シャルルとマリアンヌが消えたその場所でルルーシュ、スザク、C.C.が立ちつくしていた。
『ルルーシュは、ユフィの仇だ!』
そう言って、スザクは持っていた剣を構えた。
『だから?』
ルルーシュはスザクの方を向いて、答える。
そして…暫くの沈黙が…流れて行った。
最初に動いたのはスザクだった。
スザクが持っていた剣を地面に捨て、ルルーシュの…本当に目の前まで歩いて行った。
「ルルーシュ…」
先ほどから変わらないスザクの鋭い目に、ルルーシュも、両目に発動したギアスの赤い瞳をスザクに向けた。
そして、ルルーシュは何も言わなかった。
まるで、スザクに殺される事を待っているかのように…。
ルルーシュ自身、最も知りたかった事実を知り、最も憎んだ男を倒した。
そして、この世には守るべき最愛の妹…ナナリーもいない。
自分が犯してきた罪の大きさは解っていた。
きっと、自分の命一つで償えるほど軽くはないと思う。
しかし…ルルーシュにとって、もはやこの世に未練はない。
守るべきものを失い、知りたかった事実を知り、そして、誰よりも憎んだ…そして、倒したかった男もCの世界に閉じ込め、封印した。
想像だにしなかった事実にショックを受け、自分自身が、世界のノイズである事も否応なく自覚させられていた。
だから…スザクの手にかかって死ぬのであれば…これ以上ないくらい自分にとっては幸せなのかも知れない。
そう思える。
そして、スザクも…ユフィの仇であるゼロを殺す為にナイトオブラウンズになったのだ。
ルルーシュを皇帝に売り払ってまで…。
「さぁ…殺せ…。スザクの好きなだけ、俺を甚振って殺せばいい…」
自然と出てきた言葉に、特に心臓がドキドキする訳でもなく、普通の会話をしている時のようだった。
ルルーシュ自身、それが、スザクに対するせめてもの償いであると…そう思っていた。
パン!
左頬に突然熱が走った。
スザクがルルーシュの頬を力いっぱい平手で打ったのだった。
口の中には血の味がする。
始まる…そして…終わる…ルルーシュがそう思った時、スザクがルルーシュの胸倉を掴んだ。
「甘えるな!」
スザクが一層鋭い眼差しで、そして、怒りと悲しみを湛えた目でルルーシュの顔を睨みつけている。
「スザク?」
「俺は…お前を…殺したいほど憎いよ!でも…ナナリーはそんな事は望まない!ユフィだって…」
スザクの目からは止め処なく涙が流れていた。
ルルーシュの胸倉をつかんでいる手の力が…一層強くなる。
「ルルーシュ!おまえは、生きて…生きて…そして罪を償うんだ!死ぬ事は…俺が許さない!」
「償う…?」
ルルーシュがスザクのその態度に驚いた様子でスザクの顔を凝視する。
枢木神社でも、スザクはルルーシュに罪を償わせようとしていた。
ルルーシュを殺すのではなく、罪を償わせようとしていた。
「そうだ!おまえは、これまで殺めてきた命全てに対して償わなければならない!そうでなければ…ユフィの命も、ナナリーの命も…みんな…無駄になる…」
「しかし…俺には…」
「逃げるな!俺に『生きろ』と言うギアスをかけておいて、自分は逃げるのか!?そんな事…俺は絶対に許さない!」
スザクはそう言って、ルルーシュを突き飛ばすように解放する。
ルルーシュは強か身体を打ちつけて、上半身だけ起こした。
「シャーリーが僕に言っていた…。『許せない事なんてない!許さないだけ…』と…。ルルーシュがさっき、皇帝陛下に言っていた言葉で…やっと、シャーリーの言っていた意味が…解りかけてきた気がするよ…」
「シャーリーが…お前に?」
ルルーシュはあの時、シャーリーとスザクが一緒にいたところを目撃している。
シャーリーのギアスは、ジェレミアのギアスキャンセラーによって、解かれていた。
よって、ルルーシュがゼロである事も、そのゼロがシャーリーの父親を殺した事も知っていた。
「シャーリーは…君のした事を…許していた。僕には…そんな事…出来ないと思っていたよ…。でも、ルルーシュ…君が言っていたナナリーの望んだ『優しい世界』を皇帝とマリアンヌ様に語った時、解りかけた気がした。」
スザクはルルーシュの前に膝をついて、ルルーシュに目線を合わせた。
「ルルーシュ…君だって、本当は、僕が許せないんだろう?フレイヤで、ナナリーを巻き込んだ事…」
「……」
ルルーシュはスザクから視線を逸らした。
そう、ギアスの影響があるとは云え、あのフレイヤを撃ったのはスザクだ。
「だから…全てを話したい…。そして、全てを知りたい…」
スザクはルルーシュに手を差し伸べた。
枢木神社で解り合えたと思った時と同じように…。
今度こそ、邪魔は入らない。
ここは、現世の空間とは違うのだから…何かを画策出来る筈もなく…。
大体、こんな形で事実を知る事になるとは思わなかった…。
「元の世界へ戻るか?ここだと私は邪魔だろう?」
そう言って、その場を静観していたC.C.が口を開いた。
「そうか…そうだな…」
そう言って、二人が立ち上がり、C.C.に連れられて下の世界に戻った。
遺跡の入り口にいた筈のアーニャはいなくなっていた。
「とりあえず、今はここで話し合え…。結論が出たら、この島のどこかにいるから探せ…」
そう言って、C.C.はその場を離れていった。
C.C.の後ろ姿を見送ると、再び二人は向き合う形になった。
何をどうすればいいのか…解らない状態である。
ただ…今の二人は、完全に自由になっている。
ルルーシュは黒の騎士団を追われ、スザクもシュナイゼルの信用を得ているとは言えない状態だ。
「ルルーシュ…君はこれからどうする?皇帝陛下の世界を否定し、少なくとも、今のままでは争いは続く…。変化がある世界であれば、いい方にも、悪い方にも動くと云う事だ…」
「そして、俺がいいと思っている事でも、他の人間にとっていい事だとは限らない…。だから、妥協し合えない部分で争いが起きる…」
遠くで、まだ、戦闘が続いているようだ。
ルルーシュのギアスにかかった、反乱軍と位置付けられたナイトメアや戦艦たちとギアスにかかっていない皇帝直属軍とシュナイゼル軍、そして黒の騎士団が制圧に尽力している。
間もなく、ルルーシュのギアスにかかった反乱軍は鎮圧されるだろう。
そして、そこにルルーシュがいないとなれば、この島に捜索の手が伸びるだろう。
「ここも…あまりゆっくりしていられる時間はなさそうだ。俺のギアスにかかったナイトメア達は、間もなく全滅する…」
「戦況の把握はしっかりできているみたいだな…」
スザクの言葉にルルーシュが苦笑した。
好きでこんな風になった訳ではない。
元々、欲しかったのは…ナナリーが幸せに暮らせる世界…ただそれだけだった…。
自分の存在が、自分の両親の独りよがりな善意が、ここまでの混乱を招いた。
「とりあえず…ゆっくり話せるところへ移動はしたいと思うけど…」
「同感…」
「僕の乗ってきたランスロットで、ここを脱出しよう…。まずは…」
「なら、C.C.を…」
そう言ってルルーシュが辺りを見回すと、そばで見守り続けていたC.C.がすぐ傍にいた。
「じゃあ、行こうか…」
そう言って、スザクはコックピットにC.C.を乗せ、ルルーシュをランスロットの手のひらで守る様にして神根島を後にした。
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