Hanarete Itemo


 『ゼロレクイエム』の後…ルルーシュが父であるシャルル=ジ=ブリタニアから継承した『コード』によって、永遠の命と云う『業』を背負わされる事になった。
しかし、スザクはどんな形であれ、彼が命をつないでこの世にいる…この事実が、スザクに対してだけでなく、世界にとっても必要な事だと…今は思っている。
人ならざる力を持つ者…本当ならあってはならない存在…。
その事を認めた上で、スザクはルルーシュがこの世に存在する事を受け入れている。
これまで、人が成して来た事では、この世界から、『戦争』と言う悲劇はなくせなかった。
しかし、人の力でどうにもならないのであれば、人ならざる力が入れば…何かが変わるかもしれない…。
『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』も『ルルーシュ=ランペルージ』もこの世を去っている。
そして、『枢木スザク』も…。
今、あるのは、『ゼロ』としての二人の存在…。
名前すらない存在…。
『ゼロ』は記号の英雄…。
ルルーシュは『ルルーシュ』と云うこの世の存在の喪失と自分がそれまでになされてきた悪行の全てを背負う代わりに、この世界に『ゼロ』と言う、英雄を残した。
彼のした事は…ほんの一部の人間を除いては、真相を知らない。
否、本当の意味で全てを知っているのは、今、『ゼロ』の姿をしているスザクと『ルルーシュ』の契約者であるC.C.だけだ。
時折、『コード』を継承し、『人』ではなくなったルルーシュと話して、その話題が出てくると、
『それは…平和になったという証拠だ…。俺のやった事の真相をえぐりだされるような世の中になったら、その時は、再びこの世界が混とんへと進んでいく時だ…』
と笑って見せる。
その時のルルーシュの顔は…『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』の時にも『ルルーシュ=ランペルージ』の時にも見た事がない程、慈愛に満ちた、美しい笑顔を見せる。
スザクはそんなルルーシュに神々しさを感じる事がある。
そう云う時、スザクはいつもこう云ってしまう。
『ルルーシュが皇帝のままでいたらよかったのに…』
と…。
そんなスザクの言葉にルルーシュはいつも同じ答えを返す。
『お前は…平和が嫌いなのか?』
と…。
別に、あの時のルルーシュは、好きであんな悪逆皇帝を演じていた訳ではなかった。
否、彼が『ゼロ』の仮面をかぶり、『黒の騎士団』を作り上げたのだって…ただ、妹のナナリーと一緒に静かに暮らせる世界が欲しかった…たったそれだけだった。

 スザクは今も続く世界の混乱の中に身を置いている。
それが、『ゼロ』の仮面を継承した彼の役目であるのだから…。
スザクも別に戦いたい訳じゃない。
しかし…世界は…人は…こんなにも、愚かで、思い通りにならず、無知である。
結局、一人の強大な力を持った権力者が消えると、世の中は再び混沌へと誘われていく。
ルルーシュはあの時、スザクに云った。
『人並みの幸せも全て世界の為に捧げて貰う…永遠に…』
多分、あの時のルルーシュの言葉はこの事も含まれていたのだろうと思う。
ルルーシュが皇帝に即位した時、世界は、ルルーシュの行為を支持していた。
それでも、たった数ヶ月で、世界に『悪逆皇帝』の名前を広めた。
それだけの政治力、カリスマ性を持っていれば…他の事を全て取り払って、皇帝となっていれば…今のこんな混乱はなかったかもしれないとさえ思う。
力と言うのも使い方次第で、あの時のルルーシュのように『悪』を演じれば、『悪の力』として人は受け取る。
逆であれば、その逆になる。
ルルーシュは、たった一人の…スザクの気持ちを慮って、わざわざ混乱の世にしてしまったようにさえ思える。
『ユーフェミア』の『虐殺皇女』の名前をこの世から払拭させるために…。
それでも、あの時のルルーシュは既に『コード』を継承していた。
故に、普通の『人』として、皇帝の座に就く訳にはいかなかった。
だから、ルルーシュはあれでよかったのだとスザクに笑う。
正直、政治等の頭を使う事に関しては、スザクにとっては苦手な分野だ。
しかし、そんなスザクでも解る。
あの時のルルーシュが皇帝になって、世界の為に動いていたら…
恐らく、シャルルにもシュナイゼルにも出来ない事が、ルルーシュには出来た。
彼は…知っていたから…。
血を流す痛みも、血を流される痛みも…。
そして、人々の望む、小さな、ささやかな望みも…。
それを知っているルルーシュが、その気になって、人々の為に皇帝として存在していたら…きっと、今頃…
でも、結局、天はそれを許さなかった。
恐らく、人類のそんな甘えを許さなかったのだろう…。
ルルーシュを『悪逆皇帝』として、良き統治者としての存在を許さなかった。
『コード』を継承させて、『人』として存在できないようにしてしまった。
やっと治まった戦いの後を見ながら、スザクは思う。
―――人は…どうして、こんなにも欲が深く、抗う事ばかりをするのだろう…
と…。

