『ゼロレクイエム』から…50年ほどが経っている。
ルルーシュもスザクも、『コード』を継承して、姿は変わっていない。
段々…自分の知る人物たちが、自然の摂理によってこの世から消えていく。
ジェレミアも機械を仕込まれていたとはいえ、本体そのものは人間で…。
つい、数年前、ルルーシュの身を案じながらこの世を去って行った。
ルルーシュもスザクも、かつては、多くのものの命を殺めてきた。
そして、間近で、身近な人間を失ってきた。
しかし、戦いが終わって、二人が『ゼロレクイエム』で国同士の摩擦を、武力ではなく、話し合いと云う方法で解決する道に進んでから、『ゼロ』である、二人が自らの手を血に染める事はなくなって行った。
細かいテロなどは当然ながら起きていた。
『ルルーシュ皇帝』と云う、一つの支柱を失った時、彼らが団結するための大義名分がなくなったためだ。
国家の代表たちは、もう、武力で争うと云う事をしないと、表向きにはそちらの方向へと話が進んではいたが、一つの悪の象徴の存在が消えた時、世界には、心を一つにして団結する大義名分が消え去っていたのだ。
そうなれば、どれだけ国家の代表たちが話し合いにテーブルについていても、人々の思いは様々だ。
特に、あの戦いにおいて、軍人として身を立ててきた者たちなどは、行く先がなくなっていた。
国家としての武力を持たない…表向きにはそう決められてしまったからだ。
『超合衆国』は国家の軍を持つ必要がなかった。
『黒の騎士団』と云う、軍人たちに受け皿があったから…。
しかし、世界の代表たちが、口をそろえて、『悪逆皇帝』の名を出して、武力そのものを否定したから、それまで軍人としてきた者たちの生き残りたちは、行き場を失った。
ブリタニアの正規軍は、ほぼ壊滅状態だったからいい…。
戦闘員のほとんどをダモクレスのフレイヤによって失っていた。
ダモクレスとの戦いで、ルルーシュはダモクレスの乗組員も、黒の騎士団のメンバーも結局誰一人殺さずに生かしておいた。
結果、元軍人たちの行き場がなくなったのだ。
確かに、『黒の騎士団』のトップクラスの幹部たちは、自国の要職に就いたから、なんとでもなった。
しかし、そうではなく、一般兵士たち、一個小隊隊長レベルの者たちは行き場がなかったのだ。
軍人とは悲しいもので、戦う事しか知らない者が多いのだ。
故に、普通の平和な社会生活を送ろうと思っても、なかなか、そう云った生活になじんでいけずに…社会のはぐれ者となっていく…。
その結果、そう云った不満分子たちが集まって、テロ組織が形成されて行った。>
まして、組織の最高幹部たちだけが、安定した生活を手に入れて、それまで、組織の下支えをしてきた者たちは完全に放り出された状況となっていたからだ。
それは、日本や中華連邦だけに限らず、『超合衆国』加盟国すべてが抱える問題となった。
そして、そこで生まれてきた暫定政府もそう云った事をあえて無視した。
そう云った連中のフォローを出来るだけの余裕がなかった事がある。
国際会議では、貧困や飢餓に苦しんでいる者たちへの救済を話し合っており、表向きには確かに…世界は、戦争に向けられていたその力が弱い立場の者たちに向けられていた。
しかし、根本的な問題が解決していない状態で、そんな綺麗な部分だけ並べたところで、何一つ変わる事はない。
そして、騒ぎが起きるたびに、『ゼロ』が出向いていくのだが、その度に、彼らの言い分は…その後の各国の代表たちの不満がこうしたテロ活動へとつながっている事を知る。
その度に…ルルーシュもスザクも心を痛めた。
ルルーシュが、この世界から消える前に、きちんとした受け皿を作れなかった事に…。
結局、日本国首相になった扇も、その後、陰から日本を支えてきた神楽耶も、その不満分子たちに振り回されていた。
大体、日本政府そのものが、国民選挙で選ばれた訳じゃなかった。
あれほど民主主義を唱えていた、扇は、臨時政府の首相だけにとどまらず、その後、何期も首相のいすに座り続けていた。
そして、引退後は…影の実力者として君臨する形となっていたからだ。
そもそも、扇自身、執政を行うだけの器がなかったとしか言いようがなかった。
