葛藤の先に…

白兜のパイロットがスザクだった…。
確かに、スザクがブリタニア軍に所属している事は知っていた。
そして、中から、ブリタニアと日本を変えていきたいと思っていた事も…。
ゼロの仮面を外しながら、ルルーシュは歯を食いしばり、クローゼットに自分の拳を力いっぱい叩きつける。
なぜ…どうして…
そんな言葉しか思い浮かばない。
でも、少し考えてみれば、スザクの身体能力で言えば、ナイトメアの操縦は、決して難しくはないことだろう。
スザクがナンバーズでなければ、すぐにでも、エースパイロットになっていてもおかしくはない程の能力があっただろう。
そう、幼いときに、巣から落ちた鳥のヒナを巣に返しに行った事があった。
その時にも、スザクは車の運転のゲームをしていただけで、実際に車を運転し、大人たちをまいたのだ。
そして、ルルーシュが何度もスザクに云った『体力馬鹿…』その言葉を裏切らない程の体力と身体能力…。
これほど、現代の軍隊にとって、重宝するコマはないだろう。
まして、ナンバーズともなれば、変に気を使う必要はないから、使い勝手がいい。
いざとなれば、そのまま使い捨ててしまえばいいのだから…。
使い捨てたとしても、誰も文句は言わない…。
ルルーシュ自身、スザクと再会できたことに安心していたのか、確かに、軍に身を置いていると云う事実を心配はしていたが、技術部に所属と云う事で、前線に出てくる事は…命のやり取りをする場に出てくる事はないと思っていた。
しかし、軍の技術部…当然ながら、戦術兵器を研究する機関だ。
その中で、テストパイロットは必要だ。
確かに、戦場で、ナンバーズがナイトメアへの騎乗は許されていない。
しかし、軍の詳しい決まりは知らないが、テストパイロットであれば、別に、問題はなかったのかも知れない…。

「あの時…無理矢理でも、連れ去っていれば…」
スザクがクロヴィス暗殺の容疑でジェレミアに捕まった時の事だ。
ルルーシュは、いつも、こうして、失敗している。
いつも、相手の意志を優先してしまう。
そして、後になって、『あの時…』と云う後悔を何度しているだろう…。
スザクがルルーシュの敵…。
否…そんな事は解っていた。
再会して、スザクがブリタニア軍人であると知った時から…スザクは、ルルーシュにとって敵だったのだ。
なのに、ずっと、気づかぬふりをし続けてきた。
知らないふりをし続けていた。
そして、結果が、これだ…。
下を向いて、歯を食いしばったまま、動けない。
ブリタニアは…ルルーシュから、何もかも奪おうとしている…そんな思いに駆られていた。
ルルーシュの望んだこと…ナナリーの居場所を作る事、自分の居場所を作る事、そして、母の仇を討つ事…。
ルルーシュとナナリーの居場所に、スザクがいなくては、何の意味もない。
そう思いはするが…。
でも、現実は、これまで、黒の騎士団を危機に陥らせてきた白兜のパイロットはスザクであったのだ。
スザクは、まだ、ゼロの正体がルルーシュであるという事を知らない。
スザクが、ルルーシュの正体がゼロだと知ったら…あの白兜で、ルルーシュを殺すのだろうか…。
あの白兜でルルーシュとナナリーの居場所を作ろうとしている事を邪魔しているようにしか見えていないルルーシュに、どうにも言いようのない思いが溢れてくる。

「ルルーシュ…」
「C.C.か…」
ゼロの部屋の扉が開いて、入ってきたのはC.C.だった。
「いつまで、そんな顔をしている…」
今にも泣きそうになっているルルーシュの顔を見て、ふっと笑いながらC.C.が相変わらずの口調で口を開く。
「お前は…云ったな…。どんな相手であろうと、撃つと…」
「……」
以前、そんな会話をした。
『撃たれる覚悟はできているが、撃つ覚悟は出来ていなかったか…』
そんな、C.C.の言葉が脳裏に蘇ってくる。
「撃つ覚悟はある…」
頼りない、力のこもらない返事をルルーシュが返す。
「なら、なんで、そんな顔をしている…。ゼロがそんな顔をしていると、団員に知られてみろ…。お前への信頼も失墜するんじゃないのか?」
「うるさい!」
あまりに冷静に、冷酷に話すC.C.に腹立ちまぎれにルルーシュが怒鳴る。
C.C.自身、ルルーシュがスザクを相手に、そんな簡単に引き金を引けるとは思ってはいない。
初めて、クラブハウスの自分の部屋にスザクを招いた時のルルーシュのあの態度で、それが一発で分かった。
だからこそ、C.C.はルルーシュに確かめた…念を押して…。
しかし、結局は、C.C.の予想していた事が起きている。
「ルルーシュ…お前にはもう、迷ったり、悩んだりする権利などない!おまえは、王の力を手に入れたのだからな…」
その一言を吐き捨てる様にその場に残し、C.C.は部屋を出て行った。

初めての友達…それが…最大の敵…。
撃たなければ、撃たれる…。
自分が撃たれるだけならいい…。
しかし、ルルーシュを撃ったと知ったら、スザクはどうするだろう…。
それに、ナナリーはどうなる?
ゼロの正体がルルーシュだとばれたら、アッシュフォード家もただでは済まないだろうし、ナナリーだって…
色んな思いが頭の中でぐるぐる回っている。
「撃たなければ…撃たれる…。俺には…守らなくてはならないものがある…」
『お前には生きる為の理由があるらしい…』
契約時のC.C.の言葉…。
そう、ルルーシュには生きる為の理由がある。
生きなければならない理由がある。
死なせたくないのなら、死なせない為の策略を考えればいい…。
スザクの性格、身体能力を考えた時に、かなり難しい事は解る。
でも、何か方法がある筈だ…。
スザクを…必ず、スザクを手に入れる…。
自分が作り出す、ナナリーの為の世界の為に…。
そのために、ルルーシュはゼロとなり、黒の騎士団を作ったのだから…。
その時に犯す罪の報いは、すべて、ルルーシュが受ける…。
スザクに恨まれても、憎まれても…スザクには生きて欲しいから…。
「その為に…俺は…悪魔とだって、契約する…」
自分の、今ある、切ない、辛い思いを今は無視するしかなかった…
ナナリーの為に…

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