黒猫ルルにゃん4


※設定:
ルルーシュは人間界に迷い込んできた、猫の国の皇子様です。
スザクはそんなルルーシュに一目惚れしてさっさと連れて帰ってしまった心優しい(一歩間違えれば誘拐犯と云うツッコミはなしです)一人暮らしの軍人さんです。
ルルーシュは魔法を使って人間の姿になれますが…うっかり屋さんで、時々ドジる事があります。

 今日は1月2日…
正月休みだと云うのに、スザクが早起きをして出かける準備をしている。
スザクとしては、ここのところ夜更かししてまだ眠っているルルーシュを起こさないようにと気を使っていたつもりなのだが…
「…ん…スザク…?」
眠そうに目をこすりながら猫の姿でルルーシュが声をかけてきた。
「あ、ごめん…ルルーシュ…。起しちゃったかな…。じゃなくって…ちゃんと僕と会話が出来る様になったんだね!」
ルルーシュの声に気がついたスザクが着替えている手を止めて、やや涙目になりながらルルーシュの方を見た。
年末…ルルーシュはネットで調べた『お正月の準備』を片っ端からこなしていた。
とにかく…スザクがどれだけ
『そこまでやる必要ないから…』
と、云っても、ルルーシュはとにかくインターネットで目に着いたものを全てこなしたのだ。
そんな事をすれば、当然だが、普通の人間でも疲れる。
と云うか、やりきれない。
それなのに、ルルーシュは、本当に限界まで頑張ってしまって…スザクと暮らし始めて、初めて、人間の言葉を喋れなくなるほど体力を消耗したのだ。
初めての事だっただけに、スザクも焦った。
大晦日の昼間、ルルーシュはいきなり猫の姿に戻ってしまった。
で、スザクが話しかけても、
『みゃあ…みゃあ…』
としか答えなくなった。
というより、答えられなくなった。
そして、その後、今朝、目が覚める前、ルルーシュは猫の姿であったのは当然のこと、スザクと会話をする事すらままにならなかったのだ。
「ごめん…俺…」
ルルーシュがスザクの方を見て、しゅんと項垂れている。
スザクは、ルルーシュの声を聞くなり、持っていた着替え用の服を投げ捨てて、ルルーシュのところまで駆け寄っていき、ルルーシュを抱きしめる。
「良かった…ルルーシュ…ホントに良かった…」
小さな黒猫の姿になってしまったルルーシュはスザクにぎゅっと抱きしめられていて、ちょっと苦しかったが、スザクのこの2日間、心配していた姿や、今、ルルーシュがスザクに声をかけた時のスザクの顔が頭に浮かぶと、苦しいのも何となく、嬉しくなって来る。 それに、スザクのこの姿を見ると、よっぽどルルーシュの事を心配していたのだろうと…ルルーシュにも解る。
だから、ルルーシュは自分を抱きしめているスザクにもう一度謝る。
「ごめん…スザク…」

