黒猫ルルにやん2


※設定:
ルルーシュは人間界に迷い込んできた、猫の国の皇子様です。
スザクはそんなルルーシュに一目惚れしてさっさと連れて帰ってしまった心優しい(一歩間違えれば誘拐犯と云うツッコミはなしです)一人暮らしの軍人さんです。
ルルーシュは魔法を使って人間の姿になれますが…うっかり屋さんで、時々ドジる事があります。

 黒猫になったり、人間になったりするルルーシュがスザクの家に来てから、生活がすっかり変わった。
軍の仕事自体は何も変わっていないのだが…仕事が終わると、スザクは一目散に自分のアパートに帰る様になった。
自分の家に、待っていてくれる者がいると思うと、本当に、生活が変わるものだと思った。
ルルーシュはスザクが帰って来ると、猫の姿であったり、人間の姿であったり…
どちらのルルーシュも好きなのだが…スザクとしては、どちらの姿でも一度くらい、一緒に外に出歩きたい…などと思い始めている。
猫のルルーシュは、本当にペットショップなどでも高額な値段をつけられている猫並みに綺麗な黒で、そして、毛並みも綺麗で、愛らしい声で鳴く。
下手に一人(一匹?)で外に出したら、誰かに連れて行かれてしまうじゃないかと心配になる。
また、人間のルルーシュは、それはそれは、綺麗な少年で…男女問わず、彼の姿を見て、見とれてしまうほどだ。
とりあえず、普段の買い物などは…ルルーシュに頼んではいるが、正直、不安で仕方ない。
そして、ルルーシュは、とても物覚えが良く、最近では、家事の全てをルルーシュがやってくれている。
時々、疲れてしまって、猫の姿になって眠っている事もあるのだが…その姿にさえ、スザクは
―――ああ…ルルーシュがうちに来てくれてよかった…
と思ってしまうのだ。
今日も、さっさと仕事を済ませて、ルルーシュの待つ自宅へと急ぐ。
帰る間際…先輩である、セシルに呼びとめられて、こんな事を言われた。
『スザクくん、最近、いつも急いで帰っていくのね?さては…彼女でも出来た?お昼ごはんもコンビニのおにぎりから、手作りのお弁当になっているし…』
などと言われてしまった。
ルルーシュは、彼女じゃないが、スザクにとって、今では何にも代えられない、大切な家族になっている。
本当は、ルルーシュに家事などやらせるつもりは全くなかった。
しかし、ルルーシュにそう云うと…
『俺は…お前のお荷物になりたくない!でも、俺は…人間の世界の事はよく解らないし…出来る事から始める…』
そう云って、ルルーシュがスザクの家に来た翌日から、スザクの部屋の大掃除を始めた。
何も知らないと云っていた割には、見事なまでに部屋がピカピカになっていた。
そして、ルルーシュがいろんな事を覚えたいと、スザクにねだって買って貰った、家事の本を読んで、覚えて、あれよあれよという間に、ルルーシュがスザクの家の中の事をやるようになっていた。

 ある日、仕事を終えて、ルルーシュの待つ1DKの小さなアパートに帰っていく。
元々、寝る為だけのつもりで借りていたアパートで、確かに狭い。
でもルルーシュは…
『スザク…俺の所為で部屋が狭くなっちゃってごめん…。スザクのいる時には…猫になる…』
と、そんなことまで云ってくれるので、流石にスザクも慌てた。
『な…何言ってるのさ…。でも、確かにちょっと狭いよね…。ルルーシュ…ごめん…。僕、ここには寝に帰って来るだけだから…。もうちょっとしたら、引っ越ししない?』
スザクは、その環境では流石にルルーシュも気を使って…もしかしたら、出て行くとでも云いだしかねない…。
それだけは絶対に困るので、なんとか、ルルーシュと一緒にいたいと考えて、引っ越しを決意する。
実際に今のアパートは、軍施設からもちょっと遠くて…
もう少し近くのアパートにすれば良かったと考えていたくらいだ。
ルルーシュの為に引越しするなんて言ったら、絶対にルルーシュは気にする。
それで、ルルーシュが自分の所為で部屋が狭くなったと思っているようなので、もう少し広くて、もう少し軍施設に近い場所…と云う事で、スザクは考えたのだ。
『ルルーシュ…実は、このアパートから僕が通っている軍の施設まで…ちょっと距離があるんだ…。本当はもうちょっと近い方がいいなぁ…なんて考えていたんだ…。だから…軍の施設までもうちょっと近くて、ここよりもうちょっと広いところ…今度一緒に探しに行こう…』
そんな風に提案した。
ルルーシュはスザクが無理をしていないかとスザクの顔を伺っていたが…それでも、スザクの顔にはそんな事を感じさせるようなものは…少しもなくて…
ルルーシュはスザクのその提案に素直に頷いた。
そうして、スザクはルルーシュを連れて、その時に借りていたアパートよりも広くて、軍施設に近いアパートに契約しなおした。
そこは…ペット可でルルーシュが猫になっても大丈夫なアパートだった。
『ルルーシュ…今日からここが僕たちの家だよ…』
人間の姿になっているのに、スザクはつい、ルルーシュにそんな風に云ってしまった。
人間の姿で、見た目はスザクと年齢は変わらない姿のルルーシュにそんな事を云っているのは、ちょっと変な気もするのだが…
でも、ルルーシュはその言葉に笑顔でスザクを見た。
『ここが…今日から俺たちの家…』
ルルーシュは一言、そんな風に呟いた。

