな野望を抱いているかは知らんが、こいつらが目を光らせていれば、学校内の不良どもは大人しくなるか、潔く学校をやめて行く…
尤も、この学園の場合、偏差値が非常に高いので悪い事をする生徒は頭を使って悪い事をするもんだから困ったものなのだが…
しかし、この学園内に、ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア程悪知恵…もとい、相手を黙らせる事に長けた生徒はいない。
また、腕っ節で来られても、体育の教師が感嘆の声を上げるか、自信を喪失して体育教師を辞めるか…と云う程の枢木スザクがルルーシュをしっかりと警護しているのだ。
そんでもって、我らが陛下は生徒会中就任の日…こう仰ったのだ…
『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアが命じる…お前たちは…奴隷となれ!』
まぁ、普通ならその場で全校生徒にフルボッコにされてもある意味仕方ない発言だが…
このルルーシュ生徒会長はその、麗しいまでの美貌と、妖しいまでの色気により、この学校の生徒たちをその場で屈服させた。
こうなると、教師も生徒も関係なかった…
その一言に全校生徒が返した言葉は…一斉に跪き、
『イエス、ユア・マジェスティ!』
その一言を口にしたのだった。
一部の反抗的な生徒を除いては…
否、生徒だけではない…
一部の妙な正義感を持った扇教諭やヴィレッタ教諭などは決して跪く事はなかったが…
その事を見咎められてしまい、ルルーシュやスザクの知らないところで結構生徒たちの手により大変な事となっているらしい。
一応、ルルーシュやスザクがその現場を見かけると生徒たちを注意して、扇たちを庇っちゃいるのだが…それはそれで、色んな意味で悪影響を与えているらしい…。
そう、彼らの崇拝者たちから…
『陛下や閣下の寛大な御心によりこうしてこの学園にいられると云うのに…あいつらは身の程を知らない奴らだ…。そんな連中の授業など受ける価値はない!』
とまぁ、扇教諭をはじめとする、数少ない、反ルルーシュ&スザクを(一応)掲げている教師たちの集団の授業は…基本的に生徒たちがボイコットする事が増えた。
しかしながら、そこで彼らの授業をボイコットする事によって生徒たちの成績が下がる事は陛下や閣下の望まれる事ではない…
否、きっと悲しまれる…
と、結構ご都合主義な解釈で、彼らは自習により、彼らの教科のテストの成績は結構よかった。
それ故に、ルルーシュとスザクも扇教諭たち…生徒が授業をボイコットする教師に対して理事長や学園長に特に何も云わなかった。
ルルーシュもスザクも、別に、彼らがどういう行動を取ろうが構わない。
とりあえず、今いる学園の中で有能な者を世界征服の為に利用させて頂きたい…と云うくらいの野望はあるが…
それに…この学園の支配くらい出来なくては世界征服など出来る訳がない。
有能な崇拝者が現れればこれから先、彼らの野望を果たす為のコマを手に入れる事が出来る。
幸い、一部の生徒や教師の中で彼らの動きに対して不審を抱いている者がいるようではあるが、基本的にはルルーシュとスザクのいいなりの学園だ。
それに…
「完全無抵抗の学園を支配出来ても…将来世界征服する為の布石にはならないからな…」
「相変わらずだね…ルルーシュ…。でも…この学園の抵抗勢力って云ったって、扇たちくらいのもんだろ?カレンやヴィレッタも…もう少し頑張ってくれれば僕だってやりがいがあるってのに…」
「扇が止めているんだろ?どうせ、『あんな人をコマとして扱う事しか出来ない奴と同じ事はしたくない…』とかなんとか云っているんじゃないのか?」
「何それ?ひょっとして…無策?」
「そうとも云うが…。少しくらい骨のあるところを見せてくれないと…」
「確かに…世界征服って…こんなに簡単に行く訳ないからね…」
とまぁ、こんな感じの会話が日々、生徒会室では繰り返されている。
ブリタニア学園高等部の絶対的支配者は…廊下を歩いているだけで大騒ぎだ。
何しろ、眉目秀麗、才色兼備な生徒会長に、やや童顔で、普段は柔和な笑みを絶やさないが…怒らせるとその目を見るだけで石になってしまいそうな眼力を持つ生徒会副会長が並んで歩いているのだ。
注目しない方がおかしい。
以前は、カレンやヴィレッタが…
『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア!覚悟!』
とか云いながら襲いかかってきたが…
最初の内はスザクが顔色一つ変えずに排除してきた。
