ルルーシュは一旦アッシュフォード学園へと戻った。
そして、ナナリーの無事を確認する…
「ナナリー…」
「お兄様…」
いつもと変わらない様子のナナリーを見て、ルルーシュは心の底から安堵の表情を見せた。
そして…部屋の扉をノックされた…
―――コンコン…
ルルーシュは身体を強張らせる。
カレンに正体をばらしてしまったのだから…
恐らく、『黒の騎士団』全員に伝わった筈だ…
だとすれば…考えられるカレンのとるであろう行動は三つだ…
ルルーシュを殺す。
ルルーシュを拉致する。
ルルーシュを説得する。
最後の可能性は一番低いと考えられる。
少なくとも、『黒の騎士団』はブリタニアに対して反旗を翻している。
『ゼロ』がブリタニアの皇子と云う事であれば、連れ戻す事は考えにくい。
2番目の場合、その先の目的を考えなくてはならない…
1番目の場合、もし、カレンが相手であるのなら…丸腰ではまず…ルルーシュは確実に殺される。
そして…ナナリーも…
ルルーシュはこの時、最悪のパターンを考える。
とにかく…ノックをした相手がカレンであれば…場所を移さなくてはならない…。
ルルーシュが消えれば、スザクとユーフェミアが動く…
今の彼らなら…多分…ナナリーを守ってくれる…
―――シュッ…
ルルーシュはボタンを操作して扉を開けた。
そこに立っていたのは…
「会長…」
ルルーシュは内心、一気に力が抜けて行くような感覚だった。
ルルーシュが帰ってきているのであれば、カレンもこちらに戻ってきていると踏んで間違いない。
否、『黒の騎士団』の一員として帰ってきたなら、スザク、ユーフェミアはいたものの、殆ど自力で帰ってきたようなルルーシュよりも遥かに早くこのトウキョウ租界、もしくはシンジュクゲットーに到着しているだろう。
恐らく、その事を知って、確実に『黒の騎士団』は警戒している筈だ。
―――ここにいると…学園そのものが危ない…。あいつらは…C,C,の入ったあのカプセルを毒ガスだと信じて盗み出していた…。となると…いずれ…どこかで使われていたと云う事になる…
ルルーシュは彼らとの出会いを思い出す。
「ルルーシュ…さっきね…ユーフェミアさまが…いらしたんだけど…」
ミレイの、遠慮がちな言葉にルルーシュは目を丸くする。
いつも彼女の行動には驚かされているが…
それにしたって…ルルーシュがこのクラブハウスに帰ってきてすぐとは…
―――あのスザクが…振り回される訳だな…。それでも…あいつ…ユフィを遠ざけようとしていた…。それを…ユフィが強引に…
神根時までの事を思い出すと…不思議な気持ちになる。
ルルーシュはミレイを部屋に招き入れた。
「すみません…咲世子さん…お茶をお願いできますか?」
「ユーフェミアさま…まだいらっしゃるんだけど…」
「こちらに呼んで頂けますか?込み入った話になるかもしれませんから…」
ルルーシュは皇子としての顔でミレイに頼んだ。
ミレイとしても、ルルーシュ?ランペルージとしてではなく、ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアとして頼まれてしまっては、否とは言えない。
「解ったわ…。一応、スザクも一緒だけど…」
「構いません…。会長…色々面倒をおかけします…」
ルルーシュのその言葉に…ミレイは、何の事だか解らなかった。
ただ、第3皇女であるユーフェミアとその騎士スザクがそろってルルーシュを訪ねてきているのだ。
アッシュフォード家としても色々変わってくるのではないかと…そんな予感だけはあったが…
やがて、ミレイが二人を連れてきた。
「ルルーシュ…」
ユーフェミアがルルーシュの姿を見つけると、駆け出してきた。
「ユフィ…ナナリーに…会ってやってくれるか?君がこのエリアに来て…会いたがっていたから…」
「ナナリー?元気なのですね?」
「ああ…」
そう言って、ユーフェミアをナナリーの元へと連れて行った。
「ナナリー…ユフィだ…。会いに来てくれたんだよ…」
ルルーシュの声に折り紙を折っていたナナリーがパッと顔を上げた。
「ユフィ…異母姉さま…?」
「ナナリー…元気だった?大きくなったわ…。ホント…無事でよかった…ルルーシュも…ナナリーも…」
そう言って、ユーフェミアが未だに何が起きているのかよく解らないと云った漢字のナナリーに抱きついたのだ。
「ユフィ…異母姉さま…異母姉さま…」
ナナリーもユーフェミアの首に手をまわして、涙を流していた。
ブリタニアの王宮にいた頃…仲のいい異母姉妹だった…
その事をよく覚えているルルーシュは…二人の姿に目を細めた。
ただ…こんな感動の再会ばかりしている訳にはいかないのだ。