 そして、引っ越し荷物を整理し始めるのだが…
これまでのアパートが狭かったため、そこよりも遥かに広くなったこのアパートに荷物を運びこむと云っても、そんなに時間がかからなかった。
それこそ、ベッドと洋服ダンス、小さなテーブルに、必要最低限の家事道具…
引っ越し当日に、片付けが終わってしまう程度の荷物しかなかった。
『ルルーシュ…ちょっと、電気屋さんへ行こうか…。引っ越しして、部屋が広くなったから、テレビ置こうと思うんだけど…』
スザクがそう提案すると、ルルーシュは不思議そうな顔をする。
『テレビ?』
ルルーシュがそう聞き返す。
どうやら、ルルーシュのいた国にはなかったらしい…
そうして、大型の電気店へ行くと…様々な電化製品が並んでいて、最初は呆然としていたルルーシュだが、好奇心は旺盛なのか、楽しそうに見ていた。
ただ…どうも、人が怖いのか…スザクの傍を離れようとしないが…
恐らく、スザクと出会うまで、いろんな事があったのだろうと…なんとなく思う。
『ルルーシュ…テレビはこれに決めたけど、何か欲しい物ある?』
スザクがルルーシュに聞くと…ルルーシュは歩いている途中で見かけた、パソコンに興味を持ったらしい。
『えっと…あの変なの…。テレビみたいなのがついていて、その前に、いっぱい押すところがある奴…』
ルルーシュはそのパソコンをいじっていた客の行動に興味を持ったらしい。
その不思議なものは、不思議な事が出来るらしい…
『ああ、パソコンかぁ…。僕もそろそろうちにあった方がいいなとは思っていたんだよね…』
そう云いながら、スザクはルルーシュと一緒にパソコンコーナーへと向かって行った。
スザク自身、軍施設で使う程度でしかパソコンの使い方は解らないのだが…それでも、インターネットをしたり、ゲームをしたりと云う事は出来るのだ。
『ルルーシュ…これはね、パソコンって云って、いろんな事が出来るんだよ…。ゲームしたり、インターネットをつないで、いろんな事を調べたり、誰かとお話しする事も出来るんだよ…』
かなり簡単な説明だったのだが…その簡単な説明にルルーシュが目を輝かせている。
パソコンの使い方を覚えれば、ルルーシュもスザクが軍施設に仕事へ行っている時も、暇を持て余す事はなくなる。
最近では、掃除も洗濯も毎日やっているので、午前中にはそれらの家事は全て終わっている事が多いらしい。
買い物を行くにしても、夕方のタイムサービス時間に出かけているらしいし、食事の用意も、結構要領がいいらしく、短時間で準備が出来ているようだ。
短時間で…と云っても、決して手抜きをしている訳ではないし、スザクが独り暮らしをしていた頃よりも遥かに食生活は豊かだ。