 元はと云えば、スザクが止めたのにルルーシュが
『大丈夫!』
と云って、本当は相当疲れているのにもかかわらず頑張ってしまった事が理由なのだ。
スザクは軍人だから、仕事に出なければならないし、出かける前には無理しているルルーシュがその時には解っていたので、必ず止めていたのだ。
『絶対に無理しちゃダメだからね!』
と…。
しかし、ルルーシュはスザクの姿が見えなくなると、すぐに、大掃除をしたり、インターネットに書いてあった、『年賀状』と云うものを書いていた。
それに、『年賀状』に関しては、スザクが呟いていたのを聞いてしまったのだ。
『はぁ…出さなきゃいけないのは解っているけど…めんどくさいなぁ…』
と…。
スザクの云っていた、『年賀状』と云うのは、ルルーシュにはよく解らなかったので、インターネットで調べたら…親しい人とか、お世話になった人にお正月のあいさつ状として送るものらしいという事が解った。
最近では、パソコンなどを使って、印刷して出す事も多いらしいのだが、ルルーシュもどんなページを読んだか知らないが、
『年賀状とは、親しい方、お世話になった方への贈り物です。心をこめて書いて、送って差し上げることが自身のその方に対する気持ちを表す為には一番です…』
などと書いてあったのだ。
そこで、ルルーシュは、さらに、年賀状とはどういう風に書けばいいのか、ネットで調べて…スザクが準備していた年賀状…一枚一枚に手書きで書いていったのだ。
相手がどういう相手なのかよく解らなかったから、とにかく、手書きの方がいいらしい…と云う事で、めんどくさいと思いながら、必死になって、書いていった。
凝ったものになると、綺麗な絵が描かれていて…
正直、絵を描くとか…あまり得意ではないのだが…それでも、パソコンで元を作って、コピーしたものよりも、手書きの方がいいとなれば、いつも、スザクには世話になっているという意識の強いルルーシュは、とにかく頑張ったのだ。
インターネットで色々説明があったから、どういったものを書けばいいのかは大体わかったが…でも、絵を実際に書くとか、センスのある飾りをつけるとか…しかも、郵便で50円で送れなくてはいけないらしい…
で、100枚くらいの束になっていた何も書かれていない年賀はがきを見つけた時、忙しいスザクの為に、何か出来ないかと…ルルーシュは考えた末に…手書きの『年賀状』を作る事にしたのだ。
やっていて、めげそうになったが…でも、スザクは軍の仕事で忙しくて…とてもこんなにたくさん書く事は出来ない…。
そんな思いから、家事を済ませた後、コツコツと『年賀状』を書いていたのだ…

 正月の準備とは、年賀状を書くことだけではない。
大掃除とか、お世話になって人へのお歳暮を買って送るとか…
買い物なども、注連飾りとか、角松とか…あと、クリスマスが過ぎる頃には、食材の値段がぐんと上がると…これもネットに書いてあった。
とにかく、人間の世界では、新しい年を迎える時には結構大変らしい。
否、ルルーシュのいた『猫帝国』でもそうだったのかも知れないが、ルルーシュは仮にも猫帝国の皇子様だ。
『下々の者は…大変だったんだな…』
と、自分の知らない事の多さに少し落ち込んだ後、すぐに顔をあげて、スザクの為に精いっぱいの正月の準備をしようと考えたのだ…。
その上、完璧主義のルルーシュの事…とにかく、年賀状一枚にしても、それこそ丁寧に書いていった。
普通ではあり得ない程丁寧に書いた。
大掃除にしても、とにかく、大きな家具を全て動かしてきれいに掃除して…。
スザクは軍人だから、日曜日が休みとは限らない。
と云うか、休みの日でも、いきなり呼び出しが来る事もある。
ルルーシュがスザクの心配をして大丈夫かと尋ねるとスザクはいつも笑って答えた。
『大丈夫だよ…。うちは技術部だから、これでも他の部署と比べてまだましな方だし…。それより、ごめんね…大掃除を一緒にしようって言っていたのに…』
と…。
そんな忙しそうなスザクを見ていて、ルルーシュは尚更、
『俺が頑張らないと、スザクはいいお正月が迎えられない…』
と、とにかく頑張ったのだ。
そして、頑張った結果、お正月第一日目は…猫の姿になってしまって、
『明けましておめでとう』
とスザクに云えなかったのだ。
今になってその事に気付き、ルルーシュはスザクに抱きあげられて、すぐ近くにあったスザクの耳元でこう云った。
「一日、遅れちゃったけど…明けましておめでとう…スザク…」
スザクはルルーシュに驚いた表情を見せたが、すぐにルルーシュの顔を覗き込んで、
「うん、明けましておめでとう…今年もよろしくね…ルルーシュ…」
そう云って、ちょっと幼さの残るスザクの顔がくしゃっとなってルルーシュにそう一言返した。

