僕は…君が為に裏切り続ける…2


 神根島で『ゼロ』…否、ルルーシュはスザクとユーフェミアの手を取った。
カレンの本心を…スザクとユーフェミアが見抜いた。
そして、いずれ、『黒の騎士団』は、放っておいてもルルーシュを裏切ることくらいは何となく予想が出来た。
ルルーシュ自身、それだけの事をしている自覚はあった。
ワンマンな戦闘集団となっていた…。
確かに、今の段階では都合はいいかもしれないが、完全に『ゼロ』がいなければ何もできない集団となってきているのは確かだ。
現在、盲目的に『ゼロ』を崇拝している『黒の騎士団』達に、『騙された』だの『裏切り者』だのと言った陳腐な罵倒をする資格はない。
スザクとユーフェミアはそんな風に考えていた。
元々、ルルーシュがいなければ自分で考える事もままならない…と言うよりも、『ゼロ』の存在のみ、彼らの存在意義を見出している。
つまり、自分で考えると言う事をしてはいないのだ。
そんな連中が…いざ、日本が独立した場合、『ゼロ』に対して力になると思わないし、かりに失敗した時には、彼らは『ゼロ』に対して全責任を押し付ける。
そして、ルルーシュの、『黒の騎士団』を立ち上げた本当の意味を知った時には…恐らく、被害者面して、『裏切り者』として…『ゼロ』を排除する方向へ行く。
ともなれば…ルルーシュは…スザクとユーフェミアの望む方向へ行くとは思えなかった。
だから…恐らく、式根島でのあの攻撃を支持したのは…第二皇子シュナイゼル…
あのシュナイゼルの攻撃で、一人、邪魔な存在はいたものの、二人はルルーシュと再会を果たした。
そして…ルルーシュは…二人の手を取った…
彼らにとって、ルルーシュに『コマ』として認められたこと自体、誇りなのだ。
スザクも、ユーフェミアも、ただ、ルルーシュの為に存在したいと願っていたから… スザクもユーフェミアも、ルルーシュを愛し、ルルーシュの為に戦いたかった。
だから…
『黒の騎士団』から…抜け出させたかった。
確かにルルーシュの作り上げたレジスタンスグループなのかも知れない。
しかし…あんな甘い、甘ったれた連中に…二人はルルーシュの身を預けるなんて許せなかった。
本気でルルーシュを守る人間がいないのなら…『ゼロ』自身は『裏切り者』の誹りを受けようと…ルルーシュを守れれば…そして、ルルーシュが守りたいと願っているナナリーが守れれば二人の目的は叶うのだ。

「ルルーシュ…あなたの親衛隊の隊長さんの本心を知って…辛かったのでしょう?」
 ユーフェミアがルルーシュを心配して声をかける。
スザクも心配そうな表情をしている。
カレンからルルーシュを攫って、まだ、神根島にいた。
ルルーシュの方はと云えば、相変わらず黙ったままだった。
あの時…思わず二人の手を取ってしまった。
「否…でも…スザクも…ユフィも…『ゼロ』の正体…知って…どうするつもりなんだ…」
ルルーシュが下を向いたまま、二人に低く尋ねた。
確かにあの状況で…カレンに正体がばれて…少なくとも…カレンのあの態度は…ばれれば…仕方ない…そうは考えていたが…それでも…ショックがないと言えば嘘になる。
それでも…こんな形で…二人の真意も解らぬまま、二人の手を取ってしまった。
多分…この二人なら…ナナリーには…絶対に危険を及ぼさない…
それについては疑う余地はない…
しかし…ルルーシュ自身の身は…
―――でも…いいか…この二人なら…ナナリーを守ってくれる…。スザクも、ユフィも俺達の事情は知っているのだから…
そんな事を頭の中で考えていると…両頬にぱちんと叩かれた。
大した力ではないが…考え事をしていた今のルルーシュには結構な衝撃だ。
「!」
ルルーシュが驚いた顔をして、その、ルルーシュの頬を叩いた手の持ち主の顔を見る。
「ルルーシュ…僕たちは…絶対にルルーシュを裏切らない。それに…僕たちにもナナリーを守らせてよ…」
「そうですよ…。あなたの秘密を知っているのですから…『黒の騎士団』に身を置くよりも信用は出来るでしょう?」
スザクもユーフェミアも真剣な目でルルーシュを見つめている。
今の二人の目は…
―――絶対に後には引かない時の…目だ…。確かにカレンに正体がばれたのであれば…『黒の騎士団』には…戻れないが…
そんな事を考えながら…ルルーシュはやや悲しげに…目を閉じる。
本当にこの二人とナナリーを守って行けたら…と…思う…。
しかし…ルルーシュには…『ギアス』の問題もある。
C.C.の事も…
この二人は…自分の大切な存在なのだ。
巻き込む訳に行かないし…
―――なら…傍にいられないような状況を作れば…
ルルーシュは心を決めた。
『黒の騎士団』のメンバーであるカレンにこんな形で正体がばれてしまった事はイレギュラーだったが…
それでも…他の方法がない訳ではない。
とりあえず、キョウト六家の協力を取り付けたが…『ゼロ』の存在によって取り付けたキョウト六家からのバックアップだ。
『ゼロ』がいなくなったとなれば、桐原とて、『黒の騎士団』に協力するメリットは基本的にはない。
桐原は…ルルーシュが『ゼロ』である事も、これまでの『黒の騎士団』の戦果が『ゼロ』のお陰である事も承知しているから…『ゼロ』のいなくなった『黒の騎士団』に彼にとっての存在意義はなくなる。

