僕は…君が為に裏切り続ける…


 ルルーシュ、ユーフェミア、スザク、カレンが神根島に飛ばされた。
最初は…全員がどこに飛ばされたのか…解らなかった。
ルルーシュは『ゼロ』の姿でユーフェミアと出会い、スザクは滝壺で身体を洗い流しているパイロットスーツでその身体を隠したカレンと出会った。
全員が、あの衝撃でどこに飛ばされたのかも解らずに…ルルーシュは…二度と会えないと…そして、会いたくなかった異母妹姫に、ユーフェミアは、死んでいたと思っていた大好きな異母兄に、スザクはアッシュフォード学園で生徒会の仲間だと思っていた少女の衝撃の正体に、カレンは、日本を裏切り、『ゼロ』の敵となったブリタニア皇女の騎士に…再会したのだ。
図らずも、望まずも敵同士となってしまった相手ではあった。
ただ…ルルーシュとユーフェミアは…このときだけ、以前の異母兄で、異母妹となり、スザクとカレンも、お互いの正体を隠す事も、本性を隠す事もしなくていい時間となった。
お互いが敵であると…解っていながら、ルルーシュとユーフェミアは…スザクとカレンは、笑って話していた…。
まるで、何の肩書も持たない…ただの子供として…。
でも、そんな時間はあっという間に過ぎ去って行った。
夜が明け、ユーフェミアとスザクにはブリタニア軍の、ルルーシュとカレンには『黒の騎士団』の迎えが来る。
そして、その時、お互いが鉢合わせになれば、ついさっきまで笑って話していた相手と命のやり取りをする戦いの渦へと飲み込まれていくことになる。
その島に飛ばされた4人の誰もが、願った。
―――せめて…今日だけは…目の前にいる人物とは…戦いたくはない…
と…。
その願いが天に届いたのか、それとも悪魔のいたずらか…
互いの助けが来る前に、その4人が鉢合わせになったのだ。
ルルーシュとユーフェミアが繁みの陰に隠れていた時…その時に姿を見せたのはスザクとカレンだった。
そして、出るなと云っておいた筈のユーフェミアが勢いよく立ちあがった。
「スザク!」
ルルーシュは心の中で舌打ちしながら、仕方なく、ユーフェミアの背後に立ち、銃口を彼女に突きつけた。
『いいから、私に合わせろ…』
とりあえず、云う事を聞いて貰わないと、このままでは自分たちがブリタニア軍に捕まってしまう。
ユーフェミアがそんな事を考えてやったとも思えないが…無意識な分、ルルーシュとしてはイレギュラーが多過ぎて敵わない。
幸い、ユーフェミアはルルーシュを敵だとは思っていないから、目の前にいる二人が妙な行動を起こしてさえくれなければ何とでもなる…そう思っていた。

 ところが…やはりというべきか、イレギュラーは起きた。
スザクが『ゼロ』に銃口を向けながら、一歩一歩近付いてきた。
後ろ手に縛ったカレンを放り出したまま…
まるで…目の前の『ゼロ』が絶対にユーフェミアを撃ったりはしない…そう確信しているかのように…
ルルーシュの心の中に動揺が生まれる。
この時ほど、仮面をかぶっていたよかったと思った事はなかったかもしれない…。
ユーフェミアは、自分の背後に立つ異母兄の様子に気づいたようだが…今のところはじっとしている事にした。
スザク自身、何も考えずにユーフェミアを危険にさらすような真似はしないだろうと思っていたから…。
ユーフェミアはスザクが何かの目的の為にユーフェミアの騎士となると決めた事は、薄々気づいていた。
ユーフェミア自身、それでいいと思っている。
スザクの望むのは…多分…自分の同胞たちが…これ以上ブリタニアに虐げられない環境にする事…。
今のエリア11には…きっと、スザクにとって大切な人がいるのだろうと…守りたい人がいるのだろうと…思っていたから…。
それに、ユーフェミアにとっても、大好きな異母兄と異母妹がこのエリアに生きていると知った以上、出来る限り彼らに安全と、安心の保証の出来るエリアでいて欲しいから…。
きっと…ルルーシュはブリタニア本国に帰る事は望んだりはしない…。
ナナリーの為に…。
だから…本当は…ルルーシュやナナリーたちとブリタニア本国に帰りたいと願った事もあったが、それは諦めた。
ルルーシュがブリタニアに対して、皇帝である、父シャルル=ジ=ブリタニアに対して大きな憎しみと失望を持っている事は知っていたから…。
そして…スザクが一歩一歩まだ、『ゼロ』とユーフェミアに近づいてくる。
「スザク!止まりなさい!『ゼロ』を撃つ事は許しません!」
ユーフェミアがスザクに向って皇女として命じている。
人質にされているのは自分の方なのに…と、後方で呆然とその光景を見ていたカレンは思う。
そして、ユーフェミアのその命令に対して、スザクの答えは…
「撃ったりはしませんよ…。『ゼロ』は…僕にとって…一番大切な人ですから…」
スザクの言葉に再び仮面の下で冷や汗をかいた。
―――まさか…スザクは…気づいている…?
ただの学生である時間には…お互いにお互いの気持ちを確かめあっていた。
そして、その気持ちに、言葉に、ウソ偽りはないと…ルルーシュもスザクも確信していた。
だから…スザクがその口で『一番大切な人』と呼ぶ相手は…たった一人しかいない事を…ルルーシュは知っていたから…。