と云うか、この二人の(一応生物学的には)女…なかなかの腕で最初の頃はここまで、喧嘩に負けた事のなかったスザクは驚きもしたが…
ただ…ルルーシュが何度かこの二人の動きを見ている内に、パターンを分析してスザクに教えてやると、秒殺するようになった…
その内に、(勝手にできた)『皇帝陛下と将軍閣下』親衛隊が彼女たちのゆく手を阻んだ。
彼女たちの目的はあくまでもルルーシュとスザク…
他の生徒たち、教師たちを傷つける訳にいかない(と云う、扇の勘違いな正義感を振りかざした)為、こうして、彼女たちを阻んでいる生徒や教師たちをぶちたおす事も許されず…ルルーシュとスザクはうっかりこの二人に
―――結構苦労しているんだなぁ…自分たちに対して反感を持っているが、彼女たちの指揮を執っている人間があれではなぁ…
と、自分たちを狙っている相手に対して同情の意を向けてしまう…
「なぁ…スザク…あれでは、本当にあいつら…何をやっているか解らんぞ…」
「まぁ、確かにね…。彼らは結構必死みたいだけど…」
「俺たち…特に何もしているつもりはないんだが…お前、何かしているか?」
「否…全然…。ルルーシュに襲いかかって来る時にちょっと手荒な真似をしちゃったかもしれないけど…でも大丈夫!セクハラにはならないようにしているから!」
気にするところはそこか!と思いっきり突っ込みたくなるようなスザクの発言に…
ルルーシュも満足そうにうなずいている。
確かに…カレンは生徒だから、立場は対等であるが、ヴィレッタの場合、教師であり、生徒は高い授業料を払って通っている…云わばお客様だ。
教師と生徒と云う関係上、生徒が教師に対して妙な事をすれば当然、内申書に響くし、あまりにひどい場合には生徒の方が訴えられてしまうかもしれない。
この辺りはこの二人も一応注意している。
それに、ヴィレッタはあの、扇の彼女だと云うから、セクハラとか云われると色々と面倒な事になる…
あの男は仕事は(ルルーシュとスザク信者のお陰で)全く出来ていないが、権利を主張する事だけは一人前だ。
確かに害はないが…うるさい…
ルルーシュもスザクも…正直、井の中の蛙の一番争いに興味はない…。
彼らが目指すのはあくまでも『世界』なのだから…
しかし、井の中の蛙の一番争いで一番になれなければその先の見通しも立たない。
「今日も平和だな…」
「うん…そうだね…」
のんびりと生徒会室の中でルルーシュの淹れた紅茶を楽しむ二人…
そんな時…
―――コンコン…
いつもよりもなんとなく慌てた様子のノックが聞こえる。
ルルーシュとスザクがそのノックの音に不思議そうに顔を見合わせるが…
「入れ…」
ルルーシュがそう言うと、やはり慌てた様子の、二人に対して絶対の服従を誓っている女生徒が入ってきた…
「ルルーシュ様…スザク様…大変です!今度、学園長が代わるとたった今決まったそうです…」
その女生徒が慌てたように報告する。
この女生徒の運動神経や体術の優秀さは彼らも知っている。
「今に始まった事じゃないだろう…。何故そんなにあわてている?」
ルルーシュが不思議そうな表情を見せながら尋ねる。
「学園長が代わること自体は問題ではありません…。次に就任される学園長と云うのが…」
この女生徒の情報収集能力は確かに優れている。
何でも、(どう見ても忍者の末裔に見えるのだが)SPを代々の生業としているとか云う…
「誰なんだ?その新しい学園長と云うのは…」
「シュ…シュナイゼル=エル=ブリタニア様…とか…」
その一言にルルーシュとスザクの顔が一瞬曇る。
その名前…ルルーシュにとっては色んな意味で複雑な思いを抱える相手だ…
「そうか…異母兄上…あなたが来るのですか…」
ルルーシュがそう呟きながらふっと笑った。
「ルルーシュ…」
傍に控えていたスザクが少し心配げに声をかけるが…
「くっくっくっく…フハハハハハハハ…ついに面白くなって来そうだ…スザク…」
「まさか…あのシュナイゼル様がもう出て来るとはね…」
「本当はこの学園で、あの扇たちを使って俺を籠絡し、シュナイゼルに献上させるつもりだったんだろうな…」
「まぁ…あの方のルルコンはちょっと行き過ぎな部分があるからね…。いっそ、シュナイゼル様に世界征服を頼んじゃおうか?きっと、嬉々として献上してくれるよ?」
「間違っている!間違っているぞ!スザク!ゲームは自分でクリアしてこそ楽しいのだ…。人から恵んで頂いた賞品に意味などない!」
「あ…ルルーシュにとって世界征服って賞品なんだ…」
