こんな…恋の物語?


 彼の名前は枢木スザク…
天然で…ナチュラルに女の子たちを口説いていて…でも、本人に自覚なし…。
ちなみに、彼女に困った事がないのだが…彼の天然ぶりに大抵の女の子たちはうんざり…と云うか、詐欺師にあった被害者の様な顔をして、彼を振っている。
彼自身に、何の自覚もないので、どうして、女の子たちは告白してきて、どうして、女の子たちがスザクを振るのか…よく解っていない状況だった。
尤も、スザクの事を知らずに勝手に告白してきて彼女の座に収まっておいて、自分の考えていたスザク像と違うからと云って、スザクを詐欺師扱いしている彼女たちもどうかと思うが…。
しかし、こんなスザクでも彼女に事欠かないのは、常に、そのお子ちゃまフェイスで女の子たちの母性本能をくすぐっているからだ。
いつも、彼女たちはスザクに告白するときには共通して…
―――私なら絶対にスザクくんを包んであげられる!
と云う、大いなる勘違いの下に告白してくるのだが…結局、彼を包んで上がられた女の子は今のところ…0である。
長くて1ヶ月…短ければ2週間…。
スザク自身、いつも、告白してくる女の子たちがいるから、とりあえず付き合っている…と言った状態で…
でも、特別好きだとか、一緒にいたいとか言う感情もなくて…。
彼女の座に収まっては見るものの…結局は以前と変わりなく、誰にでも愛葬を振りまいているのだ。
そして…今日も校舎の裏で…
「ごめん…私から告っておいてなんなんだけど…やっぱり…私…スザクくんとは…」
とりあえず表面上は申し訳なさそうにしている、今回の元彼女になろうとしている現彼女…。
そんな言葉にもスザクはニッコリ笑って…
「うん…しょうがないよね…。きっと、僕が悪かったんだろうし…。僕の方こそごめん…」
いつものお決まり文句を一言言っておく。
本人は、あまり落ち込んでいる様子もなく…むしろ振っている女の子の方が傷ついた顔をしている。
あまりにあっけない恋人同士の最後だ…。
その女の子が、泣きそうになりながらスザクに背中を向けると、走り出していく…。
そんな女の子の背中をスザクは優しく微笑みながら手を振っているのだ。
これを意識的にやっているのなら…スザクはよっぽどの悪人である。
否、天然であったとしても、これは許される範疇を超えているかも知れないのだが…
そんな様子を…どうやら不本意ながら見ていた人物がいたらしい…

 彼の名前はルルーシュ=ランペルージ…
スザク同様…女にもてるのだが…スザクと違って、纏わりつかれるのが嫌い…と云う事で、全ての告白を一刀両断している。
しかし、このクールさが逆に人気に火をつけて、今では『ルルーシュ親衛隊』なるものまで存在しているらしい…。
「のぞき見なんて…悪趣味じゃない?ルルーシュ…」
ルルーシュの気配に気がついたのか…スザクは背後の気配に声をかける。
「俺の方が先客だったのに…。いつもながら、罪作りな奴だな…」
校舎の陰から出てきた少年がスザクにそう言い放つ。
校舎の陰で掃除をさぼって本を読んでいたらしい。
「また、掃除さぼって…」
スザクはあきれ顔でルルーシュを見る。
「俺が行くと…いろんなところから男女問わず出てきて、うるさいからな…。逆に掃除の邪魔になるだろ?」
ルルーシュの場合、掃除当番になるといつも、『ルルーシュ親衛隊』たちが群がってきて、ルルーシュの役割を強奪していく。
そして、その場所は混乱状態になり、逆に同じ班のクラスメイト達に迷惑をかけるのだ。
だからいつも、ルルーシュが掃除当番のときには、同じ班の班長に…
『ルルーシュくんは…掃除しなくていいから…お願いだから出てこないで!』
と泣きつかれたのだ。
実際にルルーシュがそう云う場所にいると、普通の掃除をやるだけの筈なのに…普通に3倍は時間がかかる事になるのだ。
それ故に、いつも、見つかりにくい場所を選んで…しかも、見つからないうちに場所を変えながら、姿を潜めているのだ。
まるで、芸能人のようである。
「まぁ…確かにね…ルルーシュの場合はそうかもね…」
「お前も人の事…言えるか…」
この二人は…幼馴染で、性格は正反対、特技も正反対…この学校で人気を二分している二人である。
ただ…スザクの場合は、恋愛感情の場合は女の子…弟子入り志望の場合は男の子…
ルルーシュの場合は、恋愛感情が男女問わず…時々、ルルーシュの頭の良さで、科学部、外見と身のこなしで演劇部の部員達から熱いエールを送られてくる…。
そんな状態なので…二人の学校生活もなかなか大変なものである。
ルルーシュの場合は、その頭の良さを駆使して、『ルルーシュ親衛隊』と云う、体のいい檻を作っており、スザクの場合は、その笑顔でナチュラルに断っている。
ルルーシュにスザクの真似をしろと云うのは酷な話だし、スザクにルルーシュの真似をしろと云うのは絶対無理な話だし…。
結局、二人は独自のやり方で(スザクは無意識なのだが)様々な周囲の障害物(?)を回避しているのだ。

