黒猫ルルにやん


※設定:
ルルーシュは人間界に迷い込んできた、猫の国の皇子様です。
スザクはそんなルルーシュに一目惚れしてさっさと連れて帰ってしまった心優しい(一歩間違えれば誘拐犯と云うツッコミはなしです)一人暮らしの軍人さんです。
ルルーシュは魔法を使って人間の姿になれますが…うっかり屋さんで、時々ドジる事があります。

 冬の寒空の中…軍の仕事を終えたスザクが家路を歩いていました。
「あ〜さむっ…」
連れも誰もいないのですが、こんな寒さの中、ついつい声を出してしまいました。
今、自宅としているアパートに帰っても、誰がいる訳でもなく、自分でストーブ点けて、部屋を暖めるまではアパートの部屋も寒いままです。
今日もわびしくコンビニのお弁当がお夕飯のスザク…
本当は、おうちでご飯を作ってくれる人がいたらいいなぁ…などと思ってはいるのですが…
職業柄、なかなかそう云った相手を見つける事もままならず…今も、寂しく、今夜のお夕飯をコンビニで物色中…。
お弁当を温めて貰って、アパートの方へ歩を進めていると…
―――みゃあ…みゃあ…
「猫の声?」
どこからか、猫の声が聞こえてきます。
しかし、冬の夕方…すっかりあたりは暗くなっています。
でも…声だけは聞こえてきて…
ひょっとすると、スザクの持っているお弁当のおかずの臭いを嗅ぎつけたのかも知れません。
スザクはちょっとだけ考えて、お弁当のふたを開いて、竹輪のてんぷらを出して、地面に置いてみました。
すると…塀の陰から…一匹の黒猫が出てきました。
その黒猫…スザクの竹輪のてんぷらを見るなり、そこに駆け寄って、むしゃむしゃと食べ始めました。
よほどお腹が空いていたのでしょう。
それはそれはおいしそうにスザクの置いた竹輪のてんぷらを食べています。
そして、食べ終えると、その黒猫は自分の前足をぺろぺろとなめています。
その仕草に…スザクは心動かされてしまい、じっと見つめていました。
そして、その様子にその黒猫が気がついたのか、スザクの方をじっと見つめています。
「やっと…魔法が使えるな…」

