男女逆転祭りの準備…


「ルルーシュ…これは決定事項ですからね!」
 生徒会長、ミレイ=アッシュフォードの鶴の一声…。
ルルーシュの反対を押し切って、決められてしまった。
とはいっても、生徒会メンバーでこのイベントの案を反対していたのは、ルルーシュ一人で…ナナリーまでも、嬉しそうに賛成派に回ってしまった。
「で、衣装はどうします?会長…」
リヴァルがどんどん話を進めていく。
もはや、賛成派の眼中には、たった一人反対しているルルーシュの事などはないらしい…。
「そうねぇ…。私たちはいいけれど…ルルーシュだけは、きちんと衣装を選びたいわよね…」
「あ…あの…」
どんどん進んでいく話の中、何とか話に割り込もうとする。
しかし、他のメンバーはのりのりで話を進めていく。
「じゃあ、また演劇部に借りてきますか?」
スザクはこう云う企画はいつも乗り気だ。
アーサーの歓迎会の時にも率先して、猫のぬいぐるみを着ていた。
で、嬉しそうに、ルルーシュをいすに縛り付けていた。
そして、その縛り付けたルルーシュにシャーリーは楽しそうにメイクして、リヴァルが猫耳のカチューシャを付け、ミレイとニーナは楽しそうに眺めていた。
そこにカレンが入ってきて絶句をしていた。

いつでも、ミレイ会長の突然のイベント企画には生徒会は振り回されている。
そして、そこにうまく順応できると、一緒に楽しめるらしいが、ルルーシュは元々のプライドの高さと、シャイな性格のおかげで、すべてのイベントに対して楽しめているとは言えない。
ただ、ナナリーが楽しそうにしていると、最終的にはルルーシュが折れて、参加していると云った状態だ。
しかし、そんなルルーシュでも全力で回避したかったのが、男女逆転祭り…。
ナナリーの楽しそうな表情は、脳裏に焼き付いているが、ルルーシュには、女装するような趣味がないのに、女装をすると、異様な視線にさらされる。
それも、男女問わずに…。
あの視線は…悪寒とともに、身の危険さえ感じた。
なんでかは分からないが、この格好はしてはいけないと云う…警告を本能がしているようだった。
「ルルーシュ、もう諦めなよ…。会長さんがやるって言っているんだし…」
あっけらかんと、監視役のスザクがルルーシュに云う。
ルルーシュが逃げないように、ミレイがスザクを監視役につけた。
スザクを監視役にしておけば、ルルーシュは絶対に逃げられない事を知っている。
体力的にも、運動神経でも、ルルーシュがスザクに敵う筈がない。
頭の中で様々な事を計算するルルーシュが、無駄な努力で体力を消耗するなどと云う愚を犯す事はない。
で、念の為のとどめが、ナナリーの一言だった。
「お兄様、楽しいイベントにしましょうね…」

半ば、引きずるように、スザクはルルーシュを演劇部に連れて行く。
「こんにちはぁ…生徒会の枢木スザクと、ルルーシュ=ランペルージですがぁ…」
今ではすっかり、学園になじんだスザクが演劇部の部室の前で、元気に声をかけた。
中からは、演劇部の部長が出てきた。
しかも、とても嬉しそうに…
「ミレイさんから、連絡は貰っているわ♪ルルーシュ君、一番似合う衣装を探しましょうね…」
「……」
この間は、愁いを帯びた姫君…とタイトルを付けられていた。
今度はどんな衣装を着せられるのか、気が気ではない。
あの衣装を着た後、美術部からはモデルをやって欲しいだの、演劇部では今度の公演でヒロインをやって欲しいだの…色々言われた事を覚えている。
そして、そう言った部活動とは関係のないところから、男子生徒から声をかけられ、あの時の写真が欲しいと言われまくった。
あの時の事を思い出すと、冷や汗が出てくるほど大変な目にあった。
それでも、ナナリーにあの一言を言われてしまうと、どうしても強く『嫌だ』とも言えず…。
で、スザクに引きずられるがまま、演劇部に連れて来られた。
今度はどんな衣装を着せられるのだか…。
それよりも、一体どれだけの時間、着せ替え人形にされるんだか…
「さぁ、演劇部の衣裳係、メイク係のみなさん…ルルーシュ君を綺麗にして差し上げて!」

その一言をきっかけに、演劇部の女子がわらわら襲いかかってきた。
「ちょ…ちょっと…」
半ば逃げ腰のルルーシュに逃がすまいとする演劇部の女子部員たち…。
「ルルーシュ…頑張ってねぇ…」
離れたところで、ひらひら手を振って笑っている。
「枢木君、ルルーシュ君の衣装に合わせて、あなたも着替えてみない?もちろん、男性用の衣装だけど…」
「え?どうするんですか?」
「うん…なんか、写真部がどこからかこの話を聞きつけて、是非にって…。でも、お姫様だけじゃ、物足りないからって…」
演劇部部長がサラっと云う。
「僕は別にかまいませんけれど、時間がかかりませんか?」
「ああ、その辺はミレイ会長にお許し貰っているから…。今日から、1週間、ルルーシュ君と枢木君は演劇部の貸し切りで…」
スザクと、演劇部部長の会話に聞き耳を立てていたらしいルルーシュがもみくちゃにされながら声を絞り出した。
「お…おい!スザク!絶対、断固、全力で断れ!」
その声が届いたのか、届いていないのか…
「別にいいですよ…。会長さんからお許しが出ているなら…」
スザクの気楽な返事に、ルルーシュは失望するしかなかった。
これから、1週間、演劇部と写真部に人身御供にされると云う事である。

それから、2時間、ルルーシュは着せ替え人形にされ、スザクは花嫁のお色直しを待っている新郎の様に、衣装を着こんで、ルルーシュの着替えを待っていた。
やっと、もみくちゃから解放されるのは、日もとっぷり暮れていた。
「スザク…お前…なんで、友達を売った?」
半ば涙目になっているルルーシュがスザクを睨みつける。
「別に売った訳じゃないよ…。ルルーシュはああ云う格好似合うし…それに、一緒に写真撮ってくれるって云うし…。あ、僕、写真部に焼き増し頼んでおいたから…」
「俺はいらん!」
よほど疲れたらしく、スザクの支えがないと倒れそうになっている。
ああ云う情熱に燃えた時の女の力の恐ろしさを知った。
多分、黒の騎士団として、ゼロとして、ブリタニア軍と戦うよりもよほど、体力の消耗が激しい…。
「ルルーシュ…僕はうれしいけどなぁ…」
「何が??」
「だって、ルルーシュの特別な格好、僕が一番最初に見て、二人で写真を撮れるんだよ?」
スザクが心底うれしそうにルルーシュを見る。
すっかり疲れ切ったルルーシュをスザクがクラブハウスに送る。
「もう…絶対に男女逆転祭りはやらないぞ…」
準備段階からこんなに消耗していたら、身が持たない。
本番となれば、いろんな人間から追いかけまわされるのだ。
「でも…僕の前では時々…ああ云う綺麗な格好をして欲しいな…」
ぼけているのか、真剣に言っているのか…スザクは微笑むようにルルーシュを見る。
そんなスザクを深いため息で返すしか、その時のルルーシュには出来なかった。

『suzaku×lelouch short story』へ戻る
『Novel』へ戻る トップページへ

copyright:2008
All rights reserved.和泉綾