今から数百年も昔…彼は、様々な呼び名で揶揄されていた。
いつの頃からか…この記憶が自分の中に入り込んでいて…その記憶を覚えている事が今では自然な事になっている。
彼の名前は枢木スザク…。
今、彼の記憶にある前世の記憶でも、彼は、『枢木スザク』と云う名前であった。
そして、自分が誰よりも愛し、憎んだ男がいた…。
ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア…。
スザクが生きているこの時代には、既にブリタニアと云う国は滅んでいた。
今から200年ほど前にその大帝国は、分裂、崩壊していった。
その国のあった場所には、今は無数の小さな国がある。
それは…スザクが探している、『ルルーシュ=ヴィ=ブリタニア』が死んでから、50年も経っていなかった。
結局、あの後世界は、彼の妹である『ナナリー=ヴィ=ブリタニア』の手に託されたのだが…世の中、記号である仮面の英雄と作り上げられた悲劇の皇女様が頑張ってみたところで、丸く収まる訳でもなかった。
当時、『黒の騎士団』と云う、大きな武装組織があった。
彼らは、スザクの暮らしている日本が、ブリタニアに占領していた頃、日本を解放すると言う名目でスザクの探している『ルルーシュ』が作り上げた、武装組織…。
『ルルーシュ』は仮面をかぶり、『ゼロ』と名乗って、当時、世界最大の帝国であったブリタニアを慌てさせるほどの抵抗運動をしていた。
その時のスザクにとって、『ルルーシュ』は幼馴染で、唯一の友達で、親友で、スザクの主を殺した憎むべき仇…。
最期には、『ルルーシュ』は全てを背負って、誰よりも『明日』を望んだ彼は、自ら進んで『悪』を演じ、『世界』に『断罪』され、その短い生涯を閉じた。
そして、その『ルルーシュ』の命を消したのは…スザク本人だった…。
『ルルーシュ』が最期にスザクに残した言葉…
『スザク…俺達はもう一度生まれ変わって、必ず出会う…。その時には…きっと…』
そう云って、『ルルーシュ』はパレードカーから『ナナリー』の繋がれていたところへと滑り落ちて行った。
街を歩いていても、ついつい、周囲を見渡す癖がついてしまっていた。
「ルルーシュ…」
スザクが小さく、口の中でその名前を呟いた。
スザクがこの事を意識したのは、まだ、小さかった頃だ。
最初は、夢の中に今のスザクが見た事もない風景と、知らない人物たちが出てきていた。
それが、いつの間にか、前世の記憶である事を知った。
何故、そう思ったかは解らない。
しかし、スザクが自分は、歴史に出てくる、『神聖ブリタニア帝国』の皇女の騎士を叙任し、戦いのさなか、その皇女が唯一の友達である『ルルーシュ』に殺され、スザクは、『ルルーシュ』を売って、当時の皇帝の騎士となった。
紆余曲折を経ていたが…最後は『ルルーシュ』と同じものを目指していた。
しかし、あの混沌とした世界情勢の中…彼らがどれだけ叫んでも、嘆いても、世の中が変わる要素もなかった。
故に、『ルルーシュ』は自らを『魔女』として、自ら作り上げた『魔女裁判』で断罪され、命を落とした。
その後、スザクも『枢木スザク』としての存在はこの世から消えていた為に、『ルルーシュ』から継承した、『ゼロ』の仮面をかぶり、世界の為に生きた。
死ぬまで…その素顔を人に見せる事なく…。
『ルルーシュ』がかけた『生きろ』と言うギアスのお陰で、天寿を全うするしかなかった。
多分、あれから、300年ちょっとが経っている。
『ゼロ』の没後、世界は支柱を失ったとでも云いたいかのように、乱れたらしい。
『ルルーシュ』が命を賭して作り上げた平和も…結局、人の意識が変わらなければ何も残る事はないと証明されたのだ。
そして、それは今もなお続いている。
あの時の様な世界を巻き込むような戦争ではないが、世界のどこかで、銃声が鳴り響いている。
あの頃はナイトメアなどと云う人型戦闘兵器を使っての戦いではあったが、今でも人型の戦闘兵器で戦っているらしい。
あの頃、スザクが駆っていた『ランスロット』並みのナイトメアが量産型になっている。
