ここは、1件目のアルバイト先、ハンバーガーショップ…
ルルーシュのその見目麗しい姿と、立っているだけで客が寄って来るナチュラルフェロモン、そして、計算ずくの笑顔でここのところ売り上げが倍増となったらしい。
店長がほくほく顔でルルーシュの出勤を待っている。
今日も、ルルーシュ目当ての(男女問わず)お客様が並んでいるのだ。
「いらっしゃいませ…ご注文をどうぞ…」
最近すっかり板についてきた営業用スマイル…
板についてきたというか、さらに輪がかかってフェロモン全開状態に、ルルーシュが一言、
『このハンバーガーにはこのドリンクがとても合うんですよ…』
だとか、
『これでは栄養が偏ってしまいます…。このグリーンサラダか、野菜ジュースはいかがですか?』
この一言でお客はもう一品追加していくのだ。
そして、ルルーシュが店に入っている時間帯には、アッシュフォード学園のルルーシュ親衛隊をはじめ、この店にルルーシュが立つようになってからできたファンクラブのメンバーたちまでがこぞってこのハンバーガーショップにハンバーガーを買いに来る。
お陰で、この街の住人の平均体重が増えたとか、増えないとか…そんな伝説まで出来ているらしい。
いつものようにルルーシュが独自で編み出した接客マニュアルでお客の対応をしていると…一人の青年が入ってきた。
ルルーシュは仕事に夢中でその青年が目の前に来るまで全く気付くことなく、いつもの様にフェロモンボイスとフェロモンスマイルで応対する。
「いらっしゃいませ…ご注文を…って…スザク!?」
その青年の正体に気づいたとたんにルルーシュの顔色が変わる。
何せ…こいつは天然(を装って)ルルーシュの仕事の邪魔をしに来るのだから…(少なくともルルーシュの中ではそう云う認識だ)
「やぁ、ルルーシュ…また来たよ…」
この、童顔のお子ちゃまスマイルにみんなは騙される。
そして、奥から店長まで出てきた。
「これはこれは…枢木卿…いらっしゃいませ…」
店長が出て来たのは好都合とばかりにスザクは店長に向かって笑いかける。
「こんにちは、店長さん。今日も、政庁のキャメロットまでいつもの通りにお願いします…」
時々、セシルが政庁を離れている時、こうして、ハンバーガーショップに買い出しに来るのだ。
セシルのいる時には流石にあからさまに買いに来る訳にはいかないが…
「はい、畏まりました…」
相手はナイトオブラウンズと云う事もあり、店長も失礼がないようにと細心の注意を払うが、スザクにとってはそんな事はどうでもよかった。
「あと、今日も『ルルーシュ=ランペルージ』君を…お持ち帰りで…」
爽やかな笑顔に長は『またですか…』と云う表情をして、ルルーシュは凍りつく。
「ご注文の品が揃いました…。あと、ルルーシュくんが抜けた分の埋め合わせは…お願いしますよ?」
こいつら…どんな取引をしているかは解らないのだが…
いつもこうして、ハンバーガーショップからルルーシュはナイトオブセブンに連れ去られていくのだ。
そして、この先、ルルーシュがどうなっているのかは…ルルーシュとスザクの二人しか知らない…
続いて、ルルーシュのその容姿に目をつけたのはホテルのオーナー…
立っていれば恐らくそれだけで宿泊客が増えると…ルルーシュをスカウトしたのだが…
またもや、枢木スザクの『ラウンズ特権』を使っての横暴が始まった。
「やぁ、ルルーシュ…」
ナイトオブラウンズだけあって、高級ホテルでも完全顔パス…
しかも、オーナーと支配人に(半ば脅迫に近い)直談判をしてルルーシュを専属ベルボーイにしてしまった。
結構強引な客であるのだが…ルルーシュを専属ベルボーイにする代わりに、スザクが使うのは、毎回最上階の最高級のスウィートルーム…
そして、頼むルームサービスも半端ではない。
元々、体力バカ故に、消費エネルギーも多いので、高級ホテルのルームサービスの様な上品にちまっと盛りつけられたような料理では、3人前食べても足りないくらいなのだ。
だから、スザクが来る時には、スザク一人で50万ブリポンは落としていくのだ。
そして、その、天然スマイルで従業員にチップを配りまくるので、今ではすっかり『いいお客さま』なのだ…ホテルにとっては…