 今のはスザクが云ったのではありません…。
では…誰が?
スザクが辺りを見回しますが、その黒猫とスザクしかいません。
「おい!お前…その上着…貸してくれないか?」
黒猫がスザクに向って喋っているではありませんか!
「え?えええ?ね…猫が…喋った…」
スザクが呆然とその言葉を吐き出しますが…その猫の方は、憮然としています。
「おい!お前…俺が喋れるのは当たり前だ!これでも、猫帝国の皇子だからな…!そんな説明はいい!さっさと上着を貸せ!」
猫帝国?皇子?スザクの頭の中ではそんな単語がぐるぐる回っていますが…その黒猫の剣幕についつい来ていた上着を脱いでその猫にかけてやります。
「ふぅ…物分かりの悪い人間はこれかだから困る…」
そう云いながら、その黒猫はかけられた上着の下でどんどん姿を変えていきます。
まるで、SF映画の化け物が人間に変わっていく様子をリアルで見ているようです。
そして…その黒猫は…スザクと同じくらいの身長の少年へと変わりました。
スザクのやや長めのコートを羽織って、とりあえず、警察が来ても連れて行かれない格好となった訳です。
スザクはその姿に呆然としていますが…そんなスザクにその黒猫だった少年は最上級の笑顔を見せてくれました。(と云うか、スザクにはそう見えたらしいのですが)
「ありがとう…。なんだかこっちの世界へ迷い込んでしまったらしくて…。お前がいい奴でよかった…。助かったよ…」
その少年はスザクに先ほどの竹輪のてんぷらとこの上着のお礼を言っているようでした。
それにしても、見れば見るほど綺麗な少年です。
このまま放りだしてしまっては、きっと、悪い事を考える大人に連れて行かれてしまいます。
スザクは事を考えてしまうと、怖くなってしまいます。
上着を貸していて、先ほどよりもかなり寒い中に立たされていると云うのに、そんな事をすっかり忘れてしまっている状態です。
「ね、僕、スザクって云うんだ…。よかったら…僕んちにおいでよ…。君みたいな人がそんな恰好で街をうろついたら、悪い人にさらわれちゃうよ!」
どんな想像をしたかは知りませんが、スザクは必死です。
その少年はきょとんとスザクの事を見つめていますが…
どうやら、彼の事を心配してくれているらしいという事は解りました。
「ありがとう…。でも…俺なんかが行ったら迷惑じゃないか?それに俺は…」
そこまで云いかけた時、スザクがその少年の両手を握りしめながら少年の言葉を遮ります。
「全然迷惑じゃないよ!僕、一人暮らしだし!ちょっと、アパート狭いけど…でも…君一人くらいなら大丈夫!それに、軍人だから…多分、君一人くらいなら養えるから!」
軍人と云うのは、危険な仕事だけあって、それなりに給料はいいのです。
恐らく、スザクと同年代の中では給料、その他の手当を見ても収入はずば抜けているでしょう。
しかし、軍人と云うのは危険な職業である為、それ相応に特典もあり、基本的に収入の殆どがお小遣いに出来るのです。
特に趣味を持つ訳でもないスザクはこれまでの給料は殆ど貯金に回っているのです。
ですから…この、お人形のように綺麗な少年を一人くらい養っていくことくらいはできます。
「お前…変わっているな…」
その少年はクスッと笑います。
「あ…あの…それじゃあ…」
スザクがその少年の返事を待っています。
その少年が綺麗な笑みを見せながら答えました。
「ああ…ありがとう…。世話になる…」
少年はそう云って、右手を差し出した。
スザクはその少年に満面の笑みを見せながらその右手をつないで、引っ張っていく。
「僕のうち…こっちだから…」
そう云って、その少年の手を引っ張るのだが…
「悪い…人間の足だと…裸足では結構痛いんだな…。ゆっくり歩いてくれないか?」
その少年がスザクにそう、頼んできた。 確かに…この道路には、小さな砂利みたいなものが結構転がっている。 「ね、この袋…持っていてくれる?」
その言葉にスザクは何を思ったのか…コンビニの袋を渡してその少年を姫抱きにして、歩き始めた。
「これなら…君の足…痛くないだろう?ね、名前…教えてくれる?」
スザクは少年を軽々と持ち上げて、普通に歩いている。
「ルルーシュ…」
「へぇ…見た目だけじゃなくて、名前も綺麗なんだね…」
スザクは嬉しそうにルルーシュに話しかけています。
スザクは、両親を亡くして、どうしようか迷っている時に、軍人になりました。
軍人になれば、生活に困らないからです。
元々運動神経がよくて、体力も人の倍はあったので、スザクには向いていた職業なのかも知れません。
しかし…今のところは待機軍人ですが、いつ、前線へ行けと云う命令が下されるか解らないし、いつもいつも、一人の部屋に帰っていくのは寂しいと思っていました。
しかし、今日、この不思議な少年に出会ったのです。
スザクの心は躍っています。
この少年が、自分と一緒のアパートで暮らしてくれれば…
少しは、この冬空の様なスザクの心が晴れてくれるかもしれない…そんな風に思うのでした。