本当なら、日本解放と同時に議院内閣制を復活させ、大体のお膳立てが出来た時点で、国政選挙を行うべきだったのだ。
それが出来なかった扇の失策としか言いようがなかった。
考えてみれば、エリア11のシンジュクゲットーでテロ活動をしていた頃のメンバーの中に政治を語れる者はいなかった。
否、その後も、ちゃんとした理念のもとに政治を語れたのは、皇神楽耶だけだった。
後は、武人であり、言われた事だけをこなす者が殆どで…。
日本が独立した後の事まで事細かに考えていた者はいなかった。
そして、『超合衆国』に加盟していた国々も、『ゼロレクイエム』を終えた後は、政府そのものががたがたで…それでも、『ルルーシュ皇帝』がいなくなった事に浮かれて、話し合いと云うテーブルに着いたはいいものの、自国の政治もままならないのに、国際会議も何もないものだった。
敢えて言うならば…ルルーシュ皇帝によって圧政を敷かれていた筈のブリタニアが…一番政府としてまともに機能していたというのでは…もはや笑えない。
いつものように…スザクが『ゼロ』としての責務を終えて、ジェレミアの残したオレンジ畑に帰ってきた。
「ただいま…ルルーシュ、アーニャ…」
あれから…もう50年が経とうと云うのに、『ゼロレクイエム』の後の組織された世界に散らばったテログループ達の排除に駆け回っている状態だ。
まだ少女だったナナリーも…既に還暦を超えている。
ずっと、『ゼロ』を補佐してきたシュナイゼルも自然の摂理に逆らえずに、この世から去っている。
そして…ナナリーもかなりの年齢になってきている。
ナナリーと同じ年のアーニャを見ているとそれがよく解る。
当然ながら、テロリストを構成する者たちも世代交代はしている。
ただ…結局あの戦いから端を発して、武力で問題を解決しない世界…それを求めた筈が、様々な見落としの所為で、こうして、今も、武力をもっての解決を求める者たちがいる。
いつか…スザクの所属をしていた特派で一緒だったセシルに言われた。
『あなたは職業軍人なのよ!』
今になってその言葉がのしかかって来る。
『超合衆国』で『黒の騎士団』に預けられた各国の軍人たちは…軍人としてしか生きていけない者も多かった。
それは…軍人であればそうなってしまう者が出て来る事はスザクにも解っていた。
ブリタニア軍は…確かにダモクレスから放たれたフレイヤで多くの軍人の命が消えた。
こうしてみると、あの時に死んでいったブリタニアの軍人たちの方が、気持ち的に楽だったのではないかと思うくらいだ。
その者が死んで悲しむ者がいるし、誰も、死ぬ事なんて望みはしない。
でも、生き残って、何もできずに、ただ、テロリストとしてしか存在できない者たちを見ていると…どちらが幸せなのか…解らなくなる。
あの時の『超合衆国』を構成していた国々の代表たちは一体何をしていたのか…そんな風に思ってしまう。
彼らが神聖ブリタニア帝国の第99代ブリタニア皇帝に対して牙をむいたのだ。
シュナイゼルと共に…
その国の軍人たちは、その国で責任を持つべきであって、今でも、
『あの戦争さえなかったら!』
などと高らかに演説している彼らの政治には正直、目を覆いたくなる。
帰ってきたスザクの姿を見つけると、ルルーシュがその場を立ち上がって、スザクに紅茶の用意をした。
いつの頃からか、それが習慣になっている。
「アーニャ…久しぶりに3人で夕食が食べられるな…」
年を重ねて、だいぶ体力が落ちているアーニャにルルーシュがそう声をかけた。
アーニャは黙って頷く。
ジェレミアがこの世を去ってから、アーニャは殆ど声を出さなくなった。
多分、アーニャはジェレミアに対して、家族のような親愛をルルーシュやスザクよりも強く持っていたのかも知れない。
元々、あの戦いの後、アーニャは一人で、社会に放り出されそうになっていた。
頼る者もなく、どうしていいか解らない時に、ジェレミアがオレンジ畑に連れてきたのだ。
戦争の後は…戦争をしている最中よりも遥かに政治力が要求される。
戦勝国であれ、敗戦国であれ、国の中は大混乱でめちゃくちゃになっているのだ。
特に敗戦国であった場合には、政府そのものが機能していないことだってある。
そんな中で、社会に放り出されてしまったものが数多くいた。
