おでん屋 ルルやん2


 時は平成、ところは東京下町…
現代社会の片隅に、今日も愉快な仲間が集まる小さなお店がありました。
そのお店の名は…

おでん屋 ルルやん

 冬場のおでん屋さんはルルーシュの店でなくても繁盛する。
既に、ルルーシュがナナリーから半ば強制的に押し付けられた、このおでん屋さん。
冬でなくとも女性客がたくさん集まってくる。
それは…完璧主義で、主婦歴20年のベテランの奥さまも真っ青なきっと、知る人であれば、『お嫁さんにしたい人物No.1』と謳われる程の料理の腕前を持ち、そして、何よりも荒んだ心を癒してくれるその、『萌え♪』…じゃなくて、見目麗しいその美貌…
それを求めてくる女性客が多い。
その内に噂が噂を呼び、男性客(基本的に女っ気のない職場で切ない思いをしている男性たち)も集まって来るようになったのだ。
帳簿だけ見れば、それこそ飛躍的な数字になる。
ここまで男性客が増える前は、一旦は仕入れを減らしていた男性客の好みそうな日本酒やら焼酎などの入荷もここ最近では、減らす前と同じくらいの仕入れをしているのだ。
勿論、女性向けのアルコール類の仕入れはそのままだ。
つまり、店の規模を拡大せざるを得なくなり、また、女性客が安心してこう云った酔っぱらいが現れる店であっても足を運べるようにするべく、ルルーシュは精一杯の心遣いをしていた。
ルルーシュはこれでも、女性には弱い。
とは言っても、もてるくせに初心過ぎて、あまりに危険な存在でもあるのだが…
仕方なく、最近では、警備員代わりとして、腕っ節に自信のあるカレンやスザクにはいつもいて貰うようにしている。
時々、二人とも都合がつかない時は仕方なく、玉城を呼ぶのだが…
しかし、玉城を呼んだ時には、決まってトラブルが発生するのだ。
短期で喧嘩っ早い玉城は、まぁ、女性に対しての正義感はそれなりにあるのだが、気に入らない男性客などを見つけると相手に喧嘩を吹っ掛けて、自分は負けると言う…何ともカッコ悪い醜態をさらすので、一度警察を呼んだ事もあり、さっさと出入り禁止にしてしまった。
そのときばかりは、ルルーシュ自身、自分の非力さを呪ったものだが…
しかし、一応、ナナリーから渡されているスタンガンをを使わずに済めばそれでいいと考えてはいるが…
ルルーシュの場合、力は本当にないが、舌先三寸を絵に描いた様な奴なので、相手に考えるだけの頭がある場合には、何とかできる事も多い。
大体、この年で、あれだけの資産を荒稼ぎ出来るだけの頭があるのだ。
スザクは努力の方向を完全に間違えていると評したが、(和泉も含め)そんな相手を云い負かせて交渉事をこなせる舌先三寸ならのどから手が出る欲しいと考える人間は少なくないだろう。

 しかし、ナナリーの謀略により、ルルーシュはこの店に縛り付けられたままだ。
しかも、ナナリーの野望の為、おでん屋さんを開いているとき以外には自分がこれまで大きくしてきた企業の状況も考えねばならなかった。
そう、ナナリーは兄のその金儲けの才能に期待しているのだ。
そして、勝負に負けたのはルルーシュだ…
客の方はルルーシュのそんな事情を知らないが、それでも、そのナナリーとの勝負に立ち合っていたメンバーたちは少々ルルーシュに同情の色を見せている。
何を隠そう、ルルーシュは超ド級のシスコンで、ナナリーの涙を見せられたら普段の舌先三寸は既になきに等しい。
それは…ルルーシュ自身の甘さでもある。
ルルーシュは…今はそう思って、ナナリーの為にこの店を切り盛りして、そして、資金調達に勤しんでいるのだ。
ナナリーの真意を知るスザクなどは…
―――もう、ルルーシュは必要以上にお金を稼ぐ事なんてないのに…
と思っているのだが…
それに、ルルーシュが店を大きくしてしまっているお陰で、そろそろ…と云うよりも、随分以前から、ルルーシュ一人で支え切れなくなりつつある。
と云うか、さっさと、某IT社長の真似事をやめてしまえば、ここまでハードな生活になってしまう事はない筈なのだが…
どうも貧乏性らしく、寝る間も惜しんで、ナナリーの店を守り、それまでルルーシュが作ってきた株式会社『黒の騎士団』の経営も継続している。
せめて今の社長職を副社長であるジェレミアあたりに任せて、ルルーシュは会長職にでもなって、相談役にでもなってしまえばいいのだ。
ここまでシスコンだと…何となく、スザクと神楽耶の関係を思わせる部分も無きにしも非ずだ…
スザクとの決定的違いは…ルルーシュはナナリーに使われる事に『苦痛』を感じている訳ではないと言う事だ。
多少の欲求不満がある程度だ。
後…自分が作った会社の方も…放り出してしまうと言う、そんな無責任な事も出来ないし、したくない…
そういった、表向きな冷酷さとガサツさとは裏腹に、かなり繊細に神経質にしかも、綿密にルルーシュ自身、気を配っていた。
下手に社長職から退いて、社内に動揺が走り、今いる社員たちに迷惑をかける訳にも行かず…
隠し金庫に普通に1億円も隠し持っていられるほどの会社だ。 トップの退陣ともなれば、それこそ、社内に留まらず経済界を揺るがす事にもなりかねない。
となると、緩やかに…外から見たら本当に解らない程度の変化で…ルルーシュは離れてい行かなくてはならない。
いっそ、下克上の様に社長の椅子をかっさらってくれる人間でも現れてくれるとありがたいと思うのだが…

