―――ver.lelouch
先に裏切ったのは俺…。
拒絶されても仕方ない。
そして、あいつの性格を知りながら、あいつの一番嫌う方法で、あいつと戦い続けてきたのは俺…。
解っていた。
ずっと隠し続ける事など不可能だと…。
それでも、俺は、お前が最後の最後には俺とナナリーを選んでくれるだろうという希望に縋った。
しかし、お前が選んだのは結局、ユーフェミアだった。
結局、ささやかな俺の希望はあっさりと、異母妹であるユーフェミアに打ち砕かれた。
無邪気な善意を振りかざし、俺とナナリーを苦しめる存在…。
かつては好きだっただけに…ショックも大きく、憎悪も大きくなった。
そして、お前は俺の言葉を聞かず、ユーフェミアの言葉を信じた。
ユーフェミアよりもずっと長い時間、共に過ごした俺よりも、ユーフェミアを信じた。
日本人であるお前が、ユーフェミアの上から押し付けるブリタニアの善意を受け入れた。
お前を騎士にした事だって、日本人を懐柔するための策だとは思わなかったのか?
お前は、日本国最後の首相、枢木ゲンブの遺児だ。
エリア11内ではまだ、枢木首相を支持する者も多いし、プロパガンダにはこれほど使いやすい名誉ブリタニア人もいないだろう。
お前は解っていたのだろうか?
お前が、ブリタニアのプロパガンダとして利用されていた事を…
ユーフェミアにはその意識は確かになかったかもしれない…。
ただ、周囲に人間たちは…お前をユーフェミアの騎士として認めていたかどうかは…
あまりに純粋なお前を見ていて…俺は…
結局何もできなかった…。
お前をプロパガンダとして利用されないようにする事も、ブリタニア軍から引っ張り出す事も…
多分、俺の独りよがりな…否、俺自身の望みだった…。
お前はそんなところにいてはいけないんだ…と…。
お前の気持ちを察する事も出来ずに…結局は…お前を裏切り続ける事しか出来なかった。
俺は…人の心を持っている事が辛くなり始めた…
俺の願いは…お前にナナリーを守って欲しかった…。
否、これはただの言い訳だな…
俺が…お前に傍にいて欲しかった…
俺にとって、たった一人の友達だから…
俺が、唯一、心を開いた相手だったから…
俺が、初めて信じた『他人』だったから…
でも、それは、単に俺の一方的な願望で…
お前にとっては迷惑でしかなくて…
力ずくでも…と思って手に入れようとした報いを俺は受ける事になった。
俺はただ…お前に傍にいて欲しかっただけなのに…
俺が…皇子ではなく、ただのルルーシュだったなら…お前は俺の傍にいてくれたのだろうか?
否…多分、これは俺の立場とか身分の問題じゃないんだな…
俺には、決定的に何かが足りなかった。
だから、お前は俺の元を離れた。
そして、ユーフェミアを選んだ。
自分で、何を間違えたのかさえ分からない俺には、どうする事も出来なかった。
ただ、悔しさと、ユーフェミアへの一方的な嫉妬を抱えるしか出来なかった。
そう、ユーフェミアさえいなければ…とさえ思った。
俺とお前が一緒にいたのは、俺が日本に送られてからの1年…。
ユーフェミアとは…たった数か月…
結局人と人の関係とは、時間ではなかったんだな…。
どれだけ、その相手を必要とし、その相手に必要とされているか…だった…。
俺にはお前が必要だった。
でも、お前にとって、俺は…
このとき、俺は自分に人の心がある事が邪魔に思えてきていた…
俺は、もう、誰もいらない…
ナナリーさえ、守れればそれでいい…。
ナナリーさえ、取り戻せればそれでいい…
人の心なんて邪魔なだけだ…
桐原公に会った時に既に決めていた筈だった…
修羅の道を進むと…
もう、俺にとっての人間はナナリーしかいない。
後は、ナナリーを守り、取り戻す為のコマ…
無能なやつはいらない…
不要なやつはいらない…
今度こそ、俺は、修羅になる…
俺の中の人の心も邪魔なだけだ…
捨て去ってしまえ…