 しかし、まだ、休みだと云うのに、スザクが出かける用意をしていた。
また、軍から連絡がきたのだろうか?
「なぁ…スザク…なんで出かける準備なんかしているんだ?」
スザクに抱きかかえられたままルルーシュが尋ねた。
「ああ…軍の人たちと初詣に行くんだよ…」
「はつもうで?」
ルルーシュは懸命に調べた正月についての知識の中からその単語を探し出す。
確か…お寺とか神社に、今年一年、元気でいられますようにと、お願いしに行く事だと、書いてあった。
「俺も行く!」
スザクが誘わない限り、ルルーシュがスザクと一緒に外に出かけるなんて、云った事なんてなかった。
「え?でも…人がいっぱいいるし…」
スザクが何となく、渋っている感じがした。
確かに、大晦日から、体力がなくて、人の言葉も喋れなかったルルーシュなのだ。
いきなり一緒に出かけるなんて言ったらスザクは驚くだろうし、心配もするだろう…
「俺…もう大丈夫だから!まだ、人間になっちゃう事もないだろうし…」
ルルーシュがこんな風に云うのは初めてだ。
やはり、いつも、スザクが仕事の時には、一人で留守番をしているのが寂しいのだろうか?
ルルーシュは猫なのに、一人でいる事を嫌っている。
スザクは、一応その事には薄々気づいていたのだけれど、そう云う事言うと、ルルーシュはあまりいい顔をしないので、敢えて黙っているのだが…
それでも、ルルーシュの方から出かけたいと言ったのは…初めてだった。
結構必死に訴えてくるルルーシュを見て、スザクは何となくうれしくなって…
「解った…。でも、絶対に猫のままでいてね?それと…絶対に僕から離れないで…」
スザクの云っている事にルルーシュはこくこくと頷いて返事する。
スザクとしても、お正月を迎える為にルルーシュが一生懸命頑張ってくれていた事は解るので、何かお礼をしたいと考えていたのも事実で…
しかも、スザクが条件を出したとはいえ、『OK』の返事を出したのが嬉しいのか、なんだかとてもうれしそうにしているのが解った。
「スザク!ありがとう!」
こんな風に言われてしまっては、スザクの方も表情を崩して喜んでしまう。
普段、スザクに何かを頼むと云う事をあまりしないルルーシュだ。
本当は、いまだに人間の姿になる事が出来ないルルーシュを人ごみに連れて行くのはどうかとも思ったのだが…それでも、こんなに喜んでいるならいいか…と、その時のスザクは結構気楽に考えていた。

