黒猫ルルにゃん6


※設定:
ルルーシュは人間界に迷い込んできた、猫の国の皇子様です。
スザクはそんなルルーシュに一目惚れしてさっさと連れて帰ってしまった心優しい(一歩間違えれば誘拐犯と云うツッコミはなしです)一人暮らしの軍人さんです。
ルルーシュは魔法を使って人間の姿になれますが…うっかり屋さんで、時々ドジる事があります。

 黒猫になってしまうルルーシュと暮らし始めてどれほど経ったか…
スザクが出かけようとした時、ルルーシュの姿がなかった。
「ルルーシュ?トイレに行っちゃったの?」
スザクが声をかけてみるが、返事がなく、シーンとしている。
そろそろ出かけないと遅刻してしまう…
仕方なく、スザクはいつも持っているカバンを肩に下げて玄関を出た。
そのかばん…なんだかいつもと感じが違っていたのだが…それでも、スザクの結構おおらかな性格のお陰で…
―――ま、いいか…。とりあえず、ルルーシュがどこにいるか解らないけれど、靴もあるし、家から出た様子はないから…
そう考えて、出勤する事にした。
スザクの職場と言うのは、軍の施設だ。
上司は特別嚮導派遣技術部と言う部署の部長さんだったりする。
元々、スザクは陸軍に入ったのだが、その運動能力と、メカの中に入っての順能力のお陰でこちらの部署の部長さんに引き抜かれた。
今では、その部長さんの作ったナイトメアフレームと言う、ヒト型汎用兵器(つまりロボット)のテストパイロットと言うのがスザクの仕事だ。
今、この部長さんがご執心なのは、スザクの乗る『Z-01ランスロット』と云うナイトメアフレームなのだが…
これは、部長さんの上司と言う人が、金に糸目はつけないと云う事で、とにかく、部長さん好みのカスタマイズで作られている。
当然、機能や性能も、量産型とは比べ物にならない。
本気で模擬戦をやらせると、最新の量産機を5機相手にしても負けないと云う代物だ。 その代わり、ネックになる部分もある。
高性能過ぎて乗るパイロットを選ぶ…と言う事だ。
ナイトメアフレームのパイロットは必ず特殊訓練を受けて乗れるようになるのだが、この『ランスロット』の場合、その訓練の他に神より授けられし才能が必要となって来る。
その部長さん、なかなかテストパイロットが見つからず、途方に暮れていた時に…スザクと運命の出会いをした。
部長さんの名前はロイド=アスプルンド…
ナイトメアフレームの研究者の中では一目置かれる存在ではあるのだが、その、変わった性格のお陰で、『変人』と言う称号も持っており、なかなかこのマッドサイエンティストと言っても決して間違いではないこの部長さんに近づく研究者は決して多くない。
実際に、この特別嚮導派遣技術部に配属されて、まず試されるのが…
『この人…ここで半年持つかしら…』
と言う事だ。
だから、新入りはとりあえず毎年多めの人数で募集しておく。
その中で半分残ればいい方である。

「おはようございます…」
 スザクが更衣室に入って、自分のバッグを開ける。
中にはルルーシュお手製のお弁当とか、洗ったばかりのタオルとか、最近、『汗をかいた時の水分補給にはこれがいい…』と云って持たせてくれているルルーシュ特性のスタミナドリンクの入った水筒とか…
と思っていたのだが…
中を開けてみると…
「ル…ルルーシュ???」
そこには、猫の姿になったルルーシュが丸くなって眠っていた。
とりあえず、お弁当とか、必要なものはちゃんと入っているようだが…
「そうか…それで、持ったときに違和感があったんだな…」
否、そんな事より、ここは軍の施設で、スザクの職場…
ペットを連れて来た(猫の姿ではペットと言われても文句は言えない)とあっては…
「ルルーシュ…ルルーシュ…」
スザクはルルーシュの身体をゆすって起こそうとする。
ルルーシュは…異変に気づいたのか…ふぁあ…とあくびをしながら目をこする。
「ん…?あれ?俺…眠っちゃったのか…?」
「眠っちゃったのか…じゃないよ…。なんで僕のカバンの中で、猫になっている君がいるのさ…」
スザクの疑問は尤もで…
とりあえず更衣室に誰もいない事を神に感謝した。
「だって…スザク…いつも俺の知らないところに云っちゃうから…。それに…俺にはスザクしかいないのに…スザクは俺以外にもいっぱいいる…」
聞きようによっては妙な意味に取られかねないセリフをさらっと吐くルルーシュなのだが…いま重要なのは、そんな事ではなく、なんでルルーシュがついてきちゃったのかである…スザクにとって…
「そんな事を聞いているんじゃないよ…。今日は、僕、夜まで仕事なんだよ?ここではルルーシュの好きなパソコンも出来ないし…。ここで人間になっちゃったら、ルルーシュは全裸だろ?それじゃあ、人間に戻れないし…」
確かにスザクの云っている事は真実なのだが…
それでも、これからどうするんだと、猫の姿のルルーシュに云って、意見を求めている当たり…既に間違っている気がして来たのは…多分、スザク自身が疲れているから…と言う理由だけではないだろう…
「別に…俺、スザク以外の人間の前で話ししないし…それに…あの銀髪メガネと黒のおかっぱ頭…スザクと仲よさそうだったし…」
初詣に行った時の話だ。
今になってそんなネタを持ち出してくるのは反則だ…とも思うのだが…
それでも、ついて来てしまったものは仕方ない…
「とりあえず、ロイドさんとセシルさんに云って、ルルーシュを家に連れて行ってあげるから…」