ナイトメア自体があの頃みたいに乗る人間を選ぶ…と言う事がなくなっていたのだ。
それ故に、ナイトメア戦になれば…甚大な被害が出る。
こんな世界の為に『ルルーシュ』は命をかけた訳じゃなかったのに…。
そう思うと…スザクは悔しさで拳を強く握る。
もし、『ルルーシュ』がスザクと同じように前世の記憶を持っていたなら…きっと…スザクの事が解る筈だ…。
そして、今のこの世界を…嘆いているに違いない。
町の人ごみの中…黄緑色の長い髪を見た…。
スザクはその髪の持主の後を追った。
まだ…この世界で生きていたらしい…
そして、少し、町から外れたところでその少女は振り返った。
「やはり…お前か…」
「気がついていたの?」
その少女はスザクを見て久しぶりのその顔を特に懐かしむ訳でも、自分の契約者を殺した張本人として責める訳でもなかった。
「久しぶりだな…もう、300年以上が経っているな…お前と最後に会ってから…」
何も知らない人間が聞いたら、頭がおかしいと思われそうな言葉だ。
しかし、スザクは彼女の言葉を静かに聞いており、特に驚いた様子もない。
「そうだね…。僕とはルルーシュが死んで以来だから…350年近いよね…。久しぶり…C.C.…」
スザクもその少女に対して、懐かしむ訳でもなく、また、『ルルーシュ』の運命を変えたこの張本人に特に恨み言を言うでもなく…。
「あいつが…」
その、C.C.と呼ばれた少女が突然話を切り出した。
「あいつが、死ぬ前の晩…私のところへ来て云ったんだ…。『俺とスザクは必ず生まれ変わって、出会う…だから、お前は…その時に俺達を見つけて、仲介して欲しい…』と私に云ってな…。で、私はずっと待っていたんだ…」
C.C.のその言葉に、スザクが首をかしげて、その直後に、嫌な想像をしてしまう…。
「まさか…また、ルルーシュにギアスを?」
スザクは血相を変えて、C.C.に掴みかからんばかりである。
「人の話は最後まで聞け!」
C.C.がスザクの手を避けて、話し続ける。
「私はあれ以来、もう、誰にもギアスを与えてはいない…。確かに、私以外の『コード』の保持者がいるから…そいつらがどうしているかは解らない…。しかし、『ギアス』は受け取る者を選ぶ…。だから…お前たちに忠告しに来ているんだよ…」
C.C.の言葉にスザクはびくっと身体を震わせた。
今のスザクは今世に生まれてきて、17年が経っている。
つまり、年齢でいえば17歳である。
ルルーシュがもし、スザクと同じ年で生まれてきていたとしたら…。
「お前達の前世でルルーシュが私から『ギアス』を受け取ったのが確か、あいつが17歳になった年だ。だから…恐らく…今年、ちょっと危ないかもしれないな…」
こうして、この時にスザクがC.C.と再会したのは何かの導きのようにさえ思えてきた。
「,あいつは…今世では…一人だ…。お前と同じ年に今世に生まれてきている事は確かだ…」
「じゃあ…僕と同じ年?」
「そうらしいな…。お前、今回の誕生日はいつだ?」
C.C.が尋ねると、スザクは一体何を聞かれているか解らないという表情で答えた。
「前世と一緒だよ…7月10日…」
「だとすると…日にちとしては残り少ないな…。さっさとあいつの前世の記憶を取り戻さないとな…」
C.C.の言葉にスザクが再びC.C.に突っかかってきた。
「ルルーシュがどこにいるのか…知っているの?」
「云っただろ?お前たちを仲介するのが私の役目だ…。それに、ルルーシュに二度と『ギアス』を持たせない為にも…さっさと記憶を取り戻してやって、私たちと共にいてくれないとまずい…」
彼女らしくもなく、やや慌てている様子だ。
「ねぇ…もしかして…もう、他の『コード』保持者に狙われているわけ?」
スザクの言葉にC.C.が頷いて見せる。
そして、『コード』を持つ者がC.C.を含めて26人いる事を知った。
結局、この『コード』とは、なんで生まれてきたのかさえ、よく解らないが、世界が混とんとし始めると、その『コード』保持者たちが『ギアス』能力者を生み出しているという事らしい。