 しかし、それはスザクもルルーシュも同じだった。
何かを欲して、その欲するものの為に抗っていた。
ルルーシュはその中から『ゼロレクイエム』を見出した。
『コード』を継承した事により、スザクはずっと望んでいた『ユーフェミアの仇である『ゼロ』は自分が殺す』と言う、願いも諦めざるを得なかった。
しかし、それで良かったのかも知れないと思った。
衝動だけで…過去に縛られたまま誰かを恨み続けたって、何も生み出す事はない。
今の混乱状態がそれを教えてくれた。
今、騒動を起こしている連中は『過去』に捕らわれたまま戦っている。
ルルーシュが望んだのは…『明日』なのに…。
そう云う状態を見ていると…スザクは思ってしまう。
―――ルルーシュに会いたい…
と…。
ルルーシュは本当に心が強かったと思う。
小さい頃から…ずっと…スザクよりも心が強かった。
守りたい者の為に…不可能を可能にしていた。
それは、7年後に再会してからも同じだった。
ルルーシュは今、ジェレミアの領地で世界情勢を見ながら、外で動き回っている『ゼロ』つまり、スザクにやるべき事の指示を出している。
結局、ルルーシュが生きていても、会える事はあまりない…。
この、今の状況がどうにかならない事には好きな時にルルーシュに会える事はない。
スザクは、『ゼロレクイエム』のクライマックスの前夜、C.C.と契約した。
肉体が滅んで、スザクはこの世での『業』を終わらせる事を…スザクは嫌だと思ったから…。
ルルーシュが罪人であると云うのなら、多分、それはスザクも同じで…。
自分だけが逃げるのが嫌だった。
『ゼロレクイエム』を実行した者の一人として…。
勿論、そんな事、ルルーシュが知ったら絶対にやめさせようとするに違いなかったし、『ゼロレクイエム』そのものがとん挫してしまう可能性すらある。
『ゼロレクイエム』の為に、二人は多くの人間の血を流しているのだ。
今更、やめる訳にはいかなかった。
だから…『ゼロレクイエム』の前夜、C.C.と契約した。
時が来たら…『コード』を渡して貰う…。
C.C.はもとより、この世から消える事を望んでいた。
その事を知っていたルルーシュはC.C.の『コード』さえ、自分が継承しようとした。
スザクから見れば、どこまでルルーシュを愛する人間を悲しませれば気が済むのだろうか…と、怒りさえ覚える行為だった。
だから…スザクはルルーシュに内緒で、C.C.と契約した…。

