ここはアッシュフォード学園生徒会室…
現在、ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアが一人で、生徒会長であるミレイ=アッシュフォードの絶対命令によってこれまでにミレイが溜め捲くった生徒会の事務処理を行っているところだ。
彼が、人より早めに生徒会室へ来て、仕事をするのには訳がある。
「そろそろ来るな…」
ルルーシュはパソコンのディスプレイの左下にある小さなデジタル時計を見ながら呟いた。
そろそろ、ルルーシュが早めに生徒会室へ来て、仕事をしなければならない理由たちがやってくる頃なのだ…
案の定…
―――プシュッ…
生徒会室の扉が開かれる。
廊下からけたたましい足音も聞こえてきてはいたが…ルルーシュは雑音が入る事を嫌って耳栓をしていた。
そして、扉が開くと同時にその理由たちが入ってきた。
ルルーシュは耳栓を外しながら扉の方を見ると…
ルルーシュの姿を見つけたルルーシュの騎士であるスザクと双子の弟であるゼロがルルーシュの元まで駆け寄ってきて、ゼロの騎士であるライがゼロを追ってその後についていた。
「「ルルーシュ!」」
ルルーシュはこれまでに打ち込んだ資料をセーブしてとりあえず電源を入れたままノートパソコンのディスプレイを閉じた。
「今度は何だ…スザク…ゼロ…」
やれやれと云った表情でルルーシュが席を立つと、生徒会室のミニキッチンから冷たい飲み物でも持って来てやろうと歩き出した。
二人とも結構息が切れているようなので、ルルーシュの行動パターンを完全に頭から消えていた状態だったと思われる。
「すみません…ルルーシュ…」
後ろの方でこれまた息を切らせながらゼロの騎士であるライがルルーシュに謝罪する。
「否…こっちこそすまない…。それより、こいつらを遠回りさせてくれて礼を云う…。多少、ミレイ会長から云われていた仕事が出来たしな…」
そう云いながら、3人分のアイスティーを出して作業用のテーブルに並べてやった。
3人ともルルーシュが差し出したアイスティーをくいっと飲み干す。
全員、味の好みが違うのだ。
スザクはレモンティーを好み、ゼロはミルクティー…ライはストレート…
極力間違えないように全員の目の前にそれぞれのアイスティーを置くようにしている。(基本的にゼロはミルクティーで解りやすいので間違える事は基本的にないが)
3人がとりあえず、息を整えると、ルルーシュは3人に声をかける。
「で、今日は何の騒ぎだ?」
この3人の校内マラソン(ルルーシュはそう呼んでいる)は毎日恒例行事だ。
ターゲットはルルーシュで、基本的にルルーシュが放課後いるところと云えば、屋上か、生徒会室…教師に頼まれごとをすると資料室にいるし、暇な時には細菌の活字離れによって余り生徒の来ない図書室にいる。
あまり選択肢はないのだが…いつも、ルルーシュのいるところは最後の選択となっているところをみると、なかなかの運の持ち主だと思ってしまうのは間違っていないとルルーシュは考える。
「ルルーシュ…スザクが酷いんだ…。俺が…ルルーシュと一緒に添い寝したいって言ったら…『いい加減ブラコンを卒業しろ!ルルーシュは僕の恋人なんだ!いいか?日本には『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ!』という諺があるんだ!』って…。スザク…俺が死ねばいいと思っているんだ…」
ゼロがそう云いながらルルーシュに抱きついてわざとらしくえぐえぐと泣きだした。
まぁ…スザクの云い方にも問題はあると思うのだが…ゼロにだって、ライと云う騎士兼恋人がいると云うのに…
「だって…ゼロがあんまりルルーシュと僕の事を邪魔するから…」
こいつもこいつで、ルルーシュの弟にここまでヤキモチを妬いてどうすると云うのだ…。
まぁ、この二人のじゃれあいは、行きすぎなければ可愛いと思えるのだが…
ただ、ゼロの騎士はゼロの事を騎士としても恋人としてもゼロの事を愛し、大切にしていると云うのに…
このブラコンっぷりを見ていると、余りにライが報われないような気もしないではないが…ライ自身が、そのことを重々承知しているようなので二人の目の届かないところでは彼に対してねぎらいの言葉を贈っている訳だが…
大体、ゼロ自身、ライがいなくなれば、ルルーシュでは手がつけられないほど荒れ捲くるくせに…