 スザクがそこまで云った時、ルルーシュはスザクがカバンを入れようとして開けたロッカーの上に飛び乗ってしまった。
「やだ…」
そう云って、ルルーシュはぷいっと顔を背けてしまった。
これが…仕事が絡んでいるときでなければ、この上なくかわいらしい態度なのだろうが…
ここは職場の更衣室で、これからスザクは仕事なのだ。
ペット同伴で仕事をするなんて…絶対に出来ない…
まして、精密機械の多い場所だ。
ルルーシュはどうなのか知らないし、ルルーシュはいつもスザクの部屋を完璧にきれいにしているので、猫の毛とかどうなっているのか…解らないが…
それでも、ルルーシュも生きているのだから、抜け毛などは当然あるだろう。
スザクの職場はそう云ったちりやほこりは厳禁な場所なのだ。
「ルルーシュ…お願いだから…云う事を聞いて?ここって、結構広いし、迷子になって、他の誰かに見つけられちゃったら、外に追い出されちゃうよ…」
「見つからないようにスザクの服の中に隠れているからいい…」
またまた、とんちんかんな答えが返ってくる。
スザクが着るのはナイトメアのパイロットスーツでとてもルルーシュが隠れる隙間などないし、普段着だって、ルルーシュが入ってきたら隠しきれるわけがない。
「ルルーシュ…これ以上困らせないでよ…とりあえず…」
―――ガチャ…
会話中に誰かが入ってきた。
スザクがビクッとなって扉の方を見ると…普段ならとっくに研究室に入っているロイドが入ってきた。
ロッカーの上からルルーシュはロイドを見つめる。
―――あの時の…銀髪メガネ…
初詣の時にルルーシュに意味深な言葉を残した。
―――あいつ…異母兄さまが上司だって云ってた…。俺の事…どこまで知っているんだろう…
そんな事を考えていると、ひょいっと、誰かがルルーシュの身体を持ち上げた。
と云っても、ここにはスザクとロイドしかいないのだが…
ルルーシュを抱き上げたのはさっきからルルーシュを帰そうと説得していたスザクではなく、後から入ってきたロイドだった。
「オイタはダメですよぉ〜ルルーシュ殿下…♪」
ロイドのその一言は…ルルーシュもスザクも凍りつかせるには十分な一言であった。
そして…この状態で凍りついているルルーシュとスザクをロイドは…とっても楽しそうに眺めていた…

 それからどれほどか時間が経って、やっと、我に返ったスザクがルルーシュを抱いたままのロイドに声をかける。
「あ…あの…ロイドさん?」
状況は飲み込めていないが、何となく、困った事になった事を察知したスザクがロイドに声をかけるのだが…
ロイドの方はと言えば、ルルーシュの頭を優しく撫でてやっている。
まるで、自分の可愛がっている飼い猫にするかのように…
ルルーシュはと言えば、凍ったまま…と言うか、無駄に云い頭をフル回転させている最中でそれどころではないらしい。
「色々聞きたそうだねぇ…スザクくん?」
スザクの様子を楽しんでいるかのようにロイドがにこにこ笑いながらスザクに、いつもの調子で話しかけている。
ロイド自身、スザクが何を聞きたいのか、大体の察しはついているんだろうが…
「とりあえず…立ち話もなんだから…応接室へ行こうか…」
ロイドは事もなげにルルーシュを抱えたまま、そして、スザクには『まだ着替えなくていいから…話が終わったらでいいよぉ…』と云って、更衣室の外に出て行く。
スザクとしては、ここでルルーシュを取り上げられるのは絶対に嫌だ…
折角、一人ぼっちじゃなくなったのに…
折角、大好きな相手を見つけたのに…
そんな思いでロイドの後についていく。
そして、応接室につくと、ソファの上に何で準備されていたのか解らない小さなクッションを置いて、その上にルルーシュを置いた。
そして、スザクに対してはルルーシュの隣に腰掛けるようにと促す。
「聞きたい事…いっぱいあるって顔だねぇ…」
相変わらず、間延びしたような言葉遣いに、ちょっとふざけたような表情…
ルルーシュもスザクもこの謎の人物に対しては険しい顔をするしかない。
「そんな怖い顔をしないでよぉ…ルルーシュ殿下にはこの間お会いした時にも行ったでしょう?シュナイゼル殿下には黙っておきますからって…」
やっと、ルルーシュが反応出来る話が振られた。
「どうして俺の事を知っている?大体、お前は誰だ…?名前の知らない人間にそんな呼ばれ方をするのは…正直不愉快だ!」
いつもと違うルルーシュに…スザクは驚きの表情を隠せない。
いつもは…すぐに人見知りして、スザク以外の人間と、人間の姿をしていても話す事は滅多にない。
「相変わらずですねぇ〜…でも、ルルーシュ殿下は僕の事はよく知っているんですよ?ほら…アリエスの離宮に…シュナイゼル殿下と一緒に行った時に何度かお会いしていますしねぇ…」
そこまで云われて…ルルーシュははっとしたような表情を見せる。
その表情を見た時、ロイドは嬉しそうな笑顔を見せた。
「やっと思い出して貰えましたね…」

