黒猫ルルにやん3


※設定:
ルルーシュは人間界に迷い込んできた、猫の国の皇子様です。
スザクはそんなルルーシュに一目惚れしてさっさと連れて帰ってしまった心優しい(一歩間違えれば誘拐犯と云うツッコミはなしです)一人暮らしの軍人さんです。
ルルーシュは魔法を使って人間の姿になれますが…うっかり屋さんで、時々ドジる事があります。

 ルルーシュがスザクの家に来てから…スザクの生活はすっかり変わった。
家族が出来た…そんな気分でもある。
ただ…スザクはルルーシュの事をよく知らない。
黒猫になったり、人間になったりすること。
とにかく、頭がよくて、何でも器用にこなすが、人間の姿になると、運動がダメらしい…。
『猫帝国』とやらの皇子様らしいが…皇子様らしいところを見たことがない。(というか、世界地図のどこにもそんな国はないし、本当に一体どこからやってきたのか解らないのだが、スザクはこの際スルーしてしまっている)
好奇心旺盛で、何でも知りたがる。
でも、天然だから、気をつけないとルルーシュは騙されてしまう。
まぁ、このくらいの事だろうか…
大体、表面的な事ばかりを知っていて、彼の素性そのものは何も知らない…。
―――僕自身、そう云えば、ルルーシュに僕の事、何も話していないな…。僕はルルーシュの事、気になっているのに、ルルーシュは僕の事が気にならないんだろうか…
スザクはそんな事を考えてしまっている。
まぁ…猫と云うと、気まぐれで、自分本意ではあるのだが…。
でも、ルルーシュは猫だと云うのに、そんな素振りを見せていない。
黙ってどこかへ行ってしまうと云う事もないし、スザクが、ルルーシュの行動で困った事は基本的にあまりない。
細かい事を云えば、妙に、お金に関して、やたらと細かいのだ。
それこそ、スザクが
『そんな…もみくちゃにされる時間に買い物に行かなくても…』
ルルーシュが特売時間に買い物に行って、おばさんたちにもみくちゃにされて、へとへとになって猫の姿に戻っているのを見るたびに云うのだが…
『否…俺に出来るのはこのくらいしか…』
そう云いながら、先日買ったパソコンに家計簿を作って黒文字で残高の数字が増えて行っているのも嬉しそうに眺めている。
そんなルルーシュの姿を見ていると、
―――これは…絶対にルルーシュの趣味だ…
と、スザクは思ってしまうが…。
それでも、そんな風に頑張っているルルーシュの姿が嬉しい。
それでもあまり無理をしてほしくないと思うのも…やっぱり、本音で…。
帰ってきた時に、最近、スザクが買ってきた、バスケットの中にクッションを置いた、猫の姿をしている時のルルーシュ用の寝床でルルーシュが気持ちよさそうに眠っているのを見ていると、嬉しいのと、やれやれと思うのと…複雑な気持ちになってしまう。
そうして、ここ数ヶ月、余った生活費をスザクが給料日で生活費を渡す時にプリントアウトされた家計簿付きで返してくるのだ。
―――なんて…律儀な…

 いつも、そんな風に頑張っているルルーシュを見ていると、本当にルルーシュが大事になって…本当に可愛いと思ってしまって…。
でも、ルルーシュはと言えば、スザクに対して、一緒にいる事を望んではいるらしいけれど、実際にいつルルーシュがスザクに飽きて出て行ってしまうのだろうと…そんな風に思えてくるくらい、そっけない。
まぁ、ルルーシュが恋愛とか、誰かを好きになるとか…そんな感情に関してはかなり疎いだろうなという予想はつく。
インターネットをやっていても、それこそ、実用的なページしか見ていない様子で…。
ルルーシュがスザクと同じ年頃の男の子なら、誰もが興味を持つであろう、そう云ったページを見ている様子が全くない。
否、ルルーシュが半分猫だから、人間の女には興味がないのか…もしかして、メスの三毛猫が傍にいて欲しいとか…(黒猫と三毛猫は同じ親から生まれます。黒猫は殆どが雄で、三毛猫は殆どが雌になります。だから、ルルーシュは男の子なんです)
否、問題はそこではないのだけれど…
というか、ルルーシュはどちらの種族に入るのだろうか…。
素朴な疑問だ。
どっち道、地球上生物の中にはルルーシュのような存在はいないので…スザクの頭の中で一生懸命考えていたところで、そんな者の答えが出るはずなどない。
「ただいま…」
そんな、普通の人が聞いたら、きっと、『こいつ…何か悪いものでも食べたか?』と思われてしまいそうな事を考えながら、仕事を終えて、自宅に帰って来る。
「あ、おかえり!スザク…」
夕食の準備をしていたルルーシュが嬉しそうにスザクの方に走ってきた。
猫の姿に戻っていない時のルルーシュはいつもこんな風にスザクを迎える。
いくら、退屈しのぎの為のパソコンを買ったからと言って、一人でスザクの帰りを待っている事には変わりなくて…
これで…長期間の海外出張などと言ったら…ルルーシュは本当にここを出て行ってしまうかもしれない…。
そんな風に思うと、スザクは、
―――海外出張なんて…絶対に断るに決まっている!ルルーシュを一人に出来ない…。と云うより、僕が耐えられない!クビになったら、この体力を生かせる仕事を探そう…
こんな風に思ってしまう。
まして、目の前に嬉しそうに目をキラキラさせているルルーシュがスザクを迎えているのだから…。