 スザクが戦場の後を歩いていた。
『ゼロ』の存在によって、争い続けていた双方は戦いをやめた。
ルルーシュの残した『ゼロの伝説』は偉大なものである。
確かに、あんな、『エリア11』だった『日本』という、小さな島国からあの、大帝国を相手に世界を震撼させた人物なのだ。
そして、『ゼロ』立会いの下、双方はまず、停戦を締結する。
その後は、被害が多く出ているところから順に戦後処理が施される。
ルルーシュがこの世から名前を消してから『黒の騎士団』は解散していた。
と言うのも、『超合衆国』も混乱状態で、無国籍の武装集団を手中に収めておけるような状況ではなくなったのだ。
確かに、あの戦いで、『超合衆国』と『黒の騎士団』の上層部への責任問題が浮上するのは当たり前で…。
つまり、今、特に何も持たずに『ゼロ』のカリスマ性とルルーシュの政治力で今は、戦闘状態にある世界の混沌を潰して行っている。
「では…これより、戦後処理をお願いします。まず、けが人の把握と救助…。非武装の市民を最優先で…。それから、親を亡くした子供等の救出と保護を…」
ルルーシュが作り上げたいくつものパターンのシナリオからその状況に応じてスザクが演じ分けている。
こうして、ルルーシュの影の努力によって、少しずつではあるが、『ルルーシュ皇帝』の死後の世界が纏まりつつあるのだ。
これは、結局、万民の目に曝した『ゼロレクイエム』は終わりではなく…始まりであったと云う事を意味している。
ルルーシュとスザクが背負う『業』の…。
停戦条約が結ばれて、双方の代表者が握手しているのを見届けて、『ゼロ』はその場から立ち去る。
それは、どこの紛争の時でも同じであった。
いくら、仮面をつけているとは言え、長い間、人の中にいる事は好ましくはない。
ルルーシュの『ゼロレクイエム』の舞台が終わった後、暫くの間、ブリタニアと『シュナイゼル軍と黒の騎士団の連合軍』との終戦条約の締結が終了するまで、『ゼロ』であるスザクはナナリーの傍らに立っていたが、その条約が締結されると、すぐにそこから姿を消した。
そして、あの頃の『黒の騎士団』と同じように、世界のどこかで紛争が起きた時に突然姿を現して、いつも停戦条約を締結させてその場を去る。
そんな事が続いているのだが、結局、その後の紛争が細分化されて、すぐにルルーシュから次の紛争地域に飛べとの連絡が来る。

 結局、スザクはあれから、何度ルルーシュに会えたのだろうか…。
お互い力を合わせて『ゼロ』を演じているが、距離を感じる。
「ルルーシュ…」
人気のない道を歩きながらその名前を呟いた。
スザクにとって、今、ルルーシュは唯一無二の存在である。
自分たちが選んだ、自分たちの罪を償う為の『罰』であるとは言え…。
確かに、楽しく出来る事では『罰』になる事はない…。
それでも、解ってはいても…自分の中に辛さが募る。
―――PiPiPiPi
携帯電話のメールの着信音…
「また…次の地域の指定かな…」
そう云いながら、携帯電話のメーラーを開く。
ルルーシュからだ。
『次の地域は××地区だ。そこでは、代表同士が虐殺命令に近いものを出している……』
中には次の地域の内情が詳しく書かれていた。
そして…最後に…
『通り道だから…寄って行け…。どうせ、大した物を食べていないのだろう?ちゃんとお前の好物をそろえて待っていてやる…。2日後、必ず、寄って行け…。離れていても…俺達は同じ思いを持っている限り、絆は断ち切られない…』
まるで、今のスザクの心情を読んだかのような最後の言葉…。
思わず泣きそうになった。
孤独な戦いをしている。
お互いに…。
そう思っていたけれど…
でも、ルルーシュはいつもスザクを一人にはしていない。
お互いに辛い戦いを続けている。
空を見上げる。
ルルーシュの笑顔が見える気がした。
ルルーシュのやさしい一言が胸に染みるようだった。
ここまで世界中で争いが繰り広げられる事になるとは…もしかしたら、ルルーシュ自身、思ってもいなかったのかも知れない。
しかし、世界とは…個人の思惑とは別の動き方をしていく。
軍の訓練を受けている時に聞かされた。
『戦争は生き物だ。時間と共にその姿は刻々と変えていく…。故に、先読みなど意味をなさない…』
と…。
それでもルルーシュは様々な事態を想定していた。
もしかしたら、スザクの『ユーフェミアの仇を討つ』と言う、その願いの為に、ルルーシュは自分の計算を捻じ曲げたのか?
そんな風に考えてしまう。
「ルルーシュ…僕なんかの為に…ルルーシュの十字架を増やす事なんてないじゃないか…。僕は…僕の望みを叶えて貰っているけれど…それでも…」
スザクは現状を考えて、そんな風に考えてしまう。
でも、実際に時計の針は逆回りする事はない。
ならば、今のこの状況を受け入れて、ルルーシュとスザクが望んだ世界の為に動いていくしかない…。
―――離れていても…必ず守るよ…君の願いを…

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