「おまえたち…ちゃんと立場を弁えろ!折角ルーベンの好意で通わせて貰っている事を忘れるな!」
余りにくだらない喧嘩理由でルルーシュは自分の騎士と双子の弟を叱り飛ばす。
まぁ、くだらない理由で訳の解らない騒ぎを巻き起こすのはいつもの事なのだが…
ルルーシュに叱り飛ばされてしゅんとなる二人の姿を見て…
ルルーシュはほとほとライも甘いと思ってしまうのだが…間に入る事が殆どで…
「ルルーシュ…僕も二人を抑えられなかった責任はあります…。申し訳ありません…」
この中で、色んな意味で一番苦労しているライに頭を下げられてしまうと、これ以上、ルルーシュも強く云えない。
「まったく…スザクもゼロも…ライにちゃんと礼を云っておけ…。もし、ライが間に入らなかったら今日の夕食は塩のおにぎりだけにするつもりだったんだからな…」
ここで、食べざかりの彼らにその一言は相当効くだろう。
まして、こいつらの場合、とにかく、ルルーシュを探す為にこの広いアッシュフォード学園を一周して最後にたどりついた場所にルルーシュがいた訳だ。
つまり、非常に燃費効率の悪い事をしているので、食べ物の話をされた時、一発で収まるのだ。
「毎日、同じ事を云われて、収まるのに…なんで、云われずにお前たちは出来ないんだ…」
呆れながらルルーシュがこぼす。
「まぁ、ゼロがルルーシュ離れできていませんからね…。すみません…ルルーシュ…僕がふがいないばかりに…」
またも、ライがルルーシュに頭を下げる。
確かにゼロがルルーシュ離れを出来ないのは問題なのだが…
ルルーシュ自身、自分がゼロに対して甘いと云う自覚はあるのだ。
スザクが自分の騎士であり、恋人である事は解っていても…
一卵性双生児の双子…やはり、元々一つだった…と云う部分の表れなのだろうか…
「ライ…俺がゼロ離れできていない部分もあるのは事実だ…。本当にすまない…」
その一言に…ぱぁぁぁっと明るい笑顔を見せるゼロと、あからさまに『不愉快だ!』と云う表情をするスザク…
結局、何を云ってもこの二人が納得する事なんてないのだ。
二人を立てようとすれば、『結局ルルーシュはどっちが大切なの!?』と云う話になるし、どちらか一方を立てれば現状のような話になる。
「ルルーシュ…僕って…ルルーシュの何?」
涙ぐみながらスザクがルルーシュを見ている。
いつもの事とは云え…
ルルーシュの騎士兼恋人も…中々扱いに困るキャラクターだ。
まぁ、こいつの腹黒さを知らない訳じゃないし、それこそ、この捨て犬のような瞳に何度も騙されている…
―――俺も…こいつらの事を云えないくらい学習能力がないのかもしれないな…
そんな風に思いながら、ライに声をかける。
「ライ…ゼロを頼む…」
「イエス、ユア・ハイネス…」
そう言ってスザクを連れて生徒会室を出て行った。
生徒会室の扉が閉まると…
『ルルーシュゥゥゥゥ…』
悲痛な叫びが聞こえてきたが…今は、ライに任せる事にした。
いつもの事ながら…自分の騎士と弟は…仲がいいのか、悪いのか…よく解らなくなる。
「スザク…お前もゼロの子供染みた嫉妬に付き合う事はないだろう!そもそも、ゼロはいくらブラコンでもライの恋人なんだぞ!」
二人になるとルルーシュはスザクに容赦しない。
スザクがヤキモチを妬くのは嬉しくない訳じゃないのだが…いつも、いつも、派手な騒ぎをして、学園中を走り回るものだから、ルルーシュとしても黙っている訳にはいかない。
このアッシュフォード学園はルルーシュの母の後見をしてくれているアッシュフォード家が創設した学校で…現当主であるルーベンはとにかく、ルルーシュ達をかわいがってくれて…王宮にいたらこうした普通の学校へ通う事が出来ないだろうと…シュナイゼルに進言してくれたのは、ルーベンだった。
「ごめん…ルルーシュ…」
スザクも素直に謝った。
そんなスザクを見て、ルルーシュはやれやれと云った感じで息を吐いて、スザクに言葉をかける。
「まぁ…そうやって、お前が妬いてくれるのは嬉しいけれどな…。お前の場合、誰にでも愛想がいいからな…」
最後の方はちょっと声が小さくなる。
やっぱり、照れ臭いと思ってしまうのは仕方ない。
ゼロもそうなのだが、それ以上にルルーシュはこう言った時に素直に慣れない性格なのだ。(恐らく、その辺りは数時間の差とは云え、兄と弟の違いと云うべきか)