 そんな中…スザクが自衛隊の仕事で1ヶ月ほど、出張でルルーシュのおでん屋さんに来られなくなっている。
一応、カレンは店(バニーちゃんパブ)の仕事が終わると来てくれるのだが…その仕事が終わる時間はなかなか遅い時間で…
一度、カレンがおでん屋さんに来た時に、ルルーシュは、女性客に囲まれて、すっかり、セクハラ会話の餌食にされていた。
あと、カレンの来店が10分遅ければ、おでん屋さんではなく、ルルーシュのおさわりパブになっていたかも知れない。
いつもなら、スザクが完全にシールドを張っていた。
そう…それを初めて知ったのは、スザクが職場の付き合いとやらで、ルルーシュのおでん屋さんに来る事が出来なかった時だ。
その時には…あれだけ不遜な態度であの時、ルルーシュはこの街に帰って来たのだが…
おでん屋さんになって、それまで、ルルーシュとスザクのやり取りに興味を持っている女性たち…と思っていたが…
ルルーシュに、自分がどれだけ老若男女問わず、襲われる可能性があるか…危険な状況であるのか…と云う自覚を多少なりとも意識したのは…多分、その時だろう。
以後、妙な噂が噂を呼んで、妙なBLストーリーが作り上げられている。
それこそ、女性客10人がいれば、10作品出来ている。
きっと、彼女たちの頭の中をのぞき見る事が出来たのなら…内容的にはピンからキリまで…だろう…
ほのぼのなものから…自称『一般人』の皆様からは白い目で見られそうなものまで…
そんな状態が続いていた中でも…スザクはしっかりとルルーシュの貞操を守っていたのだ。(当の本人はしっかりと美味しく頂いていたが)
と云うよりも、スザクの並々ならぬルルーシュに対する独占欲により、笑顔の殺気を振りまいていたのだ。
そんなスザクに対して、女性客たちの中では賛否両論…
ルルーシュのお近づきになりたいと考える女性たちは、何としてもスザクをどかして、ルルーシュと仲良く話したいと思っていたが…
スザクのお近づきになりたいと考える女性たちは、スザクの天然(に見える)スマイルによって制圧された。
そして、ルルーシュとスザクのBLを妄想している女性たち(実は、この種類の女性が一番多い。リアルよりも妄想に走りまくる女性たちが集まっていると言う事だ)は、二人の醸し出す空気に酔いしれる。
そして、スザクの鉄壁のシールドによって、このおでん屋さんはスザルル劇場を見る為のステージとなり果てていた。