 ルルーシュをとりあえず、抱えているのはさすがに不安だったので、少し大きめのスポーツバッグにタオルやらクッションを詰めて、その上にルルーシュを置いて、スポーツバッグのファスナーをしめて、顔だけ出るようにしてやった。
「なんだか…窮屈だな…。俺がスザクと一緒に歩いちゃいけないのか?」
やや不満そうにルルーシュがスザクに尋ねる。
普段なら、別にそうしても構わないのだが、初詣ともなると、とにかく人が多いのだ。
猫の姿ではルルーシュの姿などすぐに人の波にのまれてしまう。
「ごめんね…。でも、今日は、とにかく人がたくさんいるところに行くし…ルルーシュが迷子になったら僕も…心配になっちゃうし…」
スザクが困ったような顔をしてルルーシュに訴えている。
確かに、さっきスザクはルルーシュに『人がいっぱいいる…』と云っていた。
「俺が行く、スーパーのタイムサービスくらいか?なら…猫の姿だけど多分大丈夫だ!」
ルルーシュの言葉にスザクがちょっと驚いた表情を見せたが…初詣の有名な寺社と云うところは、当然ながら、そんな程度で済むはずがない。
「もっといっぱいいるよ…。多分、今のルルーシュだと、想像もつかないくらい…」
スザクの言葉に、ルルーシュはやや首をかしげる。
―――タイムサービスの時よりもいっぱい人がいる?
何となく、恐怖と、好奇心が生まれてきたのがよく解る。
「スザクがいるなら…俺も行く!ちょっとくらい窮屈でも平気だ!」
威勢良くスザクに云うと、スザクがちょっと困ったような笑顔を見せて、ルルーシュを淹れたバッグを持ち上げた。
「なら、連れて行くけれど…具合悪くなったらすぐに云ってね…。すぐに帰るから…」
スザクの、心配そうな様子にやや、ルルーシュとしても頭の中で『?』が浮かんでくるのだが…それでも、人間の姿で、スザクと大きな電気屋さんに行ったし、普段から、スーパーのタイムサービスには必ずお目当ての商品をゲットして帰ってきているのだから、ルルーシュは
―――スザクが俺を過保護にしているだけだ…
と考えていたのだが…
この後…ルルーシュは…自分の読みの甘さに後悔する事になる。
しかし、それでも、『初詣』の事を調べてから、ルルーシュは絶対にこの、『初詣』と云うものに行ってみたかった。
と云うか、行きたかった。
猫帝国で皇子をやっていた頃にはなかった習慣だし、それに…そこでは、1年間の健康とか、家内安全とか、お願いするらしい…。
ちゃんとお願いすれば、その1年間は元気に暮らせるという…。
―――確かに、『初詣』に行くと、1年間、俺とスザクが元気に暮らせると云うなら…多少の危険はつきもの…と云う事か…
スザクの忠告をそんな風にルルーシュは考えていた。

 そして、スザクの持つバッグに揺られながら、ルルーシュは初めて、スザクの職場の人間を見た。
背の高い、銀髪のメガネをかけた男と、肩よりちょっと上くらいの長さにそろえた髪のやさしげな女が立っていた。
「明けましておめでとうございます…。お待たせしてしまいましたか?」
スザクがその二人にルルーシュに使った事ないような言葉を使って頭を下げている。
まるで、ルルーシュが猫帝国にいた頃に、臣下がルルーシュにしていたような挨拶の仕方だ。
否、それとも微妙に違う気もするが…
でも、スザクは頭を下げて、丁寧に挨拶をしている。
多分、この二人はすっごく偉いのだろうと、ルルーシュは思った。
「ああ、あけましておめでとぉ〜〜〜。今年もよろしく、スザクくん…」
「あけましておめでとう、スザクくん…」
二人はスザクに笑顔でそう返した。
どうやら、スザクは職場でいじめられているという事はないらしい…。
そして、女の方がルルーシュに気づいたらしい。
ルルーシュを見るなり、ルルーシュの頭を撫でてきた。
「あら…可愛い黒猫ちゃん…。スザクくんが飼っているの?」
―――俺は別に飼われてる訳じゃないぞ!スザクと一緒に暮らしているんだ!
心の中でそう叫んでいるのだが…スザクが人間の言葉でしゃべってはいけないと云っていたから、そう口に出す訳にはいかない。
それに、スザクより偉い人と云うのなら、スザクに迷惑がかかるから、噛みつく訳に行かない…。
仕方なく、ルルーシュはぷいっと横に顔を背けた。
「あらあら…黒猫だから…男の子かな?黒猫君…の方が良かったのかしら…」
「あ…すみません…セシルさん…。こら!ルルーシュ!」
スザクがルルーシュを叱ったのだ。
ルルーシュはスザクの方を見て、『なんでだ?』という視線を送る。
しかし、スザクはそんな事に気づいたのか気づいていないのか…
そんなルルーシュの視線に何も答える事がなかった。
でも…スザクがルルーシュを叱ったという事は…きっと…ルルーシュの知らない、この世界でのルールに反してしまったのだろうか…
ルルーシュはスザクに叱られて、下を向いてしまった。
そんなルルーシュを見て、スザクは、ちょっと困った顔をして、セシルと呼ばれた女は再び、『あら、可愛い♪』と云って、そして…もう一人の背の高いメガネ男は何か気付いたような表情をしたが、すぐにさっきのへらへらした表情に戻った。
ルルーシュは…そのメガネ男の様子に、少し何かを感じたが…その時には、そんな事よりもスザクがルルーシュを叱った事の方が気になって仕方なかった。