 ただ…ここで一人蚊帳の外の人間がいる。
そう…現在、ルルーシュと一緒に暮らしている、特別派遣嚮導技術部所属の枢木スザクだ。
「あの…ロイドさん?」
おずおずとスザクがロイドに声をかける。
「ああ、ごめん、ごめん…。スザクくんにはよく解らない話だよね…。ルルーシュ殿下の事は…どこまで知っているの?」
ロイドがスザクに質問する。
「えっと…猫帝国って言う国の皇子様だって事と、猫の姿になったり、人間の姿になったりするって事…。あと、あんまり疲れ過ぎると、猫の姿になったまま人間になれなくなっちゃったり、人間の言葉を喋れなくなったり…って事くらいでしょうか…」
上司に促されるままにスザクは話した。
「まぁ、知っている事は全部正解だね…。そう、ルルーシュ殿下は、ルルーシュ=ヴィ=ブリタニアと言う、れっきとした皇子様…。ただ…猫帝国の皇室って…皆さん、とってもルルーシュ殿下に執着されていてね…。みんなして、毎日戦争みたいにルルーシュ殿下を取りあいするものだから…ルルーシュ殿下が嫌気をさして宮殿を飛び出しちゃってねぇ…。で、偶然らしいけれど、こっちの世界へ落ちる穴に落ちちゃった…って事なんだよ…」
ロイドの言葉にスザクは『ホントかよ…』と思うが…ただ、ルルーシュが喋れるのも、人間になったり猫になったり…と言うのは本当だし…
多分、ウソはついていないのだろうとは思う。
「で、なんで僕とルルーシュをこんなところに連れ込んで話をしたいなんて言い出すんですか?ロイドさんは、ルルーシュが猫の姿をしていてもちゃんと普通の黒猫と見分けがつくみたいですし…」
「まぁねぇ…。僕自身もルルーシュ殿下の住んでいた国の住人だしねぇ…。それに…僕はルルーシュ殿下より先にあっちの世界よりもこっちの世界の方が気に入ってこっちに来ちゃったクチだし…」
サラッととんでもない事を云っているが…
「で、ロイド…お前、この前、異母兄さまがお前の上司だと云ったな?なんで、異母兄さまがこっちの世界にいるんだ?」
「そりゃぁ…もちろん…殿下を探す為ですよ…」
ルルーシュの顔が思いっきり嫌そうに引きつる。
「大丈夫ですって…。僕もスザクくんを手放したくありませんからね…。スザクくん、殿下と一緒に暮らすようになってから、とびきりのデータを連発してくれるので…それを邪魔されたくないですから…」
ロイドの言葉にルルーシュもスザクも驚くが…どうやら敵ではないらしい…
「ロイドさん…その…シュナイゼルって言う人が来て、ルルーシュが僕のところにいるって知ったら…どうなりますか?」
スザクは素直に思った疑問をぶつけてみた。
「まぁ、シュナイゼル殿下の事だから…攫ってでも連れ帰るだろうねぇ…。でもって、誰にも見つからない場所に監禁…」
ルルーシュは『あり得ない事じゃない…』と顔を引きつらせ、スザクは絶対に手放さないぞとばかりの怖い目をしている。
「だから…僕は君たちの味方…。安心していいよ?あと、セシル君は事情を知っているから…。スザクくん、着替えて、ルルーシュ殿下と一緒にシミュレーター室へおいで…」
そう云って、ロイドは部屋を出て行った。
「ホントに…君って、凄いんだね…」
「別に…凄いとかじゃなくて…俺の両親や兄弟たちが変なんだ…」
ルルーシュは大きくため息をつきながら…でも、とりあえず、協力者が得られたらしいと…少しだけ安心して、腰かけているスザクの膝の上に飛び乗った。

『suzaku×lelouch short story』へ戻る
『Novel』へ戻る トップページへ

copyright:2008-2009
All rights reserved.和泉綾