 スザクのアパートに帰って、明かりをつけて、すぐにストーブをつけます。
ずっと人がいなかったこの部屋は…やっぱり寒々しています。
「ここが…僕のうち…。狭いけど…。」
そう云って、スザクはルルーシュを下します。
確かに…寝に帰ってきているような感じの、殺風景な部屋です。
「あと…これ…僕のだけど…着て?そのままじゃ、風邪引いちゃうから…」
そう云って、トレーナーとジャージのズボンをルルーシュに渡します。
「あ…ありがとう…。本当に…いいのか?俺がいたら…狭くなっちゃうだろう?」
「そんな事ないよ…。僕…一人でここで寝ていると…つい、寂しくなっていたんだ…。そんなとき…君が現れたんだ…。ホント、嬉しい…」
ルルーシュに関して、何も疑う事も、怖がる事もなく…自分の家に招き入れているスザクを見て、ルルーシュは不思議に思います。
これまでは…猫が喋るともなると、みんな、大声をあげて逃げていくとか、怪しげな研究所に連れ込まれそうになった事だってあるのです。
このスザクと云う少年は…今までの人間とはちょっと違うようです。
スザクは小さなテーブルの上に先ほど買ったお弁当と沸かしたばかりのお湯でコーヒーを淹れた。
そう、竹輪のてんぷらだけがなくなっているお弁当…
「あ…ごめん…さっき、俺が食べちゃったんだ…」
「いいよ…別に…。でも、君の分、どうしよう…半分こ…する?」
スザクは何でもないようにそうルルーシュに提案します。
しかし、ルルーシュは首を横に振ります。
「いや…俺はあれで充分だ…「ぐぅぅぅ」」
ルルーシュのお腹が鳴ってしまいました。
やはりやせ我慢をしていたようで…
ルルーシュは顔を真っ赤にしてしゃがみ込んでしまいました。
「ルルーシュ…君は優しいんだね…。いいよ…これ…半分こしよ?」
スザクが優しい笑顔を見せて、簡易キッチンから箸とお皿を持ってきました。
顔を真っ赤にしているルルーシュの顔を上げさせます。
「あ…否…本当にいい…。猫に戻れば…半分もいらないから…」
ルルーシュは顔を赤くしたままそう呟きました。
「猫に?戻る?」
スザクが不思議そうにルルーシュを見ます。
すると…ルルーシュの身体がだんだん縮んでいき、先ほどの猫の姿になりました。
「え?え?」
スザクはスザクのトレーナーの中でもそもそしている黒猫を見てまたまた驚いています。
「君…人間になったり、猫になったりできるの?」
黒猫になったルルーシュにそう尋ねます。
「まぁ…。ただ…体力が消耗している時には…魔法が使えなくなってさっきみたいに人の言葉も喋れなくなってしまうけど…」
目の前で繰り広げられなければとても信じられない光景です。
でも…スザクにとっては…新しい家族が出来た気がしました。

 不思議なルルーシュを見ていて、いろいろ驚かされています。
「なぁ…スザク…ミルクはあるか?この姿なら…温めたミルクでいいから…」
「あ…うん…あるよ…。ちょっと待ってて…」
そう云って、冷蔵庫から牛乳を出して、平たい深皿に入れて電子レンジで温めます。
「これで…いいかな?」
スザクはルルーシュの前にその温めたミルクを入れたお皿を置きます。
「ありがとう…」
そう云って、ルルーシュはその温めたミルクを舐め始めます。
ペットを家族同様に扱う人がいる…そんな事を聞いていましたが…こんな姿を見ていると、何となくそう云う人たちの気持ちが解ります。
ルルーシュは人間にもなりますが…
そんな姿をじっと見つめたあと、スザクもテーブルの前に座って自分の食事を始めます。
すっかり冷めてしまったお弁当…温めなおす事も忘れて、ルルーシュと一緒の夕食を楽しみます。
「ねぇ…ルルーシュ…。ずっと…ここにいてくれる?僕…軍人だから…帰って来られない時もあるんだけど…」
食事をしながらスザクはルルーシュに尋ねます。
ルルーシュはふっと顔をあげてスザクの方を見ます。
「俺…こんなおかしなやつなのに?人間界じゃ…こう云うのを、バケモノ…って云うんだろう?」
まるで、これまでのルルーシュの経験を語っているようです。
先ほども本当は、竹輪のてんぷらと上着だけ貰ってどこかへ行ってしまおうと考えていたと云っています。
「別に…君が化け物でもそうじゃなくても…君は君だろう?僕は…君にいて欲しいんだ…。それに…僕も…一人が寂しかったから…」
ルルーシュはきょとんとしてスザクを見ています。
「僕ね…随分前に両親が死んじゃって…軍人も…その時に食べて行くのに困ったからって云う理由でやっていて…ずっと、空っぽだったんだ…」
何だか、かなり深刻そうな話にルルーシュは戸惑いを見せています。
「でも…今日まで…こうして生きてきて良かった…。だって…ルルーシュに会えたから…。僕…ルルーシュに会えて…すっごく…嬉しいんだ…」
そう云うと、スザクは涙ぐんでいました。
ルルーシュは…ちょっと困った顔をしていましたが、すぐにその姿のまま、スザクの膝に飛び乗ります。
そうして、スザクにこう云います。
「俺…お前が気に入った…。だから…傍にいてやる!」
ルルーシュがスザクを気に入ったのは本当でした。
お弁当の竹輪をくれて、ルルーシュの不思議な力を見ても逃げ出さずに…否、それどころか、一緒にいて欲しいなんて言ってくれるのです。
スザクは膝の上のルルーシュを撫でてこう云いました。
「ありがとう…ルルーシュ…」

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