 そして、3人とルルーシュは人ごみの中、初詣に出向いて行ったが…
スザクの云っていたことが本当だと…ルルーシュはすっかりうんざりしていた。
でも、ルルーシュには絶対にやりたい事があったから…。
今年1年、スザクと一緒に元気に生活する為には『初詣』に行って、お祈りしなければならないらしい。
しかも、ルルーシュがこれまで見た事もない様な人の海の中をもみくちゃにされながら…
―――人間って…大変なんだな…
ルルーシュはスザクの抱えるバッグの中でそう思ってしまった。
多分、ルルーシュがいなければ、スザクも少しは楽に歩けたのかも知れないが…
でも、ルルーシュはどうしても、『初詣』で今年もスザクと一緒に元気でいられますように…とお祈りしたかったのだ。
これまで、一生懸命お正月の準備をしてきたのも、スザクと一緒に『初詣』に行きたかったからだ…。(今回はお邪魔虫もいるが)
しかし…これほど人が集まるとは思っていなくて…と云うか、どっから、湧いて出てきたんだとルルーシュは思ってしまう。
お祈りしたかったとは云え…少々後悔が走る。
しかし…ルルーシュとしては、絶対に神様とか、仏様とかにお願いしたかったのだ。 いつも忙しいスザクが今年も元気でいられるようにと…。
そして、ルルーシュと一緒にいてくれるようにと…
はっきり言って、こんな恥ずかしい事…スザクには言えないが…
他力本願である事はよく解っているのだが…それでも、使える物なら何でも使っておくべきだ!
そんな風に思いながら、スザクに半ば無理やりの様についてきた。
そうしたら…やっぱり、ルルーシュと同じ事を考える人間は多くいると云う事らしく、正月であると云うだけで、神様、仏様は人間に大人気のようだ。
あまりの人ごみにルルーシュは恐れをなして、スザクの抱えるバッグに顔を引っ込めてしまった。
ひっこめていても、人がぶつかると、震動はくるし、なかなか大変である。
それでも…これもスザクの為だ…そして、二人で一緒に過ごす為に必要ならと、ルルーシュは呪文のように心の中で唱えている。
そして、スザクがやっと立ち止まった気配がした。
「ルルーシュ…ここでお祈りするんだよ…」
バッグの外からスザクの声が聞こえてきた。
ぴょこっと顔を出すと…前方には人の姿がなく…そして、変な階段と変な縄の様なものがぶら下がっていて、そしてその先には変な扉がある。

