今日も外は見事なほど晴れている。
こんな中で、体育の授業を受けるなど、冗談ではない…。
そうでなくても、体育が得意ではないルルーシュにとって、恨めしいだけで全く嬉しくない。
彼の親友、枢木スザクは体育の授業になると目を輝かせているが…。
「ルルーシュ…今日はサボっちゃダメだよ?」
相変わらずの無邪気な瞳でルルーシュに念を押してくる。
「…解っているよ…」
ため息を吐きながら、親友の発言に返事を返す。
正直、夏場の晴れの日の体育は好きではない。
夏と云えば、水泳の授業があるからだ。
スザクが来るまでは、女子のある意味、異様な視線に晒されていた事もあるし、スザクが編入してきてからは、スザクの筋肉の付き方、肌の色に落ち込む事が増えた。
正直、スザクに対しては八つ当たりだ。
まぁ、軍人で、体力馬鹿のスザクと比べること自体、間違っているとは、頭では解っているのだが…。
さらに、スザクが人目もはばからずにやたらとルルーシュの世話を焼くものだから、以前にもまして、女子からの何とも言えない熱い視線を感じる様になった。
水泳の授業になる前からその視線は感じていたが、水泳の授業に入ってからさらにその視線が強くなった気がする。
そんな理由もあり、できる事なら、体育の授業は極力避けたいのだが…。
軍人で人の気配には聡いスザクが、あの、女子の熱い視線を感じていない訳がないのだが、その辺を完全にスルーしている。
一度、その事をスザクに話した事があったが、
『いいじゃないか…これで、ルルーシュに言い寄る人が少なくなるだろ?』
そんな台詞を平然と吐いてきた。
確かに、二人は恋人同士となったが…それでも、一般的には男同志と云うのは好奇の目で見られるし、スザクは名誉ブリタニア人で、軍人で…そのような事を騒ぎたてられたらスザクとしても困るのではないかと思う。
『い…いや…お前、変な噂で騒がれたら立場的に困るだろう?』
『でも、軍隊って、そう云う事に対しては寛容みたいだし…大丈夫だよ…。ありがとう、ルルーシュ、心配してくれて…』
と、サラっと返されてしまい、今に至る。
素直に、自分が恥ずかしいと云えばよかったのかも知れないが、あのつぶらな瞳で
『ルルーシュは…僕と一緒にいるのが恥ずかしいの?』
などと言われてしまうと、どうにも返す事が出来なくて…。
クールで、他人に対して無関心を装ってはいるものの、スザクに対してはめっぽう甘いルルーシュである。
スザクはそんなルルーシュの事を知ってか知らずか(否、本当は解ってやっている自覚はあるのだが)、いつも、無邪気な顔をして、ルルーシュといちゃいちゃしたがる。
で、今日の体育の授業…。
ルルーシュとて、高校生男子の平均くらいの運動神経はある。
ただ、ルルーシュ自身、それほど体を動かす事を好まない事、不規則な生活で本人が考えているほど体力が維持できていない事などが、災いしている。
そして、昔から、体の線が細く、色も白い為、いつも、スザクの肉体を見ていると羨ましいと思う。
と、同時に自分が情けなくなり、落ち込んでしまう。
スザクは自分の事を軽々持ち上げるくせに、ルルーシュはスザクを抱き上げることなど到底できない。
否、腕相撲でも勝った事がない。
それで、ルルーシュが面白くない顔をしていると
『ルルーシュは、それでいいんだよ…。見た目も女の子みたいだし…』
そこまでいいかけた時にルルーシュの右手に作られた拳がスザクの顔めがけて飛んでいくが…
『おっと…』
と、言いながら、さらっと交わしてくれる。
そんな事を何度も繰り返していて…本格的にルルーシュは体育の授業が嫌いになっていった。
自分の八つ当たりだと云う事は良く分かっているのだが…それでも、何となく面白くない。
せめて…彼と同じくらいに日焼けできれば…とも思うが、ルルーシュの場合、いつも、真っ赤になって、ひりひりするだけで、その白い肌の色は変わらないのだ。
そんな自分を見ていて…さらに情けなく思ってしまう。
水泳の授業中…スザクの独壇場になる。
元々、体力馬鹿で、いつも体を動かしていて、子供の頃から、運動で彼にかなう奴など、見た事がなかった。
少なくとも、同年代の子供でスザクの運動能力にかなう子供は見た事がなかった。
そんなスザクを見て、ルルーシュは
(こいつ、生まれる家を間違えたな…)
と思ったものだ。
彼が、首相の家になど生まれず、運動選手の子供として生まれていれば、その実力をいかんなく発揮させることが出来たに違いない。
それが、その能力が今は、ブリタニア軍の為に貢献しているのは皮肉としか言いようがない。
スザクの独壇場が終わり、プールから上がってきたスザクがルルーシュの元に一目散に駆けつけてきた。
「ルルーシュ…どうだった?」
にこにこ笑いながらルルーシュに尋ねてくる。
「相変わらず、綺麗に泳ぐよな…お前…」
そんな些細な会話を交わしている間も、女子の視線が痛い…。
色んな意味が含まれているその視線…。
名誉ブリタニア人とは言え、スザクの人柄と運動能力のおかげで学園内ではかなりの好感度で今は学園内でその存在感を発揮している。
隠れファンがいると云う噂も聞いた。
恐らく、そのスザクがルルーシュをかまうからルルーシュへの敵意みたいなものも含まれているのだろう…と、そんな風に考えていた。
放課後、生徒会室で、久しぶりにメンバーが揃って生徒会の仕事をしていた。
「スザク君、ルルとのツーショット…凄い人気ねぇ…」
「お前らって…ホントはデキてるんじゃないのかぁ?」
リヴァルの冗談だと、ルルーシュがスルーしようとすると…ナチュラルにスザクが答えた。
「うん。僕、ルルーシュが好きだし…」
あまりに、自然に、ナチュラルに答えて、その返事に誰一人反応せずに会話を続けようとしていた。
「〇※×☆◇」
ルルーシュだけがその一言に口をパクパクさせている。
「ふ〜ん…やっぱりね…」
「そんな感じ…してたものね…」
「で、いつからなんですか?」
「!?」
ルルーシュの中では、この場の会話を理解する事が出来ず、口をパクパクさせていた。
「あら?ルルーシュ…どうしたの?」
「あ…あの…この場の会話って…一体、誰と誰の事を話しているんですか?」
ミレイの質問に、ルルーシュが質問で返す。
「ルルとスザク君の話に決まっているじゃない…」
「僕も、そのつもりだけど…」
ルルーシュは、このとき、この場にいる全員にギアスをかけて、今の会話の内容を記憶の中から消し去りたい衝動に駆られていた。
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