 ルルーシュがユーフェミアをその細い腕で拘束しながら、じわじわと後ずさっていく。
その様子を見ても、スザクは顔色一つ変えず、眉一つ動かさずにじわりじわりと二人に近づいていく。
カレンが、少し離れたところで、色々ともがいてやっと腕の拘束を外したが…その、『ゼロ』とスザクのその雰囲気に…飲み込まれそうになって息を飲んだ。
あの二人の間には…何かがある…カレンはそんな風に思った。
確かに、ディートハルトがスザクの暗殺を提案した時、『ゼロ』は答える事が出来ずにいた。
代わりに藤堂が『反対だ!』とディートハルトの提案を真っ向から反対した。
それに扇が追随して行った。
そのお陰で『ゼロ』は、1対1で話をして…仲間に引き入れる事が出来なかった時には、その場で彼を正面から撃つ…そう云う事で話を治めた。
そして、その作戦会議の後、一番ほっとしていたのは…多分、『ゼロ』だった。
どれほどの時間が経っただろうか…
スザクがやっと口を開いた…
「ユーフェミア様は…『ゼロ』が誰なのか…もうご存知なのですね?」
「ええ…知っています…。でも…スザクが何を考えているのか…解らないうちは教えることはできません…」
彼らは…皇女と騎士と云う主従関係にもかかわらず、今の二人にそんな雰囲気はない。
ただ…自分の大切な何かを守る為にその守りたいものを守ろうとする…そんな人間の目だ。
「教えて頂かなくても結構ですよ…。僕には、大体察しはついています。さっきも言ったでしょう?『ゼロ』は…僕にとって一番大切な人です…と…。それに、僕は彼を撃ちに来たんじゃない…。彼を守るために来た…」
仮面の下で…ルルーシュがスザクが『ゼロ』の正体に気づいている事を知る。
「ならば…私も連れて行きなさい!私は…彼が死んでいるとばかり聞かされてきたのです。富士で…彼が生きている事を知った時…どれほど嬉しかったか…あなたには解らないでしょう…」
ユーフェミアは涙ながらに手を広げて、『ゼロ』を守るかのように立ちはだかった。
ユーフェミアは…あるいは気づいていたのかも知れない。
スザクがユーフェミアを、ルルーシュを守る為の旅に同行は絶対にさせないと…。
恐らく…スザクの目がそう語っているのだ。
「ダメですよ…あなたの『皇女殿下』と云う肩書は邪魔なだけです…。それに…その後ろで呆然としている『黒の騎士団』のエース殿も…」
ルルーシュは…目の前の光景が信じられなかった。
スザクもユーフェミアも…ただ、自分の守りたいもの―――それはルルーシュなのだが―――の為に…主従である事を忘れたかのように言葉の攻防を繰り広げている。
「では…ただのユーフェミアであったなら?」
殆どこの先の望みはない事は多分彼女自身、解っていた。
それでも…1秒でも長く…愛おしい異母兄の傍にいたかったから…