「ルルーシュ…僕が、お賽銭投げるから…一緒にお祈りしようね…」
 スザクがルルーシュにそう声をかけた。
確かに周囲に人間はみんな、何かを投げている。
そして、あの変な箱に入ると、ちゃりんという音が聞こえてくる。
スザクがその賽銭とやらを投げたのを見て、ルルーシュも猫の姿で前足を合わせて目を閉じて、一生懸命お祈りする。
―――どうか…スザクが軍隊の仕事で怪我などせずに1年間、俺と一緒にいてくれますように…
とにかく熱心にお祈りした。
人ごみの中、これだけ苦労してここまで来てやったのだから、叶えてくれなければ祟るぞ!と言わんばかりに頭の中で一生懸命お祈りした。
それは…スザクの御祈りが終わっても続いていて…と云うか、スザクに何度も呼びかけられていても、気づかないくらい一生懸命だった。
「…しゅ…ルルーシュ…」
何回呼ばれたか解らないが、その声でルルーシュがはっと目を開ける。
そして、スザクの方を見ると、スザクがほっとしたような顔を見せた。
まぁ、確かに今朝、ルルーシュが会話するまでスザクとは会話できない状態だったのだ。
この人ごみの中でまた、会話が出来なくなってしまったかと心配したのだろう…。
周りに人がいるので、人間の言葉でしゃべる訳にはいかないので、
「にゃあ…」
そう声を出してから、バッグを抱えているスザクの手をペロッとなめた。
その直後にスザクの顔を見ると…今度はスザクの方が具合悪くなって熱があるんじゃないかと思うくらいにスザクの顔が真っ赤になっていた。
ルルーシュは、もう一度、スザクに向って
「にゃあ…」
と声をかけたが…。
その後、スザクはそのバッグを両手でかかえるようにして、あの、仕事の関係者だと云う二人とその寺社を後にした。
そして、先ほどの待ち合わせの場所まで来ると、解散する事になったらしい。
そこまでの3人の会話は…聞いていても良く解らなかったのだが…それでも、当初の目的が完遂された事にルルーシュは満足していた。
そして、別れ際…あまりルルーシュに構ってこなかった銀髪メガネがルルーシュの方を見た。
そして、ルルーシュの耳元で、小さな声でそっと…ルルーシュの聞きたくない事を聞かされた。
『あなた様の兄君が…今、私の上官なんです…。スザク君との事…ばれないようにお気をつけくださいね…』
銀髪メガネのその言葉に…ルルーシュが驚いて、その男の方を見るが…その後、その銀髪メガネはルルーシュに何も教えてくれなかった。
ただ…ルルーシュの中で生まれた疑問…
あの男の云った『兄君』とは誰だか解っている…。
しかし…あの男はいったい何者なのだろうと云う思いがぐるぐる回っていて…。
3人が解散した後も、ルルーシュはその事に気づく事もなく、またまた考え込んでしまった。

「ねぇ…ルルーシュ…疲れちゃった?」
 スザクが心配そうに声をかけてくる。
確かに、外で人の言葉を喋る事は出来ないが、二人きりになったのに、ルルーシュがさっきから黙り込んで身動き一つしないとなると、心配になるのだ。
「あ…ごめん…。大丈夫だ…」
スザクが心配そうにルルーシュを見ている事に気がついて、つい、人間の言葉でしゃべってしまった。
「あ…しまった…」
ルルーシュが慌てて周囲を見回した。
「大丈夫だよ…ここなら、もうすぐうちだし…。そんな事より、すごく長い間お祈りしていたね…。何をお願いしていたの?」
スザクがにこにこして尋ねてくる。
「ひ…秘密だ!」
あまりに自分勝手なお願いだったから、何となく恥ずかしいのだ。
1年間…元気なスザクと一緒にいたいだなんて…
スザクがルルーシュを嫌になってしまったら…そんな風に考えると怖かったからつい、長い時間、お祈りしてしまったのだ。
スザクはそんなルルーシュを見て、ちょっと残念そうな顔をしたが、『そっか…』とだけ答えた。
「スザクは…何をお願いしたんだ?」
自分のは言わないくせに、ルルーシュはスザクのを聞きたがる。
スザクはそんな事は解っていても嫌な顔をしないで答えてくれた。
「今年1年、ずっと元気でルルーシュと一緒にいられますように…。そうお願いしたんだよ…」
その一言を聞いて、ルルーシュはバッグからはい出て、スザクの服にしがみつくように飛び付いた。
「スザク!」 そして、ゴロゴロとのどを鳴らしてスザクに甘え始めた。
スザクはそんなルルーシュに驚いたようだが、すぐ両手で抱いてやり、ルルーシュの頭をそっと撫でてやった。
そんな…スザクの一言や、行動の一つ一つが嬉しくて…そして、スザクの胸元にすりすりと頬をすりよせている。
「早く、元気になって、また人間の姿に戻って…それからもう一度お参りしに行こうね…」
スザクに投げかけられたそんな言葉に…ルルーシュは嬉しくなって、もう一度、
「にゃあ…」
と答えたのだった…。

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