 となると…スザクが出張などでこのおでん屋さんに来られなくなると、一気に『ルルーシュのお近づきになり隊』のメンバーたちが増える。
そうなると、ルルーシュは一気にセクハラ対象となる。
あまりに女性客の割合が高く、スザクがいない時に男性客が来ると更にルルーシュの貞操が危うくなる。
と云うのも、男の場合、女よりも力が強い分、非力なルルーシュでは逃げきれないからだ。
一応、ナナリーが渡してくれたスタンガンがあるのだが…おでん屋さんは客商売だ。
下手な事をする訳にはいかない…。
それに、ルルーシュの留守中に一人でナナリーが守り続けてきた店をルルーシュの所為で評判を貶める訳にはいかないのだ。
スザクが帰ってくるまで…あと1日…
しかし、1ヶ月もの出張の後…そのままここに来るのは大変だろう…。
つまり、スザクが再びこの店に来るのは、早くても明後日…と云う事だ。
スザクからのメールや電話は基本的に期待は出来ない。
彼の性格上、そう言った事をまめにするタイプじゃないし…自衛隊の仕事は、いくら体力バカのスザクでも体力的にしんどい物があるだろう。
それに、バカがつくほど仕事に対して真面目なスザクだ。
それ故に、ルルーシュの店に来て、一杯飲むとつい、ぶっちゃけトークになる事も多いのだ。
アルコールを飲むと、普段の顔と変わってしまう人間は多い。
ただ…スザクとしては、ナナリーから頼まれている事があった。
ナナリーはルルーシュがこの店のカウンターに立つ事になった時、確実に客の数も、客層も変わって来ると予想出来ていた。
だから…スザクに対して、ルルーシュを守る様に…ナナリーは頭を下げていた。
なんだかんだ言いつつ…ナナリーもルルーシュに対してはしっかりブラコンを発揮している。
本当は、ルルーシュを美味しくしっかり頂いているのはスザクであると…解ってはいたが…恐らく、ナナリーにとって、恐らく、不特定の男女よりも、身元がはっきりしていて、自衛隊と云う、少々危険な仕事ではあるが、スザクの身体能力を考えれば恐らく大丈夫だし、何と云っても、不景気の昨今、一番頼りになる職業の公務員だ。
しかも、自衛隊と云うのはいろんな手当てがあって、経済的にも不自由はしないだろうし、訓練中、作戦中に何かあった場合、保証もばっちりだ。
スザクの性格からして、決して、マスコミに祀り上げられて、懲戒免職…と云う心配は限りなく0に近い。
将来性を考えると、店の女性客に渡すくらいなら、スザクに預けた方がいい。
スザクに対してなら好きな事を言えるし、小姑として、少々どの過ぎたいびりをしたところでへこたれる事はない。

 そして…スザクが帰ってきた日…
「今晩は…ただいま…ルルーシュ…」
制服のままスザクがルルーシュの店に姿を現した。
しかも、開店したばかりで…まだ誰も来ていない店だ。
スザクが来るのはいつも、何人かの女性客が着ている時だ。
「あ…どうしたんだ…スザク…。今日、帰ってきたばかりだろう?」
ルルーシュが驚いた顔をしてスザクを見る。
1ヶ月ぶりに見る…スザクの顔…
まぁ、スザクとしても同じなのだが…
このスザクのいなかった1ヶ月のルルーシュの苦悩もこれで暫くはスザクによって守られる。
少しほっとしたようにルルーシュが入口から暖簾を中に引っ込めた。
「ルルーシュ…いいの…?」
ルルーシュの行動にスザクが驚いて尋ねる。
「今月のノルマは達成している…。たまにはいいだろう?」
ルルーシュが店内に暖簾をしまって、とりあえず、鍵を閉めておく。
下手に客が入って来て貰っても迷惑だ。
ルルーシュ自身、すっかり今の生活にどっぷり浸かってしまっており…
今では、社員の事さえなければ、社長職など放棄してしまいたいとさえ考えている。
最初は…ナナリーの行動に憤りを覚えたが…それでも…こんな幸せもある…そう教えてくれたのは、多分、スザクとナナリーだ…。
ただ…客商売でなければもっと良かった…とも思うのだが…
それでも、時々、こうして店を使っての、ちょっと秘密の逢引きも悪くない…そんな風に思えてしまう。
ルルーシュ自身、ここで、この生活を始めてから自分の中にいる、スザクの存在の大きさに気づいたし、スザクも、長年の思いが伝わった…そんな風に考える。
二人とも…ちょっと過激なやり方ではあったが、ナナリーには感謝している。
ナナリーは…さすがルルーシュの妹と云うべきか、しっかりとコンビニへこの店のおでんを卸すと言う、企画を着々と進めている。
次のシーズンにはその商品が、コンビニに並ぶところまで…来ている。
ナナリーの生活も充実しているようだ。
そして、ルルーシュの売り上げに関しても満足しているらしく、時々かかってくる電話もかなりご機嫌だ。
ルルーシュはスザクに、いつも飲んでいる酒をスザク専用のグラスに注いで渡す。
そして、ルルーシュも…自分のグラスにその酒を注ぐ。
ルルーシュが注ぎ終えると、二人はグラスを持って、カチッと…軽い音をたてた。

 時は平成、ところは東京下町…
現代社会の片隅に、今日も愉快な仲間が集まる小さなお店がありました。
これは…そんな小さなお店の…ちょっとだけ心温まるお話…

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