しかし、多少声を小さくしたところでそんなルルーシュのセリフを聞き逃すようなスザクではないのだが…
「ルルーシュ!大丈夫だって…。僕はルルーシュしか好きじゃないし…。でも、ルルーシュの騎士である以上、最低限の礼を払わないとまずいでしょ?社交辞令にまでヤキモチ妬いてくれるなんて…嬉しいなぁ…」
スザクの言葉に…ルルーシュな心の中で叫ぶ…
―――こいつ…どうしてくれよう…
それでも、人懐っこい犬みたいに抱きついてくるスザクを見ていると…自分も何となくほんわかしてしまう事は気付いている。(調子に乗るからスザクには云わないが…)
「とりあえず…夕食の買い物…付き合え…」
ルルーシュがスザクにそう言うと、スザク自身、少し複雑な表情を見せる。
「ルルーシュって…皇子殿下なのになんで家事の一切を自分でやるの?普通…やらないでしょ?ルルーシュのご飯…美味しいからいいんだけど…」
「まぁ…色々あるからな…皇族って云う立場の中にも…」
少し辛そうにルルーシュがそう告げると…スザクはルルーシュを強く抱きしめた。
「ごめん…でも…絶対に僕が守るから…。絶対に…絶対に…」
スザクの必死の言葉にルルーシュはスザクの腕の中で小さく『ありがとう…』とだけ呟いた。
生徒会室に残され、べそをかいているゼロと、それを宥めているライの方はと云うと…
「ゼロ…そんなに泣くと顔が腫れますよ…」
いつもの事ながら…ゼロのルルーシュ大好き症候群にも困ったものだ。
これから先、いくら皇位継承順位が下位とは云え…確実にこの二人には政略結婚の見合い話が掃いて捨てるほど来る筈だ。
ルルーシュにも…ゼロにも…
「だって…だって…ルルーシュが…」
「ゼロは…僕だけではダメですか?」
ライの言葉にゼロがピタッと止まる。
ライ自身、ゼロがルルーシュに対して執着しているのはよく知っているし、普段、スザクと走りまわっている時、楽しそうに見える事もあるのだから、その程度で済んでいる内は大人の態度で接する事も出来るのだが…
「僕は…騎士としても、あなたの事が好きですし、大切に思っています。でも、それ以上にあなた自身の事が好きなんですよ?いくらルルーシュがゼロの大切な兄君とは云え…僕だって嫉妬はするんですよ?」
ゼロが目に涙をためたままライの方を見る。
ライ自身はゼロがルルーシュの事を一人占めしたいと考えている事は知っているし、何を云われても大抵の事なら受け流す事は出来る。
「ライ…」
ゼロに涙目でじっと見つめられてしまうと…ライ自身、いたたまれなくなるのだが…
それでも、なんとか宥め賺して連れて帰らなければならないし、実際に、ゼロがルルーシュの事ばかりを考えるのも面白くないのは事実だ。
「ゼロにとって、僕だけでは役者不足なんですね…」
半分冗談で、半分本気の…ライの言葉…
そのライの言葉にゼロは新たな涙を眼に浮かべ始める。
そして、ゼロの方からライに抱きついてきた。
「やだ…ライ…どこにも行かないで…。ライがいないとヤダ…」
抱きついて来て、ワンワン泣き出してしまって…ライ自身、『しまった…やり過ぎか…』と思ってしまうが…
それでも、こんな風に素直に泣きついてくれる事に優越感を感じる事も本当だ。
「はい…ゼロ…。僕はどこにも行きませんよ…。でも、早く、僕をゼロの一番にして下さいね…」
本当は相当イジワルな事を云っているのは解るのだが…
こんな風に少しイジメてやった時のゼロの泣きそうな顔を見るのが、ライ自身、結構気に入っている事は今のところ、誰にも内緒なのだが…
「ライは俺の一番だよ…。ライ…ごめん…」
普段は素直じゃないのだが…こう言う時には素直にこうして言葉にしてくれる。
だから、イジワルを云うのはやめられないのだと思うが…
「はい…ゼロ…。僕はあなたの騎士だ…。必ず、あなたを守る…。だから…泣きやんで…」
自分でもキザな言葉だと思うのだが…ゼロがその言葉で微笑んでくれるのなら…それでもいいと…思ってしまっていた。
しかし…この皇子様はいつも同じことを繰り返してくれるので…今度からはちゃんと、他の手で解らせてやらなければならないと思うのも事実だったりした…
―――そんな事をしたら…ルルーシュ殿下に怒られるかな…
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