結局、心があるから、人は人を裏切り、人は人をだます。
何があっても信じられるなんて…ただの幻想だ。
幻想に縋ったところで何も得られはしない…
だから…俺は…
お前だって、10歳の時に俺が言った言葉を…忘れてしまったのだろうな…
『君は言ったな。自分は二度と自分のために自分の力を使わないって』
『それはひどく危険なことだ―――と僕は思う』
『というか、大バカだ。そんなやつが、生きのびられるはずもない。僕の理屈はそうだ。でも……』
『そんな理屈のない君が、僕はわりと好きだ』
『だから、僕からも言っておく』
『君が自分のために自分の力を使わない。そう言うのなら、僕が―――いや』
『俺が―――君のために力を使う』
『ギブアンドテイク、相互扶助。どうかな?これが君の理由ってのじゃ、だめか?』
俺は…今度こそ、修羅になる…
人の心などいらない…
俺が欲しいものは…たった一つに絞られた…
―――ver.suzaku
裏切られた…
最初に君に対して思ったのはそれだった…。
しかし、考えてみれば、君の立場は、隠されているとはいえ、死んだはずのブリタニアの皇子…。
初めて会った時も、鋭い眼光で、周囲を睨みつけて、ただ一人、君に残されたたった一人の家族を守る為だけに、君は強くあり続けようとした。
正直、僕は、君がどうしてそこまで強くあろうとするのか…初めは解らなかった。
僕と同じ年の子供だというのに、やたらと背伸びをしていた。
本当に肩がこりそうなほど…
見ているこっちがイライラしていた。
にこりともせず…いつも妹の前に立ちはだかり、見えない重そうな兜をまとっていた気がする。
そして、あの当時、近所の子供、誰も僕に抵抗する奴はいなかった。
でも、君は…弱いくせに、君の理念を捻じ曲げようとする僕に対して、食いついてきた。
どれだけ殴られても、決してそのアメジストの瞳を濁す事なく…。
強い光をたたえて僕を見据え、僕に対して意見してきた。
腹が立ったと同時に、新鮮な感覚だった。
あの時の気持ちは…たぶん…
―――嬉しい…楽しい…
あの頃、僕をあんな目で見る子供はいなかった。
僕が枢木ゲンブの子供であるという事と同時に、僕自身、かなりの暴れ者で、刃向おうという奴がいなかった。
なのに、あんな白くて細い君は僕に鋭い眼光を突き刺してきた。
今でも思い出す。
あの頃の君は、気高くて、誇り高くて、弱いのに強くあろうとした。
皇子様と云うのは、こういうものなのか…と思った。
僕にはとてもまねできないと思った。
確かに腕力は僕にはかなわなかったけれど、妹のナナリーを守ろうとするその心は誰よりも強いものに見えた。
そして、その心は本当に強かった。
ナナリーがいるだけで、君が強くなれるのかと…そう思うくらいに…
そして、そんな心を映し出す君の、紫の瞳が…好きだった…
結局、戦争が僕たちを引き裂いた。
戦争を止めようとして、僕は間違った方法を取った。
子供であったとは言え、それは許されない事…
周囲の大人たちは、僕のやった事を隠そうとウソをついた…
そんな大人たちを見て、僕は…自分のやった事が間違いであった事に気づく。
そして、僕は…
君がきっと、望んではいない方向へと進んだ。
でも、あの時の僕にはどうする事も出来なかった。
イレヴンとして生きていても、何も変わらない。
何か行動を起こさなくてはならない…。
そして、僕の罪と罰を…
そう思って、ブリタニア軍に志願した。
日本国最後の首相枢木ゲンブの遺児である僕が…敵軍であったはずのブリタニア軍に…
あの時は、この選択が正しいと思った。
内側から変えていくという信念と、僕に誰かが『死』と云う罰を与えてくれる場所があると…そう信じて…。
しかし…僕は死を望みながらも…『生』への希望を見つけてしまった。
ユフィ…
本来なら、僕の手の届く女性じゃなかった。
そんな事を言えば、君もそうだけど…。