しかし…ルルーシュ的には、恐ろしく疲れる仕事でもある。
スザクが来ない日にはルルーシュは休みになってしまうのだが…ルルーシュのためだけに地球の裏側の任地からでも日帰りで仕事を済ませて帰ってきては、このホテルに泊っていくのだ。
ナイトオブラウンズのお給料を知りたいと思うホテルの従業員たち…
しかし、ラウンズ特権で基本的にどんな施設を使っても殆ど金がかかる事はない。
ラウンズと云う立場は、皇帝直属ともあって、優遇措置は数多い。
高級ホテルに関しても、ブリタニアの税金で賄って貰える。
つまり、懐を痛めているのは、スザクでも、ホテルでもなく、ブリタニア帝国臣民の皆様だったりするのだ。
そして、スザクが来ると、ルルーシュはさっさとスザクに拉致されて、スウィートルームへ連れ込まれ…スザクがチェックアウトして1時間後くらいに彼が出てくる。
この時…ルルーシュはいつも顔が青白くなり、やつれているような気がしているが、ホテルの従業員たちは敢えて、スルーする事にしている。
―――触らぬセブンに祟りなし…
と…
それに、ルルーシュ一人が生贄に…じゃなくて、人身御供に…でもなくて、犠牲者に…(もう言葉が見つからないか…)なる事で、このホテルが潤うのであれば、あえて、ルルーシュに全てを押し付けようと云う…ホテル側の魂胆も見え隠れ…じゃなくて思いっきり見えている。
そして、次にルルーシュに『ぜひうちに…』と名乗り出たのが、アパレルショップ…
主婦歴8年はダテではなく、服の縫製、服の陳列などは、綺麗に行う。
そして、立っているだけでこれまたハンバーガーショップ同様、見栄えがするので、毎日ひっきりなしにお客が集まってくる。
ただ…ルルーシュにとって頭が痛いのは…
「こんにちはぁ…♪」
ここのショップはスザクの所属するキャメロットの制服の取り扱いもしている為、これまたしょっちゅうスザクが出向いてくるのだ。
と云うか、部下の制服の為に何で、ナイトオブラウンズ様が出向いてくるのやら…
本当は、ブリタニアにはナイトオブラウンズなんて必要ないのではないか…と思えてしまうほどスザクがお使い係をしているのだ。
「いらっしゃいませ…枢木卿…」
ラウンズになってから、お給料も上がり、しかし、生活費は国がすべて賄ってくれているので、基本的にお給料は全てお小遣いになってしまっているスザク…
自分ではあまりおしゃれな服を着る機会がないのだが…
「ねぇ、ルルーシュ…。僕、また、身長が伸びたみたいなんだ…また、採寸してくれる?」
スザクの言葉にルルーシュは思いっきり『やだ!』と拒否したいのだが…ここでは、ルルーシュはただのアルバイト店員…スザクはナイトオブラウンズと云う立場で、たくさんのお金を落として行ってくれるVIPなお客様…
流石に2件目の接客のアルバイトともあって、自分のプライドを優先させる訳にも行かず…
にこにこしながらルルーシュに(まるでマイメロのごとく)『お願い♪』のオーラを全開にしているスザクに対して、拒否する権限は、ある筈もなく…
とにかく、助け船を…と思って、店長を伺うのだが…
「ルルーシュくん、VIPのフィッティングルームが空いているから…そちらで…」
まったくもって頼りにならない店長に内心、涙にくれながら、精いっぱいの笑顔を作る。
「畏まりました…こちらへどうぞ…」
そう云って、ルルーシュはスザクをVIP専用のフィッティングルームへと案内する。
そして…もはや店長も店員も見て見ぬふりの状態なのだが…
この後、2時間は出てこない。
出てくる時には、いつもスザクはすっきりした顔をしているが、ルルーシュはふらふらしながら青ざめている事が多い。
そして、出てきた時のスザクの一言はいつもこうだ。
「どうやら、ルルーシュは具合悪いみたいなんで…店長さん、ルルーシュを早退させてあげてください。(ここからドスを利かせて)もちろん、ルルーシュはたくさん仕事をしているので…バイト代は差し引いたりしないで下さいね?」
そのスザクの表情に店の中の人間は皆…『顔は笑っている筈なのに…目が笑ってねぇ…』と、共通の感想を持つのであった。
