枢木スザク…現在、生徒会室でアーサーにご飯をあげて、満腹になったアーサーにおもちゃの猫じゃらしで懐いて貰う努力に奮闘している。
しかし、頭の中では…またもいらん事を考えているらしい…
今日は、満腹になっていることも影響しているのか、アーサーは大人しくスザクの語りを黙って聞いている。(否、スザクの独り言に噛み付かないだけなのだが)
「ねぇ…アーサー…どこまでがノーマルで、どこからがアブノーマルだと思う?」
確かに猫相手でなければこんな事を聞く事は出来ないだろう。
生徒会のメンバーたちに聞かれれば、そのまま妙なイベントへと流れ込むに違いない。
「ルルーシュって…男とは思えないほど、くびれもあって、色白で、肌も綺麗で、ひょっとすると女の子より軽いくらい細くて…しかも、女装させれば絶世の美女になるっていうのに、男なんだよね…。そうかと思えば、確かに胸は大きいけれど、性格も体力も男としか思えないカレンは女で…これって…どう思う?」
アーサー的には『自分にそんな事言われてもなぁ…』と思うに違いないボヤキだ。
無印の時には、スザク自身、カレンの全裸を見ているのだが…特に心を動かされる事もなかった。
女らしさと言えば、ユーフェミアの騎士になってから、確かに、彼女の好き好きオーラを感じてはいたが…
「そう言えば…本編では何もしてなかったな…。僕って…リアルに『女体に意味はありません!』.体質なのかな…」
これまた…猫のアーサー相手だから言える事だし、こんな事を言ってしまっては自ら『女性に興味はありません!』と言っているようなものだ。
「そう言えば…Sound Episodeのランスロット…セシルさんに弄られて『ぞくぞくっとする』って言っていたな…。ランスロットって、男だったんだな…。ひょっとして、カレンみたいな巨乳に乗って貰った方が嬉しかったのかなぁ…」
どこか…話がずれている気がするが…
それでも、アーサーは満腹で動きたくないのか…噛みついてこない…
と思っていたら…アーサーは満腹になって、しかも、外がはれている状態で窓際にいる所為か…すやすやと気持ちよさそうに眠っている。
「アーサー…どこまでも僕に冷たいね…」
微妙に寂しいと思う気持ちを抱えながら、その場を立った。
そして、昼休み…他のメンバーが来るまでのお留守番…と云う事で待っているのだが…
「『黒の騎士団』から抜けて、皇帝としてもお仕事終わってるのに…ルルーシュ…どうしたんだろう…」
この男の頭の中にあるのは、やっぱり、女よりも女のような、ルルーシュ?ランペルージの事らしい…
どうしても、彼がいないとさみしくなってしまうスザクは…『コードギアス反逆のルルーシュ』本編が終わり、お気楽に学生生活を送れると思っていたのだが…
すっかりあては外れ、あの物語から一歩離れると、とにかく、身内…と云うより、彼を取り巻く人間たちの『大好き♪』攻撃に晒されている。
一応、スザクは(和泉綾の趣味により)ルルーシュの恋人の地位を得ているのだが…
実際には、彼を愛するキャラクターが多すぎて、中々二人きりになれない事が多いのが現実だ。
今日、何度目かのため息をつくと…
「なんだ…スザク…ため息なんかついて…」
と言いながら入ってきたのは、『コードギアス反逆のルルーシュR2』で、ナイトオブラウンズの同僚として存在していたジノ=ヴァインベルグが入ってきた。
本編では彼はカレンにお熱だったようだが…
「あ…別に…。ねぇ、ジノってさぁ…勇ましい女の子が好きなの?」
あまりに唐突な質問にジノも驚くのだが…
しかし、テーブルに肘をついて、その先の手の上に自分の顎を乗せてぼんやりとそんな事を呟く、スザクが少し心配になる。
「勇ましいって…カレンの事か?」
「他に誰がいる?『コードギアス反逆のルルーシュ』の中でカレン以上に勇ましい、男の中の男…みたいな女の子いないでしょ?」
ジノはスザクのセリフに『なんて命知らずな…』と思ってしまうが、しかし、スザクの体力と運動神経なら、カレンに殺されることなく、自分の身は守るだろう。
本編ではルルーシュであれば確実に死んでいたようなカレンのフルボッコに少し、顔がはれる程度で済んでいたのだ。
「おまえ…カレンに喧嘩売っているのか?」
「否…本気で知りたかったから…」
「なら…カレンがいなくてよかったな…。カレンが聞いたら、絶対にお前とバトルを繰り広げていたぞ…。そんなぼーっとした状態でカレンから逃げられるのか?」
ジノは、とりあえず、友情の為に尋ねてみるが…
「まぁ、大丈夫じゃない?ルルーシュなら普通の時でもカレンに喧嘩を打ったら命がないだろうけれど…」
ジノは本気で思った…
スザクは…カレンだけでなく、ルルーシュにも喧嘩を売っている…
と…
「私としては…ああいう、活発な子は好きだけどな…。それに…あの子の何かに夢中になっている時の目は綺麗だし…」
ジノが目を輝かせて話しているが…
「結局ノロケか…」
スザクは一言零すだけだった。
「おまえ…私にも喧嘩を売っているのか?」
「ああ…ごめん…。僕さ、カレンのオールヌード見た事あるんだけど…顔色一つ変えることなく、心が揺れる事もなかったんだよねぇ…。だから…ジノがカレンを好きだって野は解っていたから…どう言うところが好きか聞いたら、少しは考えが変わるかなぁ…と思って…」
スザクの言葉にジノが顔を引き攣らせる…
心の中では
―――私だってカレンのオールヌードなんて見た事ない!なんて羨ましい…じゃなくて、こいつ、あのナイスバディを見て心が動かなかったのか?