 二人は校舎の壁に寄り掛かって座っている。
「ねぇ…僕たち…なんで、いつまでも同じ事しているんだろうね…」
スザクがぼそっと一言呟いた。
「ほぅ…お前でも、それなりに自覚はあったんだな…」
ルルーシュの一言にスザクがむっとする。
「何?僕が、無意識にやってたと思ってたわけ?」
まるで…心外だ!と言わんばかりである。
まぁ、周囲からは天然に見えていたかも知れないのだが…スザクはスザクなりに気を使っていたらしい。
「一応、考えてやっていたのか?あれを…」
ルルーシュは驚いた顔でスザクを見る。
さっき、スザクが振られるシーン…と云うか、明らかにスザクが無関心だったから別れを切り出されているシーン…だったのが…スザクの頭の中で考えてやられていたとするのなら…
「お前…将来、結婚詐欺師になれるんじゃないのか?」
あきれ顔でルルーシュが呟いた。
「失礼だなぁ…相変わらず…。僕だって、一応、気を使っているんだから!」
スザクがぷんぷん怒ってルルーシュに怒鳴りつける。
ルルーシュは相変わらず意外そうな顔をしている。
「だって…僕にだって…好きじゃない子と付き合ったりしても楽しくないのは解っているよ…。でも、ルルーシュみたいにはっきりくっきり断れないし…」
「(怒)」
スザクのその一言にルルーシュは何だかむかついた。
しかし…確かにスザクの性格ではルルーシュのように切って捨てるような断り方は出来ないだろう。
スザクの美点でもあるかも知れないが…ある意味、残酷さ加減を示している気もする。
「どうせ…俺は性格がきついからな…」
ルルーシュがそっぽ向いて呟いた。
確かに…自覚はあるが、他人に…しかも、愛想のいい人間にそう云ったツッコミを入れられると、なかなかグサッとくるもので…
性格はきつく見えても、あまりはっきり言われると傷つくものである。
「あ…別に…そう云う意味じゃないよ…。ルルーシュの場合、はっきり言っている分、ルルーシュも辛いんじゃないかと思うよね…。相手、女の子だし…きっと泣いちゃう子もいるんでしょ?」
「そりゃ…俺のこの声で、きつい事言われると効くみたいだな…」
自分がきつい言い方をして断っているのは…ルルーシュにもそれなりの考えがあっての事…。
その気のない相手に優しくしても、残酷なだけである。
最後まで貫き通せない優しさなら…最初から与えてはいけない…そう思うから…
それでも、『ルルーシュ親衛隊』が出来るのは、そこにはいる連中はみんな、マゾだとルルーシュは思っている…。