 帰って来ると、いつも夕食のいいにおいがしている。
ルルーシュがスザクの家に来てからいつもそうだ。
そんな生活に慣れてしまうと…正直、この先、軍人を続けていく自信がなくなってしまう…。
平和な時だって、軍人と云う立場上、家に帰って来られない事もあるし、うちに帰ってきたら、いつも、明かりがついていて、部屋が暖かくて、ご飯の準備がされていて…
まだ、10代の身空だと云うのに、既に、一人暮らしに疲れていたスザク…。
最初はそんなつもりでルルーシュを連れてきた訳ではなかった。
ただ…家に帰ってきた時に、『ただいま』と云いたかっただけなのだ。
それなのに、ルルーシュときたら、毎日一生懸命スザクの洗濯物を洗濯して、家じゅうをピカピカにして、スザクのお弁当を作って、朝御飯も、晩御飯も作ってくれて…
そんなかわいらしい事をしてくれているので、ついつい、そんな風に思えてしまう。
ルルーシュは怒るかも知れないが、ルルーシュは実際に、スザクのお嫁さんにしたいくらいだ。
でも、ルルーシュは男の子だと云い張るし…。
以前、ルルーシュに『ルルーシュって、女の子みたいだよね…。肌がきれいだし、顔も、そこらのアイドルなんかよりずっと綺麗でかわいいし…』と云った時…それこそ火を噴くがごとく怒られた。
『いいか!スザク!黒猫の9割は雄で、俺はその9割の中に入っているんだ!俺は女じゃない!俺は男だ!』
誰も、ルルーシュを女だと断定はしていないのだが…ルルーシュは烈火のごとく怒ったのだ。
ルルーシュがスザクと会う前に、よほど嫌な思い出があるのか…
とにかく、ルルーシュはルルーシュの事を女みたいだと云うだけで怒るのだ。
「ルルーシュ…今日のご飯は何?」
嬉しそうにスザクを見ているルルーシュに尋ねる。
「今日は、初めて挑戦してみたんだ…。えっと…インターネットのレシピには…『サーモンのムニエル』って書いてあった…」
そんな小洒落たメニュー…スザクは恐らく、あんまり聞いた事がない。
スザクの母親はいろんな料理を作ってはくれていたが、あまり横文字メニューは口にしていなかった。
テーブルの上を見てみると…綺麗にセッティングされた夕食は…本当に、外食しに来たかのような錯覚を覚える。
そう云えば、ルルーシュと暮らすようになってから、様々な食器が増えて気がする。
どうやら、ルルーシュは雰囲気を楽しみたいタイプらしい…
まぁ、一人暮らしをしていた頃、スザクは基本的に料理なんてあまりしなかったから、食器が少なかったのはごく当たり前のことではあったのだが…。
しかし、ルルーシュがスザクの家に来てからの生活の変化には、いざ気づいてみると本当に驚かされる。