と思ったりしていた。
「あ、ルルーシュもカレンの裸は見ちゃいないけど、カーテン一枚隔てて入浴しているところに入り込んでるよ…。童貞のくせに顔色変えずに…」
ジノは頭の中で
―――こいつ…何の暴露話だ…>
と、悶々と考えていた。
そして、またもこの異様な空間に一人、生贄…じゃなくて、迷い込んできた者がいた。
「あらぁ…スザク君にジノ…珍しいコンビね…」
入ってきたのはシャーリーだった。
もう一人、人が入ってきてくれた事に、ジノは心の底から安堵した。
今、目の前にいるスザクは何かおかしいのだ…
ジノは、スザクからちょっと離れた所へ行き、シャーリーの耳元でひそひそ話を始める。
そして、ここまでの経緯を話すと…
「……と云う訳なんだ…。シャーリー…スザク…どこか具合悪いのかな?」
「どうしちゃったんだろうね…。本編じゃ、凄く疲れそうなキャラクターだったしね…。きっと疲れがたまっているんじゃないの?体力的なものはともかく…精神的に…」
「私は、本編じゃ、スザクはいつもおっかない顔をしているところしか見ていないしなぁ…」
「あ、でも、スザク君って、なんか真面目すぎて人間味を感じない…ってところあるでしょ?Sound Episodeじゃ、スザク君が乗っていたナイトメアの方が人間っぽかったし、あと、番外編は生徒会室に顔を出しやすい…って言ってたし…。だから、少し疲れちゃっているのかも…」
「あのスザクが?それはないと思うけど…。恋煩いでもしたか?」
「恋…あ…(和泉稜ワールドの中で)スザク君って、ルルにべた惚れだしねぇ…。最近、(和泉綾の書く小説内で)ルルの扱いって、凄く大変そうだったから、過労になっちゃってるのよね…ルルも…」
「へ?シャーリーってルルーシュが好きだっていう設定だったんじゃ…」
「本編ではね…。確かにルルってかっこいいし、素敵だと思うけど…なんか、雲の上の人って感じだし…どちらかと云うと、アイドルを見ているみたい…って感じ?」
シャーリーの一言で、ジノは思う…
―――(和泉稜ワールドの中で)ルルーシュっていい男過ぎて恋人が出来ないタイプだ…
「まぁ…確かに…。じゃあ、シャーリーはリアルに好きな奴って?」
「う〜〜〜ん…今はアイドルのルルを追いかけていたいって感じかなぁ…」
今のシャーリーの言葉で更に確信を得た。
―――ルルーシュ…このままじゃ死ぬまでシスコンか?
しかし、ジノの考えも、ルルーシュはそれはそれで幸せなのではないかと思ってしまう。
あの本編ではルルーシュ自身も相当辛かったようだし…
生涯、妹の小姑として、『そんな奴に大切な妹はやれん!』みたいな事を言っていれば、きっと、幸せだと思われる。
そして、嫁に行くときは、号泣して、『辛かったらいつでも帰って来い!ナナリーを泣かすような奴は俺が末代まで祟ってやるから…』くらい言いそうだ。
ナナリーの相手となる男は苦労するだろうが…
その無駄にいい頭をフル稼働させて、ナナリーを泣かせた日にはその相手に対して確実に死ぬより辛い地獄を味わわせに行くに違いない。
下手するとそいつの家の真上に、コンピュータをハッキングして、『フレイヤ』を落とす事さえも厭わないと思われる。
そんな事を考えていると…
「スザク…ぼんやりして…どうしたの?」
入ってきたのはアーニャ=アールストレイム…
彼女もジノと同様、ナイトオブラウンズの同僚だ。
「なんだか…恋煩いみたいなの…」
シャーリーが小声で答える。
すでに、ジノが最初に言った『スザクの様子がおかしい』と云う話から『スザクは恋煩い』と云う事にされている。
「ああ…ルルーシュ…来ていないから…」
「たぶんね…。それでもって、カレンに喧嘩を売るような事も言っていたって…」
シャーリーは完全に又聞きなので、ウソにはなっていないが、微妙に間違えている気がする部分もある発言だ。
「スザク…空気読まないから…」
「まぁ…そうだけど…。でも、何に悩んでいるんだ?」
さっきからぼーっとして会話に入ってこない。
スザクのような超人的肉体の持ち主なら、生徒会室でひそひそ話をしたところで、丸聞こえだと事は明白で…
それでも、つい、ひそひそ話をしてしまうのは、普段の習慣なのだろうと思われる。
「なら…聞いてみる…」
そういって、アーニャはスザクのところへと歩いて行く。
そして、肩をぽんと叩く。
「あ、アーニャ…」
「スザク…何そんなに真剣に考えてるの?」
ジノとシャーリーが『そんなにストレートに聞いちゃいますか…この人は…』と云う顔をしているが、アーニャ自身は何も気にしている様子はない。