 そっぽ向いているルルーシュを見て、スザクは場所を移動して、ルルーシュの正面に来た。
「ねぇ…僕たち…付き合っている事にしない?」
スザクのとんでもない提案にルルーシュは目を丸くする。
「お前…熱でもあるのか?それとも俺の耳がおかしくなったのか?」
ルルーシュは流石にそれはないだろうと云う顔をする。
それでも、スザクの方はいたって真剣で…
「僕は何ともないし、多分、ルルーシュの耳もおかしくない!」
天然だとは思っていたが…ここまでひどいとは…とルルーシュは思う。
自分の幼馴染ながら、少々心配になる。
「スザク…お前の性別は?」
「何言ってるの?男に決まってるじゃない…」
ルルーシュの質問にサラッと答えた。
そして、ルルーシュはさらに質問する。
「じゃあ、俺の性別は知っているか?」
これで知らないとでも言われたらどうしようかと思うし、むしろ、知らないと答えて貰った方が、救いがあるかも知れないと思ってしまう。
「ルルーシュは男でしょ?それとも性転換でもしたの?」
スザクはいつもの天然スマイルで答えている。
ルルーシュはいよいよ頭が痛くなってきた。
「お前…これまでに付き合ってきた女の中で妙な奴がいて…そいつに洗脳されたとか?」 「妙なのって?」
スザクは相変わらずの笑顔で…答えてくる。
まるで、耳をぴんと立てて、しっぽを振っている大型犬を見ているようだ。
「……」
とにかく…振りであれ何であれ…そんな事をしたら…別の意味で注目の的になる。
それに…スザクを好きな女子たちだって黙ってはいない。
スザクを好きになる女子たちは…勘違いした母性本能が強く、
―――スザクくんは私が守ってあげるの!
と云う気持ちの強い女子ばかりだ。
それが…ルルーシュがスザクと付き合っているという事が噂にでもなったら…その女子たちがどんな暴走をするか解らない。
この学校での人気が二分していると云うだけあって、ルルーシュを好きになる者はルルーシュだけ…スザクを好きになる者はスザクだけ…なのだ。
ルルーシュはここで、とにかく、スザクのこの考えを思いとどまらせようと必死に頭を働かせる。
どんな妙策も、天然に通じない事は古今東西のお約束で…

 そんな風に考えているルルーシュにスザクはニッコリ笑った。
「大丈夫…。ルルーシュの事は僕が…守るから…」
笑って話しているが…スザクが至って本気である事はよく解った。
ダテに幼馴染はやっていない。
スザクが冗談を言う時の目の色と、本気で行っている時の目の色は…明らかに違う。
「お前…もうちょっと冷静に…」
ルルーシュがそう云いかけると、すぐにスザクがルルーシュの言葉を遮る。
「だって、僕たちずっと一緒にいるし、そう云う風に思って貰ったっていいじゃない…。他の誰が何を思っていたって、勝手に云っている分にはタダだし…」
「しかし…俺たち、その噂だけで学校では曝しものだぞ!」
「今だって変わらないじゃない…。だったら、こうやって呼び出される事がなくなる分、その方が僕たちの負担は減るでしょ?」
相変わらず、にこにこ笑っているスザクのペースに巻き込まれて行っている自分になんとか、思いとどまれと云うルルーシュの気持ちもあるのだが…
「じゃあ、決まりだね!」
スザクはすっかり話を進めている。
ルルーシュが戸惑っていると…
「とりあえず、やってみて…ダメならまた別の方法を考えよう!」
相変わらず楽観的に考えるスザクには勝てない…そんな風に思ってしまう。
スザクはそんな事を考えているルルーシュの上に覆いかぶさってきた。
「お…おい!」
「しっ…そこの壁の向こうに女の子たちがいるから…この姿を見せれば明日には…」
スザクが小声でそんな事を云っている。
こんな醜態を人目に曝しているのかと思うと顔から火が出そうになるが…
体力バカなスザクに力で敵う筈もなく…
押さえつけられている両手首の先の掌をぎゅっと握ったままスザクを睨んでいる。
そして…顔がどんどん近付いてきて…
その距離が…0になる…。
壁の向こうから女の子の黄色い声が聞こえてくる。
そして、その声が小さくなった時…スザクがその距離を広げた。
「お…お前…一体何を!」
ルルーシュは真っ赤になってスザクに怒鳴りつける。
「まぁまぁ…明日には、きっと、ルルーシュにも僕にも告ってくる女子が激減するから…」
そんな風に云いながらスザクはルルーシュから離れた。
スザクの本当の気持ちを知らないまま、ルルーシュは呆然としている。
そんなルルーシュを見て…スザクは心の中で嬉しそうに笑った。
―――これで…ルルーシュに近づく奴が減るね…。絶対にルルーシュは…誰にも渡さないから…

 翌日…前日のルルーシュとスザクの様子がいろんな形で学校中の噂になっていた。
その噂にルルーシュは顔を真っ赤にして逃げ出そうとしていたが…そんなルルーシュを我が物顔で連れていたスザクの姿があった。

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