そして、ルルーシュはそのままスザクにお持ち帰りされる事になった。
流石にここまでの接客業でルルーシュはすっかり疲労困憊してしまった。
だから、今度は接客業をやめて、夜の倉庫街の警備員をする事にした。
ここなら、きっと、スザクものこのこ来る訳にはいかない…と思ったのは甘かった。
「ダメだよ!ルルーシュ一人でこんな暗い所を警備なんて…。きっと、同僚の警備員達から襲われちゃうだろうし、怪しい人がいたって、ルルーシュじゃ抑えきれないでしょ?」
などと、心配そうにルルーシュに声をかけてきているのだが…
確かに…こうした倉庫街…警備員の中に現役軍人がいると云うのは心強いが…軍人の仕事は倉庫街の警備ではないのだ…
「大丈夫!ルルーシュが僕が守るからね!」
ここに…世にも珍しい、ナイトオブラウンズに守られながら倉庫街の警備をする警備員が誕生する。
確かに、スザクの腕は確かだ。
ミレイが体力大魔王の称号を与えるだけの事はある。
一度、この倉庫街に不審者が現れて、冷凍ビザが盗まれそうになったが、スザクが壁を走ったり、その強盗団の武器を素手でぶっ壊してくれたお陰で事なきを得た。
おまけにナイトオブラウンズだから、そのまま強盗団を根こそぎ逮捕…
「これは一石二鳥だね♪」
などと、のんきに笑っているスザクの無邪気な顔を見てルルーシュは、はぁ…とため息をついた。
どこの世界に皇帝直属の騎士が倉庫街の警備員をやっているんだよ…と…突っ込みたくなる気持ちを無理やり抑え込んでいる。
まぁ、確かに腕っ節の強いスザクが一緒に警備してくれる事は確かに心強い。
行っては何だが…ルルーシュ自身、それほど腕に自信がある訳ではない…と云うより全くない。
こんな危険なアルバイトでは一度でも襲われたらアウトなのだが…
しかし、ナイトオブラウンズとは暇なのだろうか…
いつもスザクには内緒でバイトを変えている筈なのだが…
それでもどこで嗅ぎつけて来るのか…そのアルバイトに入る日にはちゃっかりスザクも姿を現すのだ。
結局、ルルーシュは既に暗い倉庫街をスザクと二人で警備、見回りをしているのだ。
「なぁ…スザク…お前、ラウンズの仕事はしているのか?」
「当たり前じゃないか…。まぁ、ルルーシュのバイトの時間だけはジノとアーニャに任せているけれどね…」
スザクがサラッと返事をする。
ルルーシュは心の中で叫んでいた…
―――ナイトオブラウンズは暇なのか?世の中そんなに平和なのか?俺はもっと黒の騎士団の活動を活発化させなくちゃいけないのか?
と…
いつも嬉しそうにルルーシュのバイト先に現れるスザク…
今では、スザクの腕っ節やナイトオブラウンズであるという事だけで、
『絶対に内緒ですからね?』
と、スザクの雇い主に(どんな方法をとったかは知らないが)交渉してルルーシュの目に入る場所にいるのだ。
今でも、警備員仲間たちにナイトオブセブン自らが休憩用のお茶を配って歩いているくらいだ。
「はい…ルルーシュ♪」
そういって、嬉しそうにスザクはルルーシュにお茶を渡す。
「あ…ありがとう…」
なんでここで顔が赤くなるかは知らないが…何となくスザクの顔を正面から見る事が出来ない。
「ルルーシュ…アルバイト頑張っているね…。僕も、早くルルーシュの一人や二人、養えるくらいの収入になってルルーシュをお嫁さんにもらうからね♪」
スザクのこの一言にルルーシュは目が点になる。
ナイトオブラウズの給料は…確かにかじった知識程度にしか知らないが…庶民なら、1年で人生の半分くらい生活できるくらいの給料は貰っている筈だ…
それでも足りないと云うのか…
じゃなくて、ツッコミどころはそこではない!
「お前…今、俺を何に貰うって?」
「お嫁さん♪」
幸せそうに未来の話をしているスザクにルルーシュはもはや言葉が出ない。
この様子だと、いたって真剣に考えているらしい…
「お前…一度病院で頭の隅々まで検査して貰え…」
今のルルーシュに、最も大切な親友に贈れる言葉であった…
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