 ルルーシュは深く息をしてから…目を開いた。
「俺にかかわるのは…やめておけ…」
小さく呟いた。
小さな声ではあったが、スザクもユーフェミアも決して聞き逃さなかった。
「なんで?」
「何故です?」
二人の声がシンクロしてルルーシュの耳に届く。
ルルーシュは出来るだけ…酷薄な笑みを浮かべる。
「ふっ…俺は…既に人間の理の中では生きられないからだ…。俺は…『悪魔』と契約しているからな…」
ルルーシュの言葉にスザクもユーフェミアも動きを止める。
ルルーシュの酷薄な笑み…
多分、彼の事を知らない人間であれば、ルルーシュの言葉を額面通りに受け取るだろう。
しかし…
「俺は…『ギアス』と言う能力を以て、これまでにも数多くの人間を操ってきた。スザク…お前もな…」
ルルーシュの言葉にスザクが複雑な表情を一瞬だけ見せるが…再び柔和な笑みを浮かべる。
「ルルーシュ…それがどんな能力かは知らないけれど…でも、それで…僕は君の役に立てたのかい?」
スザクの言葉に…ルルーシュはただ、唖然とするしかなかった。
ルルーシュの言った言葉の意味を理解していないのかも知れない。
情にほだされて、一瞬の気の迷いなのかも知れない。
だとするならば…スザクもユーフェミアも決して傍に置いておくわけにはいかない。
ルルーシュは…ナナリーの為に…自分の魂を売り払ったのだから…
その『業』にこの二人を巻き込む訳にはいかない。
そうは思うが…この二人の心強い言葉に縋りたくなってしまう…
―――こんな事でどうする!
ルルーシュは自分自身に叱責している。
「スザク…お前は…ずっと、『死に場所』を求めていたな…。自分の『罪』を償う為に…。俺は…それを知りながら…お前に…『生きろ!』と言うギアスを…」
流石にここまで云えば…スザクも引きさがるだろう。
スザクが引きさがってくれれば、ユーフェミアに傾倒しているスザクであれば、ユーフェミアも連れて帰ってくれるだろう。
『黒の騎士団』を利用できないのであれば、また…他の方法を考える…
そんな思いだった。
「そう…だから…僕は…式根島のあの時…助かってしまったんだね…。いつ、その『ギアス』って言うのをかけたか知らないけれど…でも…それがなかった時には…あの、君と再会した時の様に…死に急いでしまったかも知れない…。折角…僕の生きる理由が…見つけ出せたのに…」

 スザクの言葉に、ルルーシュは驚き、ユーフェミアは静かに頬笑みを見せる。
「おまえ!俺の云っている意味が解っているのか!俺は…お前の意思を捻じ曲げて…」
ルルーシュがそんな風につい先ほど、スザクにかけた『ギアス』について説明する。
スザクが…過去の『罪』の償いとして、『死』を求めている事を知りながら…ルルーシュの身勝手な…利己的な気持ちの元…思わずかけてしまったギアス…
スザクが死んでしまうのが嫌だったから…スザクがいなくなるのが…嫌だったから…
「そっか…ルルーシュには…二度も助けられているんだね…再会してから…」
スザクは相変わらずの表情でルルーシュに言葉をかける。
またもルルーシュは驚く。
今度は言葉も出ない。
体力バカで、考える事をしない奴だとは思っていたが…
「まぁ…スザクったら…。そう云えば…初めて『ゼロ』が現れた時の中継見せて貰いましたけれど…羨ましい限りです…。あんな風に密着して…ルルーシュに抱き締められていたなんて…」
二人の…結構緊張感の走っている会話の中にユーフェミアがうっとりとした表情で話に割り込んできた。
「まぁ…あの時に大体察しはついていたけれど…。再会した時にルルーシュを組み敷いた時に、ルルーシュの体格とかはチェックしていたから…」
「まぁ…私の知らないところで、そんなことまで…。ルルーシュ!浮気は構いませんけれど…本命は私だと言う事をお忘れなく!」
ルルーシュが…さっきから二人を遠ざけようと、色々悩んでいると言うのに…この二人は、あっけらかんとルルーシュの話を聞いているし、今では二人で漫才の様な言い合いをしている。
正直、イレギュラーは重なるし、二人の云っている事も行動も、計算外過ぎて…ルルーシュの頭の中ではどうにもまとまらなくなってきている。
そんなルルーシュに気がついた二人が、ルルーシュの方を見る。
「ルルーシュ…私もスザクも…あなたには笑っていて欲しいんです…。ルルーシュ…あなたの『ギアス』と言う能力…私は詳しい事を知っている訳じゃありませんけれど…クロヴィス異母兄様が何か、良く解らない研究をしていたようですわ…。皇帝陛下にも内密に…」
ユーフェミアが穏やかな顔で…でも、その瞳は真剣そのもので…
ルルーシュは異母妹のその姿が…自分の知る、愛らしい異母妹とは別人ではないかと云う錯覚を覚えた。
「クロヴィスが…じゃあ…C.C.は…クロヴィスの下からカレンたちに盗み出された…と言う事か…」
C.C.との出会いを思い出す。