軍人、一般市民含めて…膨大な数だった。
自分で仕事をして、身を立てられる者だったらいい…
頼る者がいるものであればいい…
しかし、そうはいかないのが戦争と云うもので…
ブリタニアには、ナナリー、シュナイゼル、『ゼロ』がいたから、確かに混乱が全くなかった訳ではないが、それでも、他の国と比べればまだマシで…。
日本や中華連邦などは…ルルーシュ皇帝が『ゼロ』によって殺された後の方が大変であった。
それだけの政治を取り行えるものがいなかったからだ。
扇は目先の事だけを重視して、問題の本質を見極める事が出来ず、結局、民主主義を唱えながら、国民投票の国政選挙の制度すら復活させる事が出来なかった。
それに関しては、皇家の神楽耶も相当頭を痛めていたようではあるが…。
結局、そこから不満分子はさらに不満を増大させて、かつては、世界で一番安全な国と言われていたのに、『ゼロレクイエム』以後は…世界で最も治安の悪い国のワースト10に数えられてしまう程、国の中は乱れた。
中華連邦も、散り散りになっていたが、やがて、天子の下にかつての国土を取り戻して逝ったが、元々、病気を患っており、その病身に鞭打ちながら天子の為に動いていた星刻の死後、国は荒れた。
天子自身、何とか頑張ってはいたのだが…あまりに広い国土をそうやすやすとまとめられる訳がない。
既に軍事力を持たない国家であったため、テロリストたちが蜂起すると、やりたい放題だった。
そんな状況を抱えながら、ルルーシュとスザクは、今もなお、生き続けることを余儀なくされている。
一緒に暮らしていたジェレミアも、すでにこの世の人ではなくなっており、アーニャも…いずれは…。
そして、ナナリーや神楽耶たちも、いずれ…この世から去っていく。
彼女たちの死後も、この状況はきっと続く。
話し合いのテーブル…それは、代表たちの表面上のもので終わらせていたらこうなる事は…代表たちが気付かなければならなかった事。
そして、戦後の国民のケアも…。
世界が戦争に巻き込まれていて、どの国にも余裕などなかった。
だから、各国で各々がなんとかせねばならなかった。
ルルーシュは…国と云う一つの集団から、軍事力と云う力を排除させた。
故に、今起きているテロも、ナイトメアなんて使われる事はない。
ただ、それを制圧しに行く側も、きちんとした訓練を受けている者たちは、あの戦争で殆どがいなくなっていて…残った者たちの殆どが、食うに困って、テロリストとなっているのだ。
「なぁ…スザク…俺は…軍事力がなくなれば…戦争がなくなると思っていた。国と云う一つの集団から軍と云う組織がなくなれば…戦争はなくなると…」
二人でコーヒーを飲みながら、話していた。
「確かに…戦争は…ないかもしれないね…。国同士の争いに軍事力は介入していない…」
「でも…世界中に散らばった元軍人たちがテロ集団を形成して、蜂起するようになったな…。世代交代までされている…」
あの頃の自分の考えの浅さにルルーシュの中に後悔が残った。
国家間の戦争がなくなっても、不満分子は消えて行かない。
もっとも、出来上がった世界にはたくさんの人間が暮らしていて、たくさんの考え方がある。
その全ての人々が満足するなんて世界はあり得ない事くらいは解っている。
それでも…
「だから…『ゼロ』は存在するんだ…。君が、戦略を考え、僕が戦術を実行する…。いずれにしても…人が、人として生きる限り…争いはなくならないって事を…この50年で学んだんだよ…僕たちは…」
自分たちの施した破壊と創造…
世彼と思ってやった筈だが…やはり、思い通りにはいかない。
「これからも…俺達は…」
「そうだね…多分、これが僕とルルーシュが犯した罪への罰であり、償いになるんだよ…」
二人は様々な思いを抱えながら、今、自分がこうして生きる意味を考える。
結局たどり着く答えは…二人とも見つからない。
それは…何が正しくて、何が間違っているのか…そこに正解がない事を…思い知らされていたからだ…。
生きる限り…二人は、自分たちの求めた『優しい世界』の為に世界を見続け、抗い続け、壊し、作っていく事になる…
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