 スザクの目は…ルルーシュもユーフェミアも見た事ないくらい、強い翡翠の光を湛えていた。
「僕は…彼の為に…自分の母国さえも裏切った。俺は…ルルーシュが安心して生きられる場所を作りたかった…。ブリタニア軍が彼にとって危険を及ぼすものであるのなら…俺は中に入り込んで、ルルーシュを陰から守る!俺は…ルルーシュ以外の為に戦った事なんて…一度もない!」
漸くスザクが『ゼロ』の正体を口にした。
スザクの後ろで…カレンは話の大きさと突拍子のなさに呆然とするしかなかった。
ルルーシュはブリタニア皇族に関わりがあって、しかも、スザクはルルーシュを守るためだけにブリタニア軍に所属していた…。
そして、ユーフェミアの騎士となったのも…ルルーシュを守るため…。
これまで自分が…何の為に戦ってきたのか…解らなくなっていた。
「あら…スザク…あなたの後ろのお嬢さんが、真っ青な顔をしていらっしゃいますわ…。カレンさん…でしたっけ?ルルーシュは…『閃光のマリアンヌ』様の御長子ですよ?シュタットフェルト家のご令嬢なら…お名前くらいはご存じでしょう?」
ユーフェミアがこれまで見せた事もないような酷薄な瞳でカレンに笑いかける。
『閃光のマリアンヌ』…名前は知っているし、どれだけ凄い皇妃であったかも知っている。
いまでも、彼女に心酔しているブリタニア人は少なくない。
目の前にいる『ゼロ』はルルーシュで…そのルルーシュはあの『閃光のマリアンヌ』の生んだ…皇子…。
しかし、何故ユーフェミアがカレンの家の事を知っているのだろうか?
「まさか…スザク…」
「ああ…一応保険の為に、生徒会にブリタニア人とイレヴンのハーフの女生徒がいる…と云う事は伝えていたよ…。シュタットフェルトの名前は言わなかったんだけど…ユーフェミア様がどうやら調べて下さったらしい…」
スザクのその言葉に…カレンはその場に膝を折った。
自分の尊敬し、慕ってきた『ゼロ』の正体が…ブリアニア人で…しかも…ブリタニアの皇子…。
もはや言葉も出てこない。
ただ、膝と手を地面について、項垂れる事しか…出来ない…。
「ね、『ゼロ』…もう仮面を外してくださいな…。大丈夫…ブリタニア軍が来ても、『黒の騎士団』が来ても…私たちが全身全霊であなたを守りますわ…。もちろん、ナナリーも…」
スザクはユーフェミアのこの言葉に
―――さっき俺が云った事…全然聞いちゃいないな…このお姫様は…。まぁ、役に立つうちは、役に立ってもらうか…
スザクはそんな事を考えながら、やや、闇を帯びた瞳でユーフェミアに笑いかける。
「いい目です…。ルルーシュ…今日から私とスザクはあなたを守る為の盾と剣です!」
ユーフェミアが普段、マスコミに見せるような可愛らしい表情ではなく、まさにコーネリアの妹と言わしめる強い光を湛えたその瞳でルルーシュを見た。
「僕は…君の為になら…何だって裏切れるよ…。僕は…君を守るためだけに…今まで生きてこられたんだ…。再会できた時…僕は嬉しかった…。君を守る事が出来て…」

 この二人の言葉を聞いて、ルルーシュは仮面を外した。
そこには…本当にルルーシュの顔があって…。
「「ルルーシュ…」」
二人はその顔を見て…嬉しそうに微笑んだ。
そして…はっと我に返ったカレンがその3人に対して銃口を向けている。
―――裏切られた…
カレンの頭の中にはその言葉だけが過っている。
誰が裏切ったのか、何が裏切ったのか…多分尋ねられても良くは解らない。
でも、ただ…その一言が頭を過る。
「あんたたち…日本を…日本人を…何だと思っているのよ!」
カレンの指がその引き金にかかった時、スザクは持っていた銃で素早くカレンの右手首に向けて撃った。
「うっ…」
カレンが右手首をおさえて再びその場にしゃがみこむ。
そして、スザクがカレンに近づいていき、冷たい視線を降り注ぎながらカレンにこう告げる。
「ルルーシュは日本を裏切ってなんていない…。元々、ルルーシュが『ゼロ』になったのも、『黒の騎士団』を立ち上げたのも…僕を助けるためだったし、何が目的であれ、日本の独立が理由だ…。それが、最終目的であったか、目的の為の途中過程であったか…の違いはあったけどね…」
「大体…『ゼロ』におんぶにだっこ…全ての罪を『ゼロ』に押し付けて、いざ、正体がルルーシュと解った途端に裏切り者扱いですか?調子のいい話ですね…。ルルーシュ…こんな人たちを信用していたら、ナナリーの安全は確保されません…」
カレンの胸に…二人の言葉がグサッと突き刺さる。
確かにそうだ。
最高責任者と云う事で、全て『ゼロ』に任せ切り、『ゼロ』がいなくては何もできない状態だ。
最初にシンジュクでサザーランドを手に入れたのも、キョウト六家の支援を受けられる事になったのも、藤堂たちの救出が成功したのも…全ては彼の戦略のお陰だ。
「さぁ…ルルーシュ行こう…。僕は…君の為になら…何でもできる。きっと…鬼にだって、悪魔にだってなれるよ…」
そう云ってスザクが右手を差し出す。
「ルルーシュ…あんな自分勝手な『黒の騎士団』に執着する事はありません。あなたは…あなたの目的の為に私たちを利用すればいいのです…。あなたが幸せになれるなら…私は…多分スザクも…捨て駒で構わないのですよ?」
ユーフェミアもふふっと笑いながらルルーシュに左手を差し出した。
ルルーシュは…その時…カレンを助け起こすのではなく…スザクとユーフェミアの手を取った。
自分の力強い味方が…こんなところにいた…そんな思いがあふれて…ルルーシュは…一粒涙をこぼして言った。
「ありがとう…」

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