そして…スザクも別に気にしている様子もなく…またもぼんやりと答える。
「ルルーシュって…男とは思えないほど、くびれもあって、色白で、肌も綺麗で、ひょっとすると女の子より軽いくらい細くて…しかも、女装させれば絶世の美女になるっていうのに、男なんだよね…。そうかと思えば、確かに胸は大きいけれど、性格も体力も男としか思えないカレンは女で…これって…どう思う?」
先ほど、アーサーにボヤいていたセリフを繰り返した。
「確かに…ルルーシュって…女よりも女らしい…」
どうやら、アーニャの同意は得られたようである。
その場にいたジノとシャーリーもうっかりアーニャの言葉にうなずいてしまった。
スザクは真剣に考えているのだ。
ルルーシュは何故女の子じゃなかったのだろうか…と…
男同士がアブノーマルと云われてしまうのなら…ジノの、男より男らしいカレンを選んだあの二人はどうなる!と云うのが素直な主張だろう…
リヴァルだって、確かにナイスバディだとは思うが、スザク的にはどうしても女性カテゴリーに入れる事が出来ないミレイに惚れているのだ。
女より女らしい男を好きになったらアブノーマルなのか?
なら、男より男らしい女に惚れてもノーマルだと云うのは…微妙に間違っている気がする。
「スザク…それ…カレンとミレイ会長に…喧嘩売ってる…」
アーニャの一言に、呆れながら頷いてしまっている反面…
確かに、ルルーシュに関してはスザクの言い分も間違ってはいない。
確かに、女より女らしい…
売られているフィギュアなどは…胸のない女性と言えるほどのくびれがあるのだ…
きっと、あのくびれにルルーシュに対して羨ましいと思ってしまう女性はきっと少なくない筈だ!
「ねぇ…スザク君?ひょっとして、ルルの事が好きで…アブノーマルだって言われるの…いやなの?」
おずおずとシャーリーが尋ねてみる。
「僕がアブノーマルって言われようが、変態って言われようが別に痛くも痒くもない…。でも、ルルーシュに対してそういう風に言われるのは…なんか悲しいなって…」
スザクは…周囲が考えているよりも遥かに単純に、ストレートに悩んでいたようだ。
ただ…ルルーシュが相手であれば…
「でも…ゲットーで『リフレイン』を売っていたコルチャックとか言う男も…いやらしい手つきでルルーシュに触っていたよな…。あれ、ルルーシュに『ギアス』がなかったら、絶対襲ってたと思うぞ…」
なんとなくフォローになっていない気もするのだが…
「そう…あの鬼脚本の所為で…ルルーシュを『リフレイン』に走らせようとしたり、カレンに『慰めろ…』とか言わせちゃったり…。あんな鬼脚本じゃなかったら僕が慰めてあげるのに…。カレン相手じゃ、ルルーシュが押し倒されて、美味しく頂かれちゃうじゃないか!」
「あ…あの…そんな風に泣いて主張しなくても…」
「それに…あの様子だと、カレンにはその気はなかったと思うぞ…」
シャーリーとジノのフォローも耳に届いている筈なのに…スザクはさめざめと泣いている。
「それに…あの時…その原因を作ったのは…スザク…」
人のフォローをぶち壊したのはアーニャである。
確かに間違ってはいないのだが…
アーニャの言葉にスザクは更に泣きだしている。
「アーニャ!」
「私…ホントの事…言っただけ…」
アーニャは相変わらず表情を変えずに一言だけ口にする。
「それに…スザクはアブノーマルじゃない…。ルルーシュ相手なら…老若男女…関係ない…」
アーニャの断言にさめざめ泣いていたスザクがアーニャの方を見た。
「じゃあ…僕がルルーシュを押し倒して、ルルーシュが僕を受け入れても…ルルーシュはアブノーマルとか、変態とか…言われない?」
「ルルーシュ自身は男…。スザクがルルーシュを好きになるのは仕方ない…。でも、ルルーシュが男の人…好きになったら…ルルーシュと同じくらいいい男じゃなければ…アブノーマルって…言われるかも…」
なんだか…解ったような…解らないような…
ただ…アーニャ自身、面白いと云う理由だけでここで口出ししている事だけは解る。
「あ…アーニャ?そろそろやめてあげた方が…」
「なんで?スザクはマゾ…いじめられて喜ぶ…」
ジノは心の中で叫ぶ。
―――アーニャ…それはたぶん違う…。絶対に喜んでいるようには見えない…
しかし、暴走しつつあるアーニャを止める手立てが思いつかない。
そして…暫くの間…これは無限ループとなり…繰り返されて行くのである…
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