「私はずっと孤高で来ていたからな…。個人的に関わっていたのはV.V.だけだ…。あいつも、本当は、正当な『コード』保持者と言うには無理があるしな…」
「能書きはいい…。知っているなら、早く、ルルーシュのところへ連れて行ってよ…。僕は…その為に…生まれ変わってきたんだから…」
C.C.の話を中途半端にしか聞かず、スザクはC.C.を急かした。
「解った…。ただし、いきなり出てくるなよ?私がルルーシュの記憶を取り戻してからだ…。あの記憶を失ったままで『ギアス』を手にしたら…恐らく…」
スザクは喋り続けるC.C.の言葉を半分くらいしか聞かずについていく。
スザクにしてみれば、C.C.の都合とか、『コード』保持者の都合とかなんてどうでもいい話だった。
あの時、『ルルーシュ』が最期にスザクに残した言葉の続きを知りたかったから…。
今度こそ、絶対に敵になったりしないように…お互いがお互いの命を狙うなんて事にならないように…。
そして、今度こそ、二人が普通の人間として、自分たちの人生を全うできるように…。
短かった『ルルーシュ』の命…。
そして、『枢木スザク』としての人生…。
それを、二人でやり直したかったから…
しばらく歩いていくと、ある、孤児院に着いた。
「ルルーシュはここにいる…。幼い頃、親に捨てられて、今は、ここの手伝いをしながら、学校に通っている…。あの頃と変わらず無駄に頭がいいらしくてな…」
そう云われて中を覗いてみると…確かに…『ルルーシュ』がいた。
「ルルーシュ…」
そして、中からこの二人の事に気がついた、院長らしき中年の女性が出てきた。
その女性にスザクが声をかけた。
「あの…彼は…ここで暮らしているんですか?」
唐突に聞かれて、その女性は驚いたが…スザクの居ても立っても居られないと言う様子ににこりと笑って答えた。
「ええ…。ルルーシュくん、本当はいろんな学校から特待生の話が来ているんだけど…『寮に入ると、ここを出なくちゃいけないから…』って、全部断って、近くの定時制の高校へ行っているの…ホント、ここの子供たちを自分の弟や妹みたいに…」
その女性の言葉を聞いて、スザクが『ルルーシュ』は変わっていない…と懐かしんでいる。
C.C.がそこに割って入ってきた。
「あの…彼と話をさせて頂きたいのですが…」
あの頃よりもちゃんとした言葉遣いになっている事にスザクが驚いている。
そして、その女性が『ルルーシュ』を連れてきた。
彼には前世の記憶がないから不思議そうに二人を見ているだけだった。
「ルルーシュ…」
スザクが『ルルーシュ』の名前を呼んだ。
突然の訪問客に『ルルーシュ』は怪訝そうな顔をして彼らを見ている。
そして、C.C.が『ルルーシュ』の手を取った。
「お前には…この世界でやらねばならない事がある…。今はまだ…それが何なのかを思い出せていないのだろう…。だから…私が思い出させてやる…本当のお前を…」
不思議な空間に立っているような感じだった。
C.C.の額から赤い光が放たれている。
「…うっ…」
『ルルーシュ』が頭を押さえて、ギュッと目を瞑っている。
「忘却の檻に閉じ込められし、本当のお前の記憶を…今こそ呼び覚ませ!」
光が一層強くなり、その光が弱くなってくると、『ルルーシュ』はゆっくりと目を開けた。
目の前にいる人物たち…
「スザク…C.C.…」
彼の口からそう言葉が紡がれた。
「ルルーシュ!」
そう言葉を口にしたルルーシュに対して、スザクが力いっぱい抱きついた。
「ス…スザク…?」
ルルーシュが不思議そうな顔をして、されるがままになっている。
「会いたかった…ずっと…。ずっと…」
スザクの目からは涙が流れていた。
ルルーシュはそっとスザクの身体を放して、その頬に触れてその涙を拭ってやる。
「スザク…」
ルルーシュの表情が綺麗な笑顔を作り上げた。
二人は再会を果たし、これから、この世界でやらねばならない事の為に…再び、様々な者たちと戦っていくことになる…。
今度は…敵としてではなく…心強い、仲間として…
copyright:2008
All rights reserved.和泉綾