 スザクが上着を脱いで手を洗って、食卓に着いた。
「うわ…おいしそうだね…」
スザクは並べられている料理を見ながら感嘆の声を上げる。
ルルーシュはちょっと頬を赤らめていつものように、横を向いてスザクに答える。
「あ…味の保証はしないぞ!は…初めて作ったんだからな…」
そんなルルーシュを見ていると、
―――あ…ツンデレ…
と、思ってしまうのだが…それを言うと、やっぱりルルーシュが怒りだしそうなので、言葉を飲み込む。
尤も、ルルーシュが『ツンデレ』などと云う言葉を知っていて、その言葉の意味を知っていれば…の話なのだが…
「ルルーシュ…早く座ってよ…。僕、お腹空いたよ…」
そんなルルーシュのかわいらしい態度をずっと見ていたい気もするが、やっぱり、スザクの空腹と云う本能が送ってくる信号を無視する事も出来ない。
「あ…ああ…。ごめん…」
スザクの言葉にルルーシュが慌てて食卓に着いた。
ルルーシュが食卓に着いたのを確かめて、スザクが両手を合わせる。
それを見て、ルルーシュも手を合わせる。
ルルーシュのその仕草を確認して、スザクが口を開く。
「いただきます…」
最初は、ルルーシュはすぐに食事を始めていたのだが…スザクがそうしているのを見て、それを真似し始めたのだ。
今となっては、スザクが手を合わせて、ルルーシュが手を合わせて…それをスザクが確認して、スザクが『いただきます…』とルルーシュがその後に続いて『いただきます…』と云って、ルルーシュが食事を始める。
最初は意味が解らなかったようなのだが、インターネットでいろいろ調べたらしい。 その時にその行動の意味を知って、ルルーシュは猫の姿の時でも、前足を合わせるようになった。
流石にこの行動を見た時にはスザクも驚いたが、そんな仕草も可愛くて…
猫と違って、頭脳は並みの人間よりも遥かに優れている気がする。
多分、学校に通って、同級生であったなら…スザクは絶対にルルーシュに成績では敵わないと思った…。
体育以外は…
しかし、そんな頭のいいルルーシュではあるのだけれど、やっている事は実に可愛らしくて…
でも、人間の姿のルルーシュを『かわいい』と云うと、機嫌が急降下する。
猫になると、人間がその姿を可愛いと思う事を知っているようで、あまり好んではいないようだが、我慢しているようであるが…(とは言っても、スザクと暮らすようになって、猫の姿を見ているのはスザクだけなのだが)

 スザクが料理を食べる様をルルーシュは必死な表情で見つめている。
スザクがどんな感想を言うのかがどうも気になるらしい…。
そんなルルーシュを見ていると、新婚夫婦の若奥さんが、自分の料理を食べている旦那さまの反応を気にしているシーンを思い出してしまう。
スザクが一口口に入れて、飲み込むまで、ルルーシュがじっと見ている。
流石に居心地が悪いのだが、近頃はそんなルルーシュにも慣れたらしい。
「うん…おいしいよ…。多分、他の人が食べてもきっと、美味しいって言うと思うよ…」
お世辞でも何でもなく、ルルーシュに感想を述べる。
実際に、ルルーシュは書かれているれ市日に忠実に作っているらしくて、『ひとつまみ』とか、『少々』と云う表現を見て、腕を組んでうんうん唸っていた事もあったくらいだ。
でも、最近では、そう云った事もちゃんと覚えたらしくて、それを忠実に守っている。
もう少し、慣れてくれば、ルルーシュは自分で自分なりの味付けなどが出来るようになるのではないかと思うくらいだ。
スザクの感想にルルーシュはパッと嬉しそうな顔をした。
そして、
「お…俺が作ってるんだから…当たり前だろ!」
完全に無自覚なようだが、ここでも『ツンデレ』を目一杯発揮している。
これは猫の特性なのか、ルルーシュ自身の性格なのか…。
そんなルルーシュを見ていると、本当にルルーシュと夫婦になったみたいな錯覚を起こしてしまう。
―――あ…でも、ルルーシュって男の子だった…
一番肝心なところは完全にスルーしているらしい。
日本の法律では男同士は結婚できないし、何より、こんな不思議生物なルルーシュなので、戸籍もないから、結婚も何もあったものではないのだが…。
「ルルーシュも食べなよ…。僕を待っていて、ルルーシュもお腹空いているだろ?」
そうやって、スザクはルルーシュに食事をさせる様に促す。
ルルーシュは人間の姿になると、本当に動きが優雅だ。
自分の事を『皇子』だと、自己紹介しただけの事はある。
細かい事はよく解らないが…でも、そう云った仕草を見ていると、本当に洗練された動きに見える。
―――きっと、小さい頃から上品な仕草を出来る様に訓練されたんだな…
表現としては、かなり乱暴ではあるが、スザクの頭の中のルルーシュへの感想は尤もである。
そのくらいに動きの一つ一つが綺麗で…優雅なのだ。
―――いつか…僕の事を教えたら…ルルーシュも教えてくれるのかな…。とは言っても、平凡な僕に比べて、ルルーシュの方は、すっごく色々ありそうだけど…
そんな事を考えながら、ルルーシュの作った料理を堪能していた。

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