ちょっぴり変わったところのあるスザクの想い人…ルルーシュに対して、時々、妙な『ここが変だよルルーシュ…』的な思考が頭を過る。
多分、これまで集めてきたもので一冊本が出来るのではないかと思われる程だ…
しかし、現在気にしなくてはならないのはそこではないのだ。
「で、どうするの?どうせ、扇たちはシュナイゼル様のコマにされちゃうよ?それこそ、ルルーシュよりシュナイゼル様の方がやる事えげつないから…」
「スザク…俺はえげつないのか?」
「まぁ、えげつないし、卑怯だし…」
「なら…なぜ曲がった事が嫌いなお前が俺を守っているんだ…」
「だって…ルルーシュは僕の運命の相手だし…。それに、このゲームが終わったら僕と一緒にべたべたに甘々な蜜月を満喫してくれるんでしょ?」
空気を読めないのか、意図的に読まないのか…
この辺りは議論の余地の残る枢木スザクのキャラクター…
しかし、今もたらされたこの情報に、策を練らないと正直、ルルーシュがシュナイゼルに拉致られてしまう…
ルルーシュもスザクもその辺りの危機感は同じらしい…
「咲世子…なら、お前は引き続き、情報の収集と、周囲の警戒を頼む…」
「あと、扇たちの動向にも目を光らせてね…」
結構、むちゃな要求をしているように見えるが…
その咲世子と呼ばれた女生徒は顔色一つ変えず、『ルルーシュ様とスザク様のSPたる者…このくらい出来なくてどうします?』なオーラを放ちながら、恭しく頭を下げた。
「承知いたしました…。この篠崎咲世子…全力を持って、ルルーシュ様とスザク様の御為にお役に立ってごらんにいれます…」
そう云って、咲世子は生徒会室から出て行った。
「ホント、彼女凄いよね…。陰の方は全部持ってかれちゃっているし…」
「おまえが陰に徹しようとしても、お前の存在そのものが目立つだろうが…」
「で、技術科のディートハルトセンセイは?」
「あっちはあっちで、扇たちを好きなよう引っ掻き回しているらしいな…。何でも…『奴らではカオスが作れないのです!私の求めているものは、カオス…カオスなのです!』なのだそうだ…」
「いいの?そんな妙なオタクを野放しにしておいて…」
「今のところ邪魔にはなっていないが…シュナイゼルが来たら、そっちにつくか、俺に付くか…。あいつの情報収集能力は使えるからな…」
結構他人事のように話しているルルーシュだが…
スザクとしては、こののんきなルルーシュの態度に心配になる。
何せ、スザクにとっては『ルルーシュとの蜜月生活』がかかっているのだ。
二人で、そんな事を話していると…
不意に…生徒会室の扉が開く…
―――シュッ…
ここの生徒で黙って生徒会室に入って来るようなおろか者はいない…
だとすると…
「やぁ…久しぶりだね…ルルーシュ…」
さも嬉しそうな…そして、全く空気を読もうとしない新学園長が立っていた。
「異母兄上…今回は何のお戯れです?」
ルルーシュが思いっきり不機嫌な顔をシュナイゼルに向ける。
スザクは…『ああ…又始まった…』と云う表情だ。
「いやね…父上が今度、この学園の理事長職を乗っ取るっていうから…その前に私が君のいる学園の学園長になってしまえと…。理事長は確かにね…権限が大きいけれど、生徒たちとは中々触れ合えないじゃないか…。ルルーシュがここにいると云うのに…そんなのは…私には耐えられないよ…」
完全に自分の世界にはまり込んで喋っているシュナイゼルを白い目で見つめているが…しかし…
「父上って…あの男が理事長になるんですか?」
ルルーシュが更にめんどくさい事になるな…と云う表情で尋ねる。
「ああ…私も父上も…君が世界征服をしたい…その為にこの学園でトップとなり、レベルアップを図ろうと云うその姿勢に打たれてしまってね…。是非とも、そのレベルアップに協力しようと…。勿論、君がレベルアップできなかった時には私が君を連れて帰るからね…♪」
その一言を残し、満足したのか、生徒会室から出て行った…
「マジかよ…」
「うわぁ…君んとこ…ホントに君のこと大好きな人が多いけど…ここまでやるかな…」
ルルーシュが別の意味でいやな顔をしているし、スザクはすっかりあきれ顔だ。
他にもルルーシュ大好きな兄姉妹がいっぱいいるのだ…
―――これからは心してルルーシュの警護をしないと…。でないと、あの、ゾンビみたいなルルコン集団にルルーシュを盗られちゃうな…
そんな危惧を抱えながら、スザクは窓の外を見た…
ルルーシュは何かブツブツ言いながら作戦を考えている…
今日も…ブリタニア学園は平和だ…
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