 ルルーシュの独り言をスザクもユーフェミアも聞き流す。
どうせ聞いたところで答えないだろうし、多分、必要となればルルーシュの方から切り出してくる。
「とにかく…ルルーシュ…僕もユーフェミア様も、君とナナリーの味方だ。君と、ナナリーだけの…」
「私とスザクは…あなたを守る為の剣と盾だと言ったでしょう?たとえ、その『ギアス』であなたが必要だと思って、私たちに『死ね』と命じたとしても喜んで受け入れますわ…。それに…そんな能力なんてなくたって…私は炎の海でも、氷の世界でも飛び込んで見せます…」
二人の様子を見ていると…決して引かないだろう…そんな気がした。
そして…ルルーシュ自身、心強い味方が…いてくれたと…心底嬉しかった。
初めて恋心を抱いた相手、初めての友達…その二人がルルーシュの力になりたいと…ユーフェミアは皇籍まで捨てても構わないと言っているのだ。
スザクは、これがブリタニア軍に対する背任であると承知で云っているのだ。
あれほど、自分の過去の行いを悔いて、ルールを順守しようとしていたスザクが…
「ありがとう…二人とも…。でも…お前たち…ブリタニアはどうするつもりだ?ユフィ、君は特に、コーネリアが…」
ルルーシュが心配そうに尋ねる。
そう、コーネリアはユーフェミアを出来あしている事はルルーシュも良く知っているのだ。
コーネリアがこんなユーフェミアの行動を許すはずがないし、ユーフェミアが『ゼロ』…否、ルルーシュの元へと走ったとなれば、全力で捜索し、取り戻そうとするに違いなかった。
死んだ筈の異母弟が…生きていると…にわかには信じられない事実を突き付けられたところで、コーネリアが信じる筈もない。
「あら…お姉さまの事でしたら…一度、政庁に戻ってなんとでもします…。と言うか、今回はきちんとお姉さまに云う事を聞いて頂かないと…。ブリタニア軍を裏切れとは流石に云えませんけれど…でも、自分の好きなようにさせて欲しいと…」
「ユーフェミア様はさっさと政庁にお帰りになった方がよろしいですよ…ルルーシュとナナリーは僕が守りますから…」
ユーフェミアを足手まといと言わんばかりにスザクがユーフェミアに言い放った。
「そう云うスザクはどうするのです?ナイトメアがあった方がいいでしょう?それに…これから先、ブリタニア軍と『黒の騎士団』両方が私たちの敵となるのですよ?」
状況把握が出来ているのかいないのか、既に戦う事を前提として話すユーフェミアにルルーシュは驚かされている。
流石…コーネリアの妹である。
「解った…でも、一度、お前たちはブリタニア軍に戻れ…。俺達だけで何とかできる相手じゃないだろう?お前達がきちんと身辺整理できるまでに、俺は何とか、戦術を考えるから…」
ルルーシュのその一言にスザクもユーフェミアも嬉しそうな表情でルルーシュを見た。
「解った…全てが落ち着いたら、学校へ行くよ…」
「その時には私もスザクとまいります…」
ここで…ルルーシュは新たな仲間を手に入れたのだった。

 一方…『黒の騎士団』の幹部たちは…
『ゼロ』の失踪で大揉めに揉めていた。
カレンは…『ゼロ』の正体がルルーシュであった事を…伝えたものだから…さらに大騒ぎとなった。
C.C.は…その騒ぎのさ中、姿を消していた。
そして…『黒の騎士団』の本部に…一人の少女が足を踏み入れて行った。
「落ち着きなさい!」
恐らく、カレンよりも年下の…幼い少女…
「『ゼロ』の正体が何者であったにせよ、あなた方は『ゼロ』なしには何もできなかったのです!ブリタニア人であったと言う事が気に入らないと言うのですか!それに…桐原は『ゼロ』の正体を知っていた筈です!それでもあなた方に支援をしていたのは…『ゼロ』がいたからです!」
その叱責に全体が静まり返った。
「やっと、静かになってくれましたわね…。初めまして…私はキョウト六家の皇神楽耶です。私、『黒の騎士団』には期待していますの…。どうか…落ち着いて下さいませね…」
年に似合わぬその一言に…その場に人間たちは圧倒された。
そして…彼らの戦いはまだ、終止符を打たれた訳ではない…そんな一言であった。

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