彼女は…僕に理想の夢をくれた。
もしかしたら…また、君たちと一緒に…と…そんな希望を持った。
でも、君はその話を聞いても、顔色が優れず、僕に『特区日本には参加するな!』と言い切った。
確かに君から見れば…理想的な絵を描いているだけなのかもしれない。
それに、本国で死んだ事になっている皇子と皇女…いきなりユフィに教えたところで彼女だって困るだろう…
それでも、彼女の優しさに触れているうちに僕は、その優しさを信じようと思った。
君は、最後まで頑なに…信じようとはしなかったけれど…
でも、ユフィなら…この夢のような理想を現実にしてくれる…そんな風に思えた。
実際に君たちが生きている事を知っても、彼女は何も変わらず、否、君たちの事も含めて考えてくれた。
僕は…そんなユフィを愛した…。
僕を認めてくれた。
僕の願いをかなえようとしてくれた…。
ユフィの中では僕の事よりも君たちの事の方が重要だったのかもしれない。
でも、僕はそんな彼女の気持ちに惹かれた…。
また、あの頃のように君たちと一緒にいられる…そんな事を夢見ていた…
でも…僕は…君のその瞳が濁り始めている事に気づき始めた…
ユフィは僕の目の前で死んだ。
君が、僕の目の前でユフィを撃った。
僕はその時、頭が真っ白になって…ただ…君を殺すことだけを考えていた。
僕の愛したユフィを僕の目の前で撃った君を…
君は…一切言い訳も、事の経緯も話してはくれなかった。
何故だ?
僕の事が…信じられなかった?
僕が、ユフィの騎士だから?
僕が、ブリタニア軍人だから?
僕は、ユフィの騎士である前に、ブリタニア軍人である前に、君の友人でいたかった。
でも、それは…僕が軍人である限り、許されなかった。
軍人になった事は…僕の意思…。
ブリタニアの中から、日本を変えたかったから…。
そして、中から変えていけば…人が死ぬ事なく、変わっていける…そんな風に思っていた。
でも…現実はそう甘くはなかった。
日本は、かなりの余力を残して降伏した。
故に、反ブリタニア組織の活動が活発だった。
僕は…名誉ブリタニア人として、ブリタニア軍人として…同じ日本人を殺すことを余儀なくされた。
別に殺したかったわけじゃない。
でも…ルールだから…そう云い聞かせて…言い訳して…僕は、日本人を殺した。
そして、君が作った黒の騎士団が台頭してきた。
リーダーのゼロ…
何度も僕を助け、僕に仲間になれ…そう云ってきた。
そう云われているうちに、ゼロが君ではないかと疑い始めた。
多分、神根島で君の仮面を壊す時には、9割方、確信に変わっていた。
残りの1割は…ただ…君だと思いたくなかった…。
ただ…それだけだった。
『信じたくは…なかったよ…』
その仮面の下にあったのは…もはや、僕が好きだった君の瞳ではなかった…
ギアスという力に汚された、赤い左目を見た時…僕は…たまらなく悲しかった…
僕の絞り出した言葉に、君は表情も変えなかった。
どうして…僕を頼ってくれなかった?
どうして…一言も相談してくれなかった?
僕は…君となら…何でもできると思っていたのに…。
昔、二人でそう話していた…。
君は、僕を巻き込みたくなかったのかもしれない。
でも、そんな事をしていても、僕はとっくに巻き込まれていた。
君はゼロ、僕はランスロットのパイロット…その事実が成り立った時点で、お互いが、望むと望むまいと、時代の渦に巻き込まれていた。
あの頃の君の笑顔が…ちらついてきた。
君の輝いて、澄んだ紫の瞳が僕の脳裏を行ったり来たりしていた。
本当は…泣きそうだった…
あの頃を思い出して…
楽しかった…。
嬉しかった…。
あの夏の日に戻りたかった。
もう一度、君たちと笑い合いたかった…
でも、もう…
だから…せめて…君は…僕の手で…
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