「ミレイ会長…すみませんが…席を…」
ルルーシュがそう言いかけた時、ユーフェミアがナナリーから身体を話して口を開いた。
「待って下さい…。ミレイ=アッシュフォード…一緒に話を聞いて頂けますか?勿論、ナナリーも交えてお話します…」
「ユフィ???」
ルルーシュが驚きの表情を見せる。
当然だ。
これから、ユーフェミアもスザクも…二人を守る為に…動くと云っているのだ。
「ルルーシュ…大丈夫…。大丈夫だから…」
スザクがルルーシュを宥めるように声をかけた。
彼らの普通じゃない様子にミレイも真剣な表情となる。
「それは…皇女殿下としてのご命令でしょうか?」
ミレイはユーフェミアに向かってそう尋ねた。
「いいえ…これは…ルルーシュとナナリーを守る者としての命令です…。いえ、命令と云うのはおかしいですね…。お願いです…」
流石に皇族の姫君だ。
その気高さは一般人では見る事が出来ないものだ。
「ルルーシュと…ナナリーを守る…為…?」
ミレイは不思議そうにユーフェミアを見ているが…彼女も決してバカではない。
ユーフェミア自らがわざわざこんなところに来るのだ。
お遊びや戯れの類で云っているとは思えないし、ユーフェミアのその真剣な表情は、ミレイの少しだけ過ったそんな考えをさっさと払拭する。
「解りました…。私は…アッシュフォード家の当主ではありませんが…」
「いずれ、ご当主には、私からお願いに上がります…。もし、私たちのお願を飲んで頂けないようでしたら…そのままルルーシュとナナリーは私たちが連れて行かせて頂きます…」
ユーフェミアの言葉に…
色々な不思議なものが混じっているような…
そんな気がしている。
ただ…ユーフェミアもスザクも、真剣にルルーシュとナナリーを守ろうとしている事だけは解る。
「では、お茶を頂きながら、お話しましょうか…」
ユーフェミアが進み出て、ナナリーの車いすを押し、テーブルへと着いた。
そして、ルルーシュとスザクとミレイが、続いてテーブルについた。
全員が席に着いたところで、ユーフェミアが口を開いた。
「単刀直入に云いますわ…。私は…皇女としての身分を捨てました…今では、皇族でも何でもない…ただのユーフェミアです…」
スザク以外の全員がその場で驚きの表情を見せた。
「ルルーシュ…これで私もあなたと同じです…。富士でのテロ騒ぎの時…助けて下さって…有難うございました…」
ルルーシュはユーフェミアの言葉に目を丸くする。
今…ここでそんな事を云っては…ルルーシュが『ゼロ』であったとばらすようなものだ。
案の定、ミレイとナナリーは驚いた顔をしている。
「ルルーシュ…」
「お兄様…」
二人が同時にルルーシュを呼んだ。
「ユフィ…一体何のつもりだ?」
ルルーシュは声を荒げてユーフェミアに尋ねる。
しかし、ユーフェミアはそんなルルーシュの怒りにひるむ事はない。
「ルルーシュ…彼女たちには知っておいて頂かなくてはなりません…。そして、『黒の騎士団』が、『ゼロ』を排して、『キョウト六家』の皇神楽耶を迎え入れたそうです…」
その情報に驚くが…
それ以前に…
「ユフィ…その情報は…一体どこで…」
ルルーシュの驚いた表情に…ユーフェミアがにこりと笑う。
「私のような皇女は…目立つ事は出来ません。そして、お姉さまにも大人しくしているように云われていました…。それでも私は真実を知りたかったのです…」
「ユーフェミアさまは、いつもボディーガードを振り切って一人でシンジュクゲットーをほっつき歩いていたからね…。騎士になってからも大変だったよ…」
スザクが呆れたような顔でそんな事を告げる。
確かに、ユーフェミアの幼い頃は確かに相当なお転婆ではあったが…
「もう、騎士ではないですからね…スザクは…。それに、私…自分の身くらいは自分で守れますわ…。これでも、コーネリア=リ=ブリタニアの妹ですもの…」
先ほどからルルーシュもナナリーもミレイも驚かされてばかりだ。
そんな3人を見てユーフェミアはまたもくすりと笑った。
「あの時…私は云ったでしょう?私もスザクも…あなたの剣と盾になると…。そんな大それたこと…力がある者でなくては云えませんわ…」
「ルルーシュ…彼女の剣の腕は流石にあのコーネリア皇女殿下の妹気味だと云うくらいの腕だ。流石に僕に一太刀入れる事は出来ないけれど…それでも、あの、銃がなければ戦えない『黒の騎士団』連中の手に落ちるほどやわな方じゃないよ…」
スザクがこれほど言っているのだから本当なのだろう。
ルルーシュ自身、あまりに凄い話し過ぎて、冷静さを保つ事が出来ない。
「なら…このクラブハウスなら、結構安心じゃないかな…」