 パソコンコーナーへ行くと、最新モデルのパソコンから、旧モデルのパソコンまで実に様々だ。
実のところ、スペックを見ている分には大して変わっているとも思えないのだが…
それでも、最新モデルのものの方が遥かに値段が張っている。
『ルルーシュ…どれがいい?』
『俺に聞かれてもよく解らない…。でも、見た目は…これがいいな…』
と指さしたのは、黒を基調としたシックな感じのパソコンだった。
スペックそのものには、見た限りでは問題ないし、値段的にもそれほど悪くはない。
『解った…これで、インターネットを繋ぐ為の契約もして…買っていこう…。あと、パソコン関係の本もあるから…それも買って、覚えないとね…』
そんな事を云いながら、スザクは店員と話し始めた。
そして、商談が成立したらしく、テレビと合わせて、パソコンとそれに必要なものも購入して…
『スザク…お金…大丈夫か?』
ルルーシュがふとそんな事を心配している。
スザクはルルーシュのそんな言葉に驚くが…
心配そうなルルーシュの顔を見て、優しく微笑んでやる。
『そんな心配…しなくていいんだよ…。僕、ずっと、お金使ってなかったから…貯金あるし…。それに、せっかくルルーシュと新しい生活を始めるんだから…』
そう云って、ルルーシュの肩をぽんぽんと叩く。
見た目的には、スザクもルルーシュも同じ年頃の青年に見えている。
ただ…ルルーシュには、人間の習慣と云うものを中途半端に覚えている事もあって、周囲がこんな二人のやり取りを見ていたら、訝しく思う人もいるだろうとは思う。
でも、それは仕方のない事だし、解らない事を解ったふりをされるのも、変に何も知らないままでいられるのも困る。
ルルーシュはこれから、スザクと一緒に生活していくのだから…少しずつ、覚えて行って貰わなくては困るのだから…。
スザクの言葉を聞いても、まだ心配そうにしているルルーシュを見ていると、本当に可愛くて、つい、顔がほころんでしまいそうになる自分を必死に抑えているスザクであった。

 あの引っ越しから3週間ほど経った。
スザクもルルーシュも今の環境に慣れてきていて…。
そして、ルルーシュは、スザクに買って貰ったパソコンを一生懸命に覚えた。
勿論、自分でやると言った家事についてはしっかりこなしている。
ゲームをしたり、インターネットをしたり…
特に、インターネットは気に入ったらしく、新しい料理の作り方を知りたい時などは活用しているようだ。
そして、人間の世界の事も…少しずつ覚えようとしている。
ただ…インターネットは、ウソか本当か解らない情報も流れていたりして…
真っ白過ぎるルルーシュに、変な影響を与えないといいけれど…と、スザクは思う。
だから、時々、仕事の上司に聞いて、インターネット初心者用の本を買ってきてルルーシュに渡しておく。
ルルーシュはその本を受け取って、その本を読みながら、勉強しているようだ。
そして、スザクが色々と心配している内に、スザクよりも、ルルーシュの方がパソコンに詳しくなってしまった。
時々、ちょっと大人ぶってスザクにパソコンの説明をするようになった。
そんなルルーシュを見ていてもかわいいと思ってしまう。
スザクの中で、何となく、ルルーシュに対する感情が、変わり始めている事に気がついた。 正直、それに気づいた時…自分自身に云っていた…
―――どうか…絶対にルルーシュを傷つけませんように!
と…。
スザクの中でルルーシュに対する独占欲が芽生えてきていたのだ。
ルルーシュはスザクと出かけると、スザクの傍を離れようとはしない。
好奇心は旺盛らしいのだが…スザクの傍から離れる事を極端に怖がっているフシがある。
そんなルルーシュを見ている内に、スザクの中でルルーシュに対する独占欲が芽生えてしまったらしい。
「ルルーシュ…」
仕事から帰ってきたスザクが猫の姿になって眠っているルルーシュに声をかける。
その声に、ぴくっと耳が動いて…そして、ゆっくりと目を開けて、ルルーシュが大きく欠伸をしながら伸びをする。
「あ…スザク…お帰り…」
どうやら、少々疲れて、猫の姿になってしまったらしい。
いつもなら、人間の姿でルルーシュはスザクを出迎えるのだが…。
それでも、テーブルの上にはしっかり夕食の準備が出来ていて…
「どうしたの?今日は何をやって疲れたの?」
スザクがルルーシュを抱き上げて今日一日の話を聞く。
ルルーシュは猫の姿のまま、その日にあった事をスザクに話し始める。
なんでも、特売セールに行って、おばさんたちにもみくちゃにされたらしい…
スザクはそんなルルーシュを見て
「もう…そんなに無理しないで…。そんな特売セールじゃなくても、もっと、疲れないで買い物できる時間に行きなよね?」
スザクがそう云うと、ルルーシュはぶんぶん首を振った。
「スザクは、俺にパソコン、買ってくれたし…その分は返さないと…」
ルルーシュの言葉にスザクは驚いてしまう。
家事一切をやっているのに、これ以上、何を返すと云う気なのだろうか…
でも、こんな会話が、凄く幸せで…
スザクはルルーシュを自分の膝の上に乗せて食卓に着いた。
そして、スザクとルルーシュの夕食を始めるのだった…

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