驚きながらも、その会話の中に口を出したのはミレイだった。
ルルーシュは何の事だ?と云う表情でミレイを見た。
「咲世子さん…とても強いのよ…。だから、アッシュフォード家はあなたたちに咲世子さんをつけたの…。特に、ナナリーは病院とかで襲われたりすると…色々大変だろうし…誘拐されてしまうと…こちらとしても打てる手がそれほど多い訳じゃないから…。だから、そうなる前に防いでくれる人材をつけたの…」
ミレイの言葉に更に驚いて…
これまで、人を信じるとか、頼るとか…そんな事は出来ないと考えていたルルーシュは…そんな中でも数多くの人々によって、守られていた事を思い知る。
「ユーフェミアさま…アッシュフォード家は…これまで両殿下を持てる力すべてで守ってきています。これからもその姿勢には変わりません。だから…両殿下をお守りする為に必要であるのなら…このアッシュフォード家をお使い下さい…」
ミレイが全幅の礼を払ってユーフェミアに頭を下げた。
「ミレイ=アッシュフォード…私はもう皇女ではありません。ですから…そんな風に頭を下げないでください…。私の事は…ユフィと…」
ユーフェミアの言葉にミレイが頭をあげて、いつもの会長スマイルとなる。
「では、私の事はミレイと…」
二人はその場で握手を交わした。
そして、この場にいる全員がスザクに案内されながらトウキョウ租界を歩いていた。
ある、建築中の商業ビル…
そして、そのビルの下には地下への入り口がある。
まるで、『黒の騎士団』のアジトに入って行くような気分になる。
ただ、ここは租界であり、最新技術によって作られている事は解る。
「ルルーシュ…僕はランスロットのパイロットだって知っているよね?」
「ああ…藤堂救出の時に…見たから…」
あの時は辛くて切なかった…
ショックも大きくて…
でも、今はこうして自分の傍にいてくれるのだ…
お互いの正体を隠す事もなく、そして、スザクはルルーシュを守る為に傍にいると…そう言ってくれているのだ。
暫く地下通路を歩いて…扉を開くと…ずっと光を差さなかったのだが、いきなり明るくなった。
「ロイドさん…」
「おや、スザク君に…ユーフェミア皇女殿下…。それに…ミレイ君…」
パソコンの前で何かのプログラムを打ち込んでいる。
「あなたが、ルルーシュ殿下…そして、そちらがナナリー殿下…ですか…。本当は初めましてじゃないけれど…。ロイド=アスプルンドです…」
普段はシュナイゼルにもろくに礼を払わないスザクの上司だが…
「あ…あの…」
流石に戸惑いを隠せない。
アスプルンド家と言えば…シュナイゼルの配下の貴族だ。
「僕としては、デヴァイサーがいてくれればそれでいいんですよ…。資金に関しては…まぁ、僕自身、色々特許を取っていますし…暫くは何とかなります…」
「しかし…」
「殿下…スザク君から話を聞きましたよ…。なんだか僕…柄にもなく感動しちゃいまして…。それに、その話を聞いて、ピンと来たんですよ…。スザク君のシミュレータの成績がいい時って、殿下と一緒にいた後なんだな…って…」
「ロイドさん!」
スザクがロイドのお喋りを止めようと大声を出した。
しかし、ロイド自身はお構いなしだ。
「流石に、軍を離れるってことになっちゃいますんで…部下はスザク君の他に一人しか連れてきていないんです。ですから…時々手伝って下さいねぇ〜〜〜」
なんとも…貴族らしくない貴族だが…
「これが…今のところあなたを守る為の武器です。これから…ルルーシュとナナリーを守る為に…ルルーシュ…あなたが彼らを使って下さい…」
ユーフェミアの言葉に…驚きと…少しだけ畏怖を抱く。
ずっと…可愛らしいお姫様だと思っていたのだから…
「ユフィ…君は…本当に凄いな…」
「今度から、私もアッシュフォード学園に通っていいですか?スザクはもう…表向きには脱走兵になっちゃっていますから…」
「大丈夫…ちゃんと学校へは行く…。アッシュフォード家に協力を願ったのも、僕が学園内に出入りできるようにが…。アッシュフォード学園には…カレン=シュタットフェルト…否、紅月カレンがいる…」
「そうでしたね…。まぁ、私たちもまだそれほどの動きはとれません。色々策を練って行きましょう…」
その後…ルルーシュは感動に耽っている暇もなく…これからの策を練り、今いる自分を守ってくれるナイトたちを…どう使って行くのかを考え始めていた…
恐らく…これから始まる事になる…
自分たちの居場所を作る為…守ろうとしてくれている者たちの為